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【ダーク】な短編シリーズ

完璧で行き届いた夏祭り

作者: ウナム立早


 しばらくの間、私は入り口で待機をしていた。正直なところ、どこからが夏祭りの入り口なのか判別できないが、今、立っている場所がそうらしい。


「お待たせ! 早速行きましょー!」


 やたら元気のいい声とともに、彼女がやってきた。ピンク色の髪にピンク色の浴衣、胸元には艶やかな肌色も、多分に見えている。


 そんな彼女を横に侍らせて、まず金魚すくいをすることにした。


 なかなか難しかったが、網がわりと丈夫で、長く挑戦することができた。2匹掬った時点で、狙いすましたかのように網が破れた。


「終わっちゃったね、ちなみにそれ、正式には『ぽい』っていうんだよ」


 唐突に豆知識を披露した彼女に金魚を持たせ、次は射的の出店を覗いた。


 景品はギフトカードらしい。何人かの先客が真剣な表情で銃を構え、3000や5000と記載された薄いカードをにらんでいた。


 私は手堅く、傾いて倒れやすそうな1000を狙った。


 だが何度か当てても、多少動くだけで、全然倒れない。900円分の代金を払ったところで、まるで糸が切れたかのように吹き飛んだ。結局、収支は100円プラスだ。


「そろそろわたあめでも食べに行こ?」


 食べ物はあまり期待していなかったのだが、せっかくなので彼女の提案に従うことにする。


「はい、わたあめ2つね!」


 いかにも職人な見た目のおっちゃんが、その場でわたあめを作っているようだ。袋に詰められて売っているものは無い。


「お待ち!」


 1分もかからず、白い塊が私と彼女に提供された。顔を近づけると、明らかに私の口よりも大きい部分が、消えてなくなった。彼女に至っては、もう食べ終えている。


 しばらくして花火が上がった、フィナーレらしい。


 綺麗な花火だった。花や星、魚といった象形だけでなく、ゲームやアニメのキャラクターやVTuberまで、それとはっきりわかるほどの完成度だった。


「はーい、終了です! みんなありがとー!」


 カプセルの蓋が上がり、眩しい光が目に飛び込んでくる。


「バーチャル夏祭り、楽しんでいただけましたかー?」


 さっきまで横にいた彼女は、巨大なモニターから数十機のVRカプセルに向けて、にこやかに手を振っていた。


 私はうんざりして会場を後にした。


 一匹も掬えなかった金魚すくい。

 決して倒れない景品がある射的。

 口の周りにべたつくわたあめ。

 見る角度が悪くて残念な印象の花火。


 そういうものは、あの夏祭りにはなかった。


 完璧で行き届いた夏祭りなんて、一度行けば十分なのだ。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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