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しあわせのたくしー  作者: 月美てる猫
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第一節 乗務員デビュー前 第二種免許の取得 その5

人間界へ潜入して「敵」の動向を探るためにタクシー会社へ就職した精霊のギンレイは、乗務員デビューを早期に実現するために教習所での過密スケジュールをこなし路上テストに臨む。免許取得に必要な講習や路上での実習は、生き物である人間と、動物との狭間に立つ精霊としては難しい選択を迫られることもあった。



第一節 乗務員デビュー前



第二種免許の取得 その5 路上のキツネ



 今日は自動車学校を卒業する日だ。と、言っても、路上テストに合格したらの話だ。運転には自信がある。過信はしないがクラッチ、ハンドル、確認作業はぬかりない。講習中もあの女性教官から「ていねいすぎるくらい完璧」と太鼓判を押されている。

 最初は人間界の流儀に戸惑った。交差点での安全確認はキツネのギンレイは左右同時に見ることも可能なのだが、右を見て左を見てと教わり、左を見ている最中に右がおろそかになったらどうする?左折時は巻き込み確認をしている間に前方がおろそかにならないものか?死角に注意というがそもそも死角ができる乗り物を運転して良いものなのか?などと人間からすれば天邪鬼(あまのじゃく)な疑問を数多く持ったがいまは「そういうもの」と理解し、きちんと交互に右左を見るなどの人間的動作をしている。

「かもしれない運転」の意味もわかった。あまり深く考えすぎていると前へ進めない。危険予測にはある程度の妥協が許される。そして約束のない「譲り合い」の心を頼りに人間達はこの危うい動作を繰り返しているのだと思うことにした。

 とにかく教本に書いてあることは全て暗記をした。その通りに動作をし、教えられた通りにコースを回るのみだ。


 教習所に行くと受付で「外に用意した車に乗るように」言われる。車両は教習所構内のコース外駐車場に用意されていて、すでにミンクが後部座席についている。

「おはようございます。私は2番目とのことでした。お手並み拝見しますね」

 そうニヤリと笑い、

「鉄塔の下のあいつはどうしますか?」

「ああ、大丈夫。見ていてください。よかったら貸しますよ」

 そう言って片足を上げてシロクマのソックスを見せた。

「ふふ、いや、けっこう。それはこの日のために使うものだったんですか」

「いや、違いますよ。ただ、今日はこいつの実験してみようと思っていました」

「試験中に実験とは余裕ですね。彼らのユニフォームになるんですね」

「ええ、まあ」

 そんなやりとりをしていると建物から教官と河合がやってくる。

「おはようございます。今日の体調は万全ですか?」

 試験にはいつもの女性の教官が助手席に乗り、後部座席にはミンク、と、もうひとり、

「銀さん、私も一緒に試験に参加します。応援していますからね」

 路上試験の判定をする認可を受けている教習所だが、ルールとして、後部座席に誰かを乗せなくてはならないらしい。事務職員の河合がその役目ということのようだ。

 

 ギンレイは車両に凹みなどの外傷がないかの点検をし、ボンネットを開けてクーラントやバッテリー液の不足がないか、ベルトの緩みがないかなどの点検をする。エンジンをかけ、ライトや方向指示器の不点灯がないか、ブレーキランプは教官に車から降りて見てもらい点灯することを確認。運転席についてミラーの角度を調整し、「安全のためシートベルトの着用をお願いします」と席についている「乗客」に言い、後方、左右、をミラーと目視で確認の上、ウインカーを点灯させて発進する。


 教習所を出る手前で一時停止をし、左右確認の上、巻き込み確認をしながら左折をして路上へ出る。天気は良い。体調も万全。霊力を使わなくても人間力で課題をこなす。


 二種免許では一種と異なる課題が3つあり、ひとつは乗客を乗せる、または降ろす想定での「停車」。そしていわゆるUターンの「転回」、そして構内に戻ってからの「挟角」走行。

 100点満点の80点で合格とされるが、ミラーまたは目視での安全確認を逐一していたかどうかの減点が大きい。例えば出発の際にルームミラーを見なければマイナス10点、降車する際に窓から後方の安全を目視で確認しなければマイナス10点。走行中も、方向指示器を出してからの安全確認をしたかどうか、安全確認をしてからハンドル操作をしたか、の減点がこまごま入るとすぐに5点、10点と、減点が加算されるので進路変更や右左折は要注意である。

 特に、右左折時、横断歩道のストライプに足がかかった歩行者がいるにもかかわらず進んでしまった場合は即刻試験中止となる。また、右折待ちの際、交差点手前で停車中にセンターラインを踏んで停止した場合も試験中止に。また、右折時に侵入する交差道路のセンターより右へのはみ出し、つまり右折中に対向車線へ侵入と判定された場合も失格となる。


「銀さんなら大丈夫、リラックスしてね」

 この教習所に来て間もない頃はギンレイの運転にイライラしていた女性の教官も今日は穏やかな表情だ。よく我慢して付き合ってくれたと感謝している。後部座席にいる河合もよく親切に接してくれた。ミンクも気の利いた助言をしてくれてありがたい学友だったと思っている。


(鉄塔の下、いますよ)


 ミンクのささやき声が耳に聞こえる。いつも通りすぎる鉄塔にヒグマの姿をした魔物がいて、飛びだしてきてはヒヤリとさせてくれた。霊力の弱い魔物なので人間の造作物である車両には影響しないが、黒い影がサッと横切るとドライバーである人間も精霊も一瞬ビクリとする。魔物としては何等かの理由でそこにいて、自動車を運転する人間達に注意喚起をしているのだろうと、いまは思っているが、今日はギンレイにとって教習車を使った最後の走行なので少しこちらから脅かしてやろうと準備をしていた。

 教習所を出てすぐ、鉄塔のそばにさしかかると黒い影がちらつく。いつもなら、「ガオウ」と吠えて飛びかかってくるところだ。ギンレイは左足をタンタンと足踏みする。すると、

「ウオウッ」とソックスのシロクマが飛び出してヒグマに襲いかかるしぐさを見せる、ヒグマの魔物は驚いてのけぞりしりもちをついた。

 ヒグマもシロクマも河合や教官には見えていない。クスクスと笑うミンクとギンレイに少し教官と河合がけげんな顔をする。ルームミラーにヒグマへ説教をするシロクマの姿が見える。シロクマ柄のソックスはギンレイが霊気を溜めて宿した怪獣であり、タクシー会社が組織する地域防衛隊に利用の提案をしようと思っていた。

 

「次の交差点を超えたところでお客様が降りますので停車してください」


 停車の課題が教官から告げられた。世間一般の「実際」はともかく交通ルールでは交差点では停車をするものではない。そして今回、交差点を超えたところにはバス停があり、バス停のそばでも停車はできない。減速をし、

「お客様、バス停がございますので少し過ぎたところで停車させていただきます」

 そう言って、交差点とバス停を少し過ぎたところで停車する。特に何も言われない。合格であろう。ウインカーを右に出して再び発信する。発進してしばらく直進していくと、


「次の交差点で右折をして、その次の交差点に入る前に転回をお願いします」


 と、次の課題が入った。

 ウインカーを右に出し、後方、右の確認をして進路変更をし、交差点で前方から来る車が途切れるまで待機。右折を完了すると転回するための準備で停止する場所を探す。住宅地の車庫前を避けてさしつかえない路側帯横に停止し、後方からの後続車両が途切れ、前方から車両が来ないことを確認し、Uターンする。

 特に問題はなかったようだ。教官は何も言わない。そのまま真っ直ぐ直進すると川にかかる橋を渡ることになるが、橋の上に何か感じるものがある。


(キツネだ・・・)


 あと5、6百メートル。キタキツネの死体が橋の上に横たわっている。動物の死骸が道路にあることは珍しくない。犬や猫、ネズミ、蝶やトンボやハエ。山でも道路でも動物が命を落とすことはやむを得ないことであり、自動車がそれらを轢いてしまうことも自然界での許容範囲と、精霊界では認識されている。人間界においても同様であり、それらをいちいち弔うようなことはしなくてもよいはずだが、日常生活の中でギンレイはそのような動物を見つけたときには道路から救い上げ、後続の車両やクマやシカに踏まれない場所まで移動する。

 いまは試験中だ。交通量の多い道路、しかも橋の上に車両を停車させて動物を拾うようなことは普段でもできない。あと50メートルという橋の手前の信号機は青だが、ギンレイはどうしたらよいかと考えながら減速をする。

「青だよ銀さん」

 横で教官が今日初めてイライラして見せる。減速していると信号は黄色になり赤になる。50メートル先、少しアーチに盛り上がった橋の路上にある障害物には4名とも気づいている。いつ轢かれたのだろうか。橋の上というわかりやすい場所だけに通りかかるドライバーはうまく車体の真ん中が通過するよう、タイヤで踏みつぶさないように通っているのだろう。死体に損傷は少ないように見える。

 

 教官は当然にもギンレイはうまく車体の真ん中が通過するよう走行するものと見ているだろう。

 左に見える歩行者用の青信号が点滅し、左の信号が黄色に変わる。前方の信号が青信号に変わった。

 

 ギンレイはウインカーを左に出し、教習車を車道脇にとめ、運転席から降りて道路に出る。トランクから洗車後のふき取りをする布を見つけ橋の上まで走り、後方から来る車両が途切れるのを待って車道に出てキツネを布でくるむ。身体が硬く冷たい。死後数時間は経過しているのだろう。

 教官と河合は車を降りて道路を渡って橋のたもとまできていた。ギンレイは教官と河合の横を無言で通りぬけキツネをかかえて川まで降りる。川岸はおおかたコンクリートで固められていたが、地面が見えるところを探し、見つけてそこへキツネを置く。そのままにしておけば近所の人達から薄気味悪く見られるかもしれない。布をかぶせておいては川岸のゴミになる。キツネを隠す葉や土は無いかとあたりを見渡す。まだ春浅いためフキの葉なども生えていない。ギンレイはそこら中の枯草を集めてはかぶせる。枯草はそのあたりだけでは足りず10メートル、20メートルと離れた場所からもかき集めてはかぶせ、ようやくキツネの死体が見えなくなるくらいになると、川岸を登り教習車へ戻った。車両に備え付けられていたアルコール製剤で手の消毒をし、運転席に座ってエンジンをかける。河合と教官はすでに車に戻っていた。


「転回して元のコースに戻ります」


 ギンレイはそう言い、左右後方の確認をして右にウインカーを出し、Uターンをして信号を左折する。道路にキツネの亡骸はないが、キツネの霊魂がまだそこにいた。ギンレイと霊魂の目が合いお互いにうなずいた。


「はい、次の信号を右に曲がって、つきあたりをまっすぐ行ってください」


 何事もなかったように教官はコース指示をする。教習所が近づいてきた。鉄塔が見えてくる。ヒグマとシロクマは仲良く肩を組み、交通安全の旗を振っている。鉄塔を過ぎて、交差点を右折し、教習所の裏手から構内に入って、構内コースを走行する。

 最後の課題、狭所にさしかかるといつもの黒い魔物が出てくるが軽く会釈をし、左にハンドルを切って停止、後方確認しながらゆっくりとバックをして左いっぱいにハンドルを切って狭所を曲がりきる。外周を一周して、元の停車位置に車を戻した。


「はい、銀さんお疲れ様でした。それでは交代してください」


 ギンレイは後部座席につく。隣の河合がじっとギンレイを見つめた。ギンレイは何も言葉を発することなく、うつむき加減にだまって前方の助手席シートを見ていた。


 ミンクがあの橋にさしかかったとき、窓から橋の下を見ると、枯草で隠されたキツネのそばにキツネの霊がいてこちらを見ていた。ギンレイはふたたび黙って前を向き「これでよかったんだ」「さっき通りかかってよかった」そう心の中で言い聞かせていた。試験に不合格であることも(いさぎよ)しと考えた。


 ミンクは無難に課題をこなし、今日の試験は終了した。


 教官から講評があり、

「ふたりとも運転はよかったですよ。右折のタイミングは交差点の30メートル手前の更に3秒前からということはよく覚えていてくださいね。合図をして目視確認してから進路変更です。歩道から伸びている白線が30メートルですから、それを目印にしてください。タクシーは乗客に振動や左右、前後の揺れをなるべく少なく感じさせることも重要です。右折のタイミングは余裕を持って、無理に素早く曲がらなくていいんだと思って欲しいです」

 と、簡単なコメントをしたあと、

「試験の結果は校長から申し渡します。いつもの学科の教室で待機していてください」


 そう言って解散となる。「ああ、それと」別れ際、教習所の建物に入ろうとするギンレイとミンクが教官へ振り返る。

「銀さん、教本にも出ているように、タクシーには死体や動物を乗せることはできませんからね。盲導犬以外、犬や猫などの小動物は、ゲージに入れるなどが必要です。特に野生動物はウイルスや寄生虫を持っている場合があります。動物に限らず路上の障害物を発見したときには一人で判断せずに無線で本社からの指示を仰ぐようにしましょう」

「はいわかりました」

 教官はギンレイをじっと見つめ、


「銀さん、あなたはよいタクシードライバーになると思いますよ」


「ありがとうございます」


 ミンクがギンレイを見つめ、先に歩いてゆく。教官と河合もギンレイがおじぎする姿をじっと見つめ、通用口の方へ歩いていった。


 教室へ入ってミンクとふたり席についてだまって前をみていたが、ミンクが、

「ソックスはどうするんですか」

 そう尋ねる。ギンレイは両足に靴下を履いていない。一足は鉄塔の下に、もう一足は川原にある。

「あとで回収しに行きますよ。プリント部分だけ飛び出すように改良しなくては」

 そう言って苦笑いする。ミンクは軽くうなずいて、その後はふたりとも無言になる。


 あれでよかったのだろうか、そんな問いかけをミンクにしようとしてやめた。


 動物の魂と亡骸はどこが一番居心地がいいのか、それはわからない。死んだ場所の近くがよいのか、静かな山の中がよかったのか。あのキツネは人間を恨むのだろうか、そんなことも考える。


 野山であれば放置する。人間の生活道路であっても自分含めた精霊達はそこが死に場所で寿命と割り切るのが普通だ。人間も同じだろう。往来の妨げになるとか、不衛生だとか思えばちょっと道端に寄せるとか市の環境課に連絡を入れるまででよい。心情的にも「かわいそう」「嫌なもの見ちゃった」くらいの感想でいい、「自分が車を運転するときは気をつけよう」くらいの気持ちがあれば充分だろう。道端で死ぬ生き物はキツネに限らず虫も植物も数限りない。いちいち気にしていてはキリがない。動物が道端で死んでいても見過ごして構わないのは人間の文化なのだ。だからそれはそれでよいのだ。道端でキツネが死んでいたら、見過ごしてもいいのだ。

 

「あれはただの障害物だった」

 

 無意識にギンレイは言葉に出した。言葉を発してまた宙を見つめた。ミンクはギンレイの言葉に反応せず、ただ黙って教室の前方を見ている。


 今日はその障害物に対して少し過分な対応をしたかもしれないとギンレイは省みる。昨日、あの応急救護の講習を受けたからそういう対応をしたくなったのかもしれないなどと思う。


 路上で命を落とすのは人間も動物も、落とすものは「同じ命」だ。だが果たしてそうだろうか。人間の場合はその後の補償、警察の手配、お葬式の手配など、いろいろあるから大変だ。動物より人間の命の方が重いと主張する人間がいても大多数の人間は「その通り」とうなずくだろう。だが、それは人間の思い上がりであり、命の重さに変わりないだろうと思うのはギンレイの本音だ。

 動物が道端で倒れていても人間のように複雑な対応、手厚い弔いをするべきなどとは思わない。せめてひとりでも多くのドライバーがあのキツネを踏まずに通過しながら、哀れみの心をたむけてくれていたであろうことを願うのだ。

 半死半生の人間であったならば応急救護はドライバーの義務である。キツネは轢かれた後、何台もの人間が乗る自動車が通り過ぎていく中、すこしずつ熱を失い身体を硬直させていったのだ。自分にできるあの死後数時間は経過していたであろうキツネへの弔いは枯れ草をかぶせるのが精いっぱいであった。


 

「私がとうに捨ててしまった感情をまだお持ちになっているんですね」

 

「え?」

 

「あ、いえ、なんでもありません。独り言です」


 

 ギンレイはミンクの独り言を聞いていなかった。ギンレイとミンクが何となく見つめあっていると、校長が教室に入ってきた。白髪まじりで縁の黒いメガネをかけた初老の男性である。

「ふたりとも路上試験は合格です」

 そう言ってにこやかに修了証を渡す。ホッとするギンレイがため息をついた。

「これで本校での二種免許取得に向かっての課程は修了です。お疲れ様でした。なお、明日は運転免許試験場で筆記試験です。ぜひ優秀な成績で合格して免許を取得してくださいね」

 校長からの話はそれだけだった。校長は教室を出ていく。


 ギンレイとミンクは席を立ち、ミンクは、


「よかったですね。私もあなたはよい運転手になると思いましたよ」


 そう言ってミンクは外へ出て行った。


 教官やミンクの言葉は至高の励みだった。



 ギンレイが教室を出ようとすると校長が戻ってきて、

「銀さん、ちょっとお話しが」

「え、なんでしょう」

「タクシー会社の社長さんから聞いているかもしれませんが、週に1度ここへきて教官を務めて欲しいと思っております。教官資格取得のための講習や審査を受けていただいてからになりますが」

「それは初耳でしたが」

「私はねえ、この学校に魔物が住んでいると思っているんですよ。権左衛門さんは魔物の退治をなさっていますよね。あなたを派遣して力になりたいとおっしゃってくださいましてね」


 校長も霊気をまとったモノであった。この教習所に潜む何かを解明したいと思っているとのことだ。会社の澤本も「乗り物」に関係する場に魔物が出るようなことを言っていた。人間界と霊的なモノとのかかわりを探るうえでは都合がいいかもしれない。

 昨日の村上が言った、この教習所に関わらないで欲しい、という言葉が少し気にかかるが。


「わかりました。ただ、何ぶんまだ免許も取得していない身です。就職したら社長の指示を仰ぎます」

「よろしくたのみますよ」

 校長と握手を交わした。手のひらから魔力を感じた。


 教室を出ると河合が立っていた。「それでは」と校長が離れていくと、河合が、

「銀さん、よかったです。合格おめでとうございます」

 そう、ロビー中に響くような大きな声で祝福し、

「また学校に来てくださるんですね。嬉しいです」

「はあ、そのようですね。またよろしくお願いします」


 河合は満面の笑みでギンレイを見送った。タクシー会社に就職して魔物退治に関わるのはよいが、その前に免許を取得して就職して、タクシー乗務員としてやってゆけるかどうか、自信をつけなくてはならない。最初のお客様と決めている大王様の送迎がうまくいくかどうか、そこが最初の課題になる。


 鉄塔まで歩いてゆくと魔物の姿はなく、シロクマはエネルギーが尽きたのか「右足のソックス」に戻っていた。ソックスを拾ってみるとソックスの中でシロクマは疲れたのだろうか、眠った絵柄になっている。

 あの川へ向かった。橋に立つと道路は何もなかったようにネズミ色のアスファルトしかなく、そこをひっきりなしに車が往来している。橋の上から川岸を臨むと枯草を積んで少し盛り上がったところに白いソックスが落ちている。

 川岸まで降りて左足のソックスを拾う。シロクマには「カラスなどが死体を荒らさないよう見張っているように」命じていた。疲れたのかやはり眠った絵柄になっている。


 あのキツネの霊魂は見えない。亡骸と共に安らかに眠っているのだろう。




路上試験に合格していよいよ免許取得は学科試験を残すのみ。ギンレイは人間の姿を持ちながらも中身は精霊です。悩ましいことがたびたび起こりますが、タクシードライバーとしての職務を全うしまながら人間界に潜む闇へ迫ります。

 

*このお話しは連載中の「しあわせのたぬき」  

 https://ncode.syosetu.com/n8347hk/

 シリーズもの別編です。

 

*2種免許試験、講習の内容、スケジュールや手順は各都道府県により異る場合があります。

*文中にある道路の構造、右左折の方法、停車の方法などは全ての道路事情にあてはまることとは限りません。

*タクシー会社新入社員の講習内容、規定、新人研修期間は各協会、各会社毎に異ります。


*このお話しはフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

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