魔法の訓練
「はぁ!」
「いいぞ!その調子だ」
「っ!ほんとう?」
「こら。最後まで集中しないとダメだ」
「あ!そうだった!」
「じゃあもう一度」
「うん!」
セドルが楽しそうにやっているのは魔法の訓練だ。あの日、セドルは私に魔法を習いたいとお願いをしてきたのだ。突然どうしたのかと思ったが、どうやらケビンが「セドル様は魔法も使えるので魔法剣士になれるかもしれませんね」と、剣の訓練中に言ったそうだ。おそらくケビンもロストさんの噂を耳にして、そのようなことを何気なく言ったのだろう。そしてそれを聞いたセドルが魔法を習いたいとお願いに来たというわけだ。
いつかは魔法を正しく扱えるように家庭教師を雇うつもりでいたが、まだ四歳のセドルには早いと思っていた。それにゲームのセドルはルルーシュの死後、七歳から魔法の才能を開花させていったので、もう少し大きくなってからと考えていたが、本人が望むのならと願いを叶えてあげることにしたのだ。
「今日はここまでにしよう」
「せんせい、ありがとうございました!」
セドルの言う『せんせい』というのはロストさんのことだ。なぜ彼が『せんせい』になってくれたのかというと、冒険者ギルドに魔法の指導の依頼を頼もうと思い、彼に相談したのだ。冒険者ギルドを利用したことがなかったので、このような依頼でも受けてもらえるのか教えてもらおうと思い聞いてみると、「俺が見ましょうか」と申し出てくれたのだ。プラチナ級の冒険者である彼に頼むのはなんだか申し訳ないと思ったが、セドルの希望もあり彼にお願いすることにしたのだった。
「ママー!」
セドルが手を振りながら私に駆け寄ってくる。
「お疲れ様。上手だったわね」
「えへへー」
「ロストさん、いつもありがとうございます」
「いえ。俺も楽しんでやってるので、気にしないでください」
プラチナ級の冒険者で、おそらく貴族出身であるにも関わらず傲慢なところもなく謙虚な彼には好印象しかない。セドルもよく懐いている。
「ママ、おなかすいたー」
「いっぱい頑張ったものね。じゃあご飯にしましょうか」
「わーい!」
「ロストさんもどうぞ」
「…いつもすまない」
「いえいえ、お気になさらないでください。むしろこれくらいしかお礼ができなくて申し訳ないわ」
「いや、そんなことはない!ルル殿の料理はとても美味しいから、いつも楽しみにしているんだ」
こういったところがなんだか可愛らしくも思えてくるし素直に嬉しいなと思う。
「ふふ、ありがとうございます」
「せんせいもママのりょうりすきなの?ぼくもすき!」
「っ!…ああ、好きだ」
「!」
料理が好きだと言われただけなのだが、なんだかドキドキする。それは近しい者以外からの好意に慣れていないからか、彼の表情がどことなく真剣だったからかはわからない。
「えへへ。じゃあぼくとおなじだね!」
「そうだな」
「さ、さあ!手を洗ってね!」
「はーい!」
「ロストさんも!」
「あ、ああ」
「……もう」
二人から離れた私は頬に慣れない熱を感じながら、料理の仕上げに取りかかることにしたのだった。