王子
あの時はこの花がゲームに出てくるダイヤモンドスノウだということを知らなかったので、彼の言葉の意味がわからなかったが、今ならわかる。
(ロストさんは、私のことが好きってこと?)
そんなことはないと否定したくても、輝くダイヤモンドスノウが目の前に存在する。
薬の材料として受け取ったわけではなかったので鑑定魔法を使わずにいたが、あの場で使っていればと思ったものの、使ったところでどんな返事ができただろうか。
(…私はロストさんのこと、どう思っているんだろう?)
常連のお客さん?
プラチナ級の冒険者?
セドルの先生?
どれも正しいはずなのに正しいと思えない自分もいて。
そんなことを一人考えていると、セドルと兄の会話が聞こえてきた。
「このおはなはね、せんせいがくれたんだよ!」
「先生?セドルの魔法の先生かい?」
「そうだよ!せんせいはすごくつよくてやさしいんだ!」
「魔法の先生と言えば、たしかプラチナ級の冒険者だと報告は受けていたが…。プラチナ級の冒険者なら信用に足ると思って油断した」
「あ、あのお兄様!私と彼はそんな関係ではなくてですね」
「その男がルルーシュに恋心を抱いていることが問題なんだ!」
「いや、でも勘違いの可能性も…」
「そんなわけあるか!ダイヤモンドスノウだぞ?これを何の意味もなく渡すバカはいない」
「ぼくもせんせいはママのことすきだとおもうけどな」
「セドル!?」
「だってせんせい、いつもママをうれしそうにみてるよ?」
「な…」
セドルの発言に驚くしかない。
「本当か?」
「うん!ほんとうだよ!」
「その先生とやらに会っていかなければな」
「ちょ、ちょっとお兄様!」
「…私と父は後悔しているんだ。私たちの考えが甘かったばかりにルルーシュに辛い思いをさせてしまったからな。ルルーシュに想い人ができるのは寂しいが、ダメだとは言わない。だが私たちが認める男でなければ、お前に嫌われようとも諦めさせるつもりだ」
「お兄様…」
以前の結婚はルルーシュのわがままだったのだから父と兄のせいではない。それなのに彼らは悪いの自分たちだと言う。それを聞いてルルーシュは家族から深く愛されているんだなと改めて感じた。
(私もその想いを返していけるといいな)
―――コンコンコン
「っ!」
そんなことを考えていると突然扉が叩かれた。こんな時間に誰だろうと思っていると、聞きなれた今話題の彼の声が聞こえてきた。
『ルル殿。店が閉まっていたがなにかあったのか?』
どうやら店が閉まっていたのを心配して来てくれたようだ。だがタイミングが悪い。
「あ!せんせいだ!」
そしてセドルの無邪気な一言でバレた。
「ほう。噂をすればだな。よし、私が出よう」
「お兄様!?」
兄はフードを被っていただけで髪色は銀色のままだ。銀色の髪はファンダル皇室の証。突然目の前に皇族、しかも皇太子が現れたら驚いてしまうだろう。だから兄を止めなければと思ったが一歩遅かった。
―――ガチャ
「ルルど」
「やぁ。君が私の妹にダイヤモンドスノウを贈った男かい?」
「…銀の髪」
「ん?ああ。私はカイラス・ド・ファンダル。この国の皇太子さ。それで君は……ってロストニア王子?」
「…皇太子殿下が、ルル殿の兄君?」
「あー、まさかルルーシュの相手がロストニア王子だったなんてな…」
「お兄様、待ってって…え?ロストニア、王子…?えっ?」
兄の言うロストニア王子とは目の前にいる彼のことなのか。私は自分が皇女だと彼にバレたことにも気がつかず、激しく戸惑うのだった。