セドルの言葉
あの後兄の存在でお互いの素性が明かされたことにより、改めて自己紹介をすることになった。
ロストさんの本当の名前は、ロストニア・キュレール。キュレール王国の第三王子で兄とは同い年だということもあり、パーティーなどで顔を合わせたことがあったそうだ。ちなみにルルーシュは五つ年下だ。パーティーに参加できる年齢になった頃には、すでに彼は冒険者になっていたので面識がなかった。まさかこの辺境の地で王子と出会うなんて誰も思わないはずだ。
そして彼もまさか私がこの国の皇女だとは思いもしなかっただろう。私の場合は髪色を変えていたし、ましてや皇女が料理や商売ができるなど考えもつかない。それにバツイチ子持ち。皇女だと気づける要素は皆無だ。
「いやぁ冒険者になったとは聞いていたが、まさかプラチナ級だったとはな」
「俺には貴族社会より冒険者の方が性に合っていただけです」
「ははっ。ずいぶんと謙虚だな」
「いえ」
「それで?謙虚な王子があの花を妹に贈ったのかな?」
「…はい」
「意味はわかっているんだろうね?」
「もちろんです」
兄とロストさんの間に火花が散ったように見えたのは気のせいだろうか。二人の間に割って入るのは気まずい。だけどこのままにするわけにもいかないと思い、声をかけようと口を開こうとしたら先にロストさんが口を開いた。
「ルル殿と二人きりで話をさせてもらいたい」
「それを私が許すとでも?」
「……」
「……」
無言でにらみ合いを続ける二人。兄は私を心配してくれているのだろう。だけど当事者は私だ。それに私は彼がどんな気持ちであの花をくれたのか知りたいと思った。
「お兄様…」
「…はぁ。わかったよ。可愛い妹の頼みだ。私たちは外にいるから二人で話すがいい」
「恩に着る」
「これは妹のためだから王子は気にしなくていい。セドル。私と外で魔法の訓練でもしないか?」
「するー!」
「よし。じゃあ行こうか。二人も一緒に行くぞ」
兄がそう言ってセドルたちを連れて家の外に出ていこうとすると、セドルが何か思い出したかのように私の元へと駆け寄ってきた。
「ママ」
「どうしたの?」
「おみみかして」
どうやら内緒の話がしたいようだ。私はしゃがみ、耳を傾けた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。……あのね、ぼくせんせいのことすきなの」
「…そう」
「うん。だからね、せんせいがパパになってくれたらうれしい」
「っ!」
「えへへ。じゃあおそといってくるね!」
「……」
そう言ってセドルは笑顔で手を振り外へと出ていったのだった。