申し出
「まだ早いけど、今日はもうお店を閉めないと」
閉店準備に取り掛かろうとすると、店の入り口が開いた。
「すみません、今日はもう閉店で…って、ロストさん?」
店の入り口には常連であり、セドルの先生であるロストさんがいた。
「今日はもう終わりか?」
「そうなんです。何かお急ぎですか?」
「いや、ただ寄っただけだから大丈夫だ。ルル殿こそ何か用事が?」
「ええ。この後冒険者ギルドに行く予定でして」
「ギルドに?」
「はい。依頼をしに行くんです」
今日はいつもセドル達を連れて採取している場所ではなく、森の奥に採取に行きたいと考えていた。森の奥は獣や魔物が出る可能性もあるのでセドルはもちろん、セドルの世話と護衛としてレミアとケビンも連れてはいけない。しかしさすがに私一人で森に入るのは危険なので、護衛を頼むために今から冒険者ギルドに行く予定なのだ。
「どんな依頼なんだ?」
「えっと、護衛をお願いしようと」
「護衛?どこかに行くのか?」
「ええ。森の奥に薬草を採りに行きたいのですが、さすがに一人では危険でしょう?だから依頼をしようと思って」
「じゃあ俺にルル殿の護衛をさせてほしい」
「え?」
「ダメか?」
まさかの申し出に驚いた。ありがたい申し出ではあるが、さすがにプラチナ級の彼が受けるような仕事ではない。
「その、すごくありがたいのですが、ロストさん程の方に頼むような仕事ではないですし、大した報酬は払えなくて…」
「報酬はいらない」
「いえ、仕事を依頼するのですからそういうわけには…」
「では報酬は受け取る」
「でもそれだけじゃ…」
本当に大した金額の報酬ではない。どうすればいいのかと迷っていると、ロストさんから提案された。
「…じゃあ、一つ頼みを聞いてもらえないか」
「頼み、ですか?」
「ああ。どうだろうか」
「……わかりました」
彼の親切心をこれ以上断るのも失礼だと思い、私は提案を受け入れることにした。正直に言えば全くの初対面の人に護衛してもらうより、彼の方が安心できる。
「ありがとうございます」
「いや、俺が望んだことだから気にしないでくれ」
「ふふ。やっぱりロストさんは優しいですね」
「……それはあなただから」
「ロストさん?」
「護衛は今からか?」
「あ、はい。お店を閉めたらすぐに出掛けたいのですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「じゃあすぐに準備しますので、よろしくお願いします」
「ああ」
ロストさんに護衛をしてもらい、無事に薬草を採取することができた。
そして約束通り報酬を支払った後、私は彼からの頼みごとを一つ聞き入れたのだった。