出会い(ロスト視点)
俺はあの日、彼女に一目惚れをした。
俺の生まれはキュレール王国だが、今は国から出て各地を巡っている。特に拠点は持たず気の赴くままに旅を続けていたら、いつの間にか冒険者ランクがプラチナ級になっていた。俺は剣と魔法の才能に恵まれていたが貴族社会には馴染めず、兄が二人いることもあり、早くに家を出て冒険者となった。
そして冒険者として初めて訪れたファンダル帝国の辺境領で、回復薬を買おうとギルドでおすすめの店を聞くと彼女の店を教えられたのだ。最近できた店だが薬の品質が良く、値段も手頃らしい。ただ女店主が一人でやっていることもあり営業時間が短いので、行くなら早めがいいとも教えられた。
帝都に向かうつもりだったので辺境領に長く居るつもりはなかったが、せっかく教えてもらったのでその店に行ってみることにした。
店に入り作業をしている店主に声をかける。
「ここは薬屋であってるか?」
「はい。何かお求めですか?」
声をかけるとマスクをした女性がこちらに振り向いた。顔の大部分がマスクで隠れているため表情はよくわからないが、青の瞳が印象的だ。
「冒険者ギルドでここの薬はよく効くって評判を聞いてな」
「そうなんですね。あのすみません、あと少しで終わりますのでお待ちいただけますか?」
「ああ、かまわない」
「ありがとうございます」
そう言って彼女は再び背を向け作業を始めた。俺は言われた通り待つことにし、店内を見て回る。店は小さいながらもよく手が行き届いているなと感じた。きっと店主は気配りができる人物なのだろう。
「お待たせしました!」
そんなことを考えていると、どうやら店主の作業が終わったようだ。俺は店主に返事をしようと振り向き顔を見た。
「いや、大丈…っ!」
時が止まったかと思った。先ほどはマスクで隠れていてわからなかった美しい顔。遠くからも印象的だった青の瞳。客を迎え入れるための笑顔だと頭では分かっているのに、あの綺麗な瞳に吸い込まれそうな感覚に陥った。
「お客様?」
「……」
「あの、どうかしましたか?」
「…あ、いや!な、なんでもない!」
「そうですか?」
「あ、ああ」
なんでもないと言ったが店主は不思議そうな表情だった。俺は美しく着飾った女性を社交界でごまんと見てきても心が動くことなどなかったが、今彼女の瞳に自分が映っていると考えただけで胸の鼓動が高鳴った。しかし初対面の客、それも男にそんな風に思われたら不快にさせてしまうかもしれない。そう思いなんとか普通を装った。
「今日は何かお求めで?」
「…回復薬を一つお願いしたいのだが」
「回復薬ですね。…はい、こちらになります」
「助かる。…また来てもいいか?」
どうしてもまた会いたいと思った俺の口から思わず言葉が漏れた。
「もちろんです。実際に使ってみてお気に召しましたら是非ともまたいらしてくださいね」
彼女からは店主として当然の返事が返ってきたが、また会える口実ができたことに嬉しさを覚えた。
「…また買いにくる」
「お待ちしてます」
それから頻繁に店へと通い、常連として彼女に名前を覚えてもらうようになるまでそう時間はかからなかった。
こうして俺は長居する予定のなかった辺境領に長くとどまることになる。