突然の訪問
「はぁ…」
テーブルに飾ってある花を見つめながら、思わずため息が漏れた。
「ママ?ママー?」
「わっ!ご、ごめんね。どうしたの?」
「ごはんたべおわった!」
「じゃあごちそうさまを…」
「ママはまだおわってないよ?」
「あ。い、急いで食べるわね!」
目の前には食べかけの朝食があった。花を見ていたら思っていたより時間が経っていたようだ。私は急いで手と口を動かす。
花瓶に飾られている花はロストさんからもらったものだ。なぜ彼から花を貰ったのかというと、それが護衛の際に約束した頼み事だったから。
護衛をしてもらってから数日後に店へとやってきた彼は、『材料としてではなく、ルル殿に受け取ってほしい』と、私に花束を差し出してきたのだ。その花は見た目はカスミソウに似ており、花弁がダイヤモンドのように輝いていて、光の当たる角度によってはさまざまな色合いに見える。とても貴重な花だということは一目でわかったが、詳しいことは鑑定魔法を使っていないからわからない。鑑定して効能を知ってしまうと薬にしたくなりそうなので、この花に関しては鑑定はせずに家に飾っているのだ。また不思議とこの花を飾ってから時間が経っているのに、萎れたり枯れたりすることなく咲き続けている。
(それにこの花、どこかで見たことがあるのよね)
一体どこで見たのだろうか。そのうち思い出せればいいなと思いながら、朝食の片付けをしてレミアとケビンが来るのを待った。
―――コン、ココン、コン
この扉の叩き方はレミアたちだ。私は玄関へと向かい扉を開けた。
「二人ともおはよう」
「お、おはようございます」
「…どうかしたの?」
「あの、実は…」
二人の様子がいつもと違う。なぜか背後を気にしているようだが何かあるのだろうか。
「後ろに何かある…」
「ルルーシュ!!」
「きゃっ!…お、お兄様!?」
二人の背後から突然現れたのは、兄のカイラスだった。兄はイタズラが成功した子どものように嬉しそうな顔をしている。
「ああ、私の可愛い妹よ!」
「わっ!く、苦しい…」
兄からの再会の抱擁に息ができずにもがいていると、足元からセドルの声が聞こえてきた。
「ママからはなれろ!」
そう言いながら兄の足を叩いているセドルが視界に入った。
(っ!なんてママ想いのいい子なの…!)
母を助けようとする息子の勇気ある行動に、呼吸がままならない状況でありながらも、成長を感じて喜んでしまう私なのであった。