第二節 最初の客 その1
20日の最短日数でタクシー乗務員デビューを果たしたギンレイだが、さまざまな想定外の失敗や事件に遭遇するのであった。
*このお話しは連載中の「しあわせのたぬき」
https://ncode.syosetu.com/n8347hk/
シリーズもの別編です。
第二節 最初の客
その1 初めての客
午前6時「おはようございます」と、1階事務カウンター前へ入っていく。この時間に点呼を取る乗務員が2列になって並んでいる。この会社は乗務員の生活スタイルに配慮して日勤者の点呼は午前4時30分から7時15分までの間に幅を持たせ、それにあわせて常に事務係り員が24時間の体制で待機している。夜勤者が午前3時30分から午前5時に車両を車庫入れして夜勤と日勤の交代となるのだが、日勤者の始業時点呼は、およそ朝の5時か6時か7時の3パターンで定型化されているようだ。そして日勤者が営業を終えての終業時点呼は夕方の15時30分から17時の間に行うもの、とやはり幅を持たせている。
例えば、朝の5時10分に事務カウンターで点呼を取った乗務員は乗務前の車両点検、帰庫後の洗車、車内清掃、日報記入や現金処理などの乗務営業以外の作業と休憩時間を含む実働8時間の拘束10時間以内で事務カウンターへ戻り、午後17時をめどに15時10分までに終業時の点呼を取って帰宅する。
例えば、16時に帰庫するのを常にしているドライバーが、手を挙げた客を会社前で15時58分に乗せた。そんなときは当然にもいつもの16時には帰庫できず、超過した時間は残業となり残業報告書を提示する。残業がかさんできた月は月末締め前の数日間は時間調整の指示が入り、16時前の早めの帰庫をして帳尻を合わせる。
夜勤の事務係りは夕方17時から午前5時までの拘束12時間勤務とされ、仮眠を含む4時間の休憩時間を取る。車両が24時間営業をしていることから、乗務員の点呼もさることながら、事故や苦情などへの対応に備えるために常に社員が待機している。
この会社の場合、部署は4部門に分かれ、ひとつは乗務の運営、管理、営業の業務を請け担う事務センター、ひとつは事故や苦情に対処する業務センター、ひとつは顧客からの電話やインターネットでの受注を請け負う無線センター、そして車両のメンテナンスを請け負う整備工場がある。
点呼を取る事務センターのカウンターには常に2名の事務員が待機している。ギンレイの順番になり、事務員が点呼の仕方を教えてくれる。
「ああ、新人さんだね。今日からよろしくね。私は高橋といいます」
横にいたもうひとりが、
「渡辺です。よろしくお願いします」
高橋は「人間」、渡辺は精霊のようだ。この事務所に何度か入ってチラチラと様子を覗っていたが、事務員で精霊と人間の姿を持っているのは澤本と渡辺の2名のみ、2階の無線センターは6名いるようだが全員が人間と思われる。
高橋が点呼の仕方を丁寧に教えてくれる。
「列に並びながら壁に貼っている注意事項に目を通しておいてください。同じ内容の説明を点呼の時にもう一度口頭で伝えますが」
そう言って掲示板の方を指さす。住民からの苦情や警察からの指導事項、期限切れクーポンの取り扱い厳禁、などの注意事項が貼りだされている。
「先ず、このアルコールチェッカーです。免許証をカードリーダーにかざして、点呼のスイッチを入れてください」
アルコールチェッカーの機械についている「点呼」のボタンを押すと、機械音声で「息を吹きかけてください」と案内があり、支給されていた自分専用の「ストロー」を機械に差し込んで息を吹きかける。「アルコール度数は正常です」という音声案内があり、続いて、液晶画面に「睡眠は充分にとったか」「風邪の症状はないか」等の質問事項が出るので、いちいち「OK」のボタンを押す。
「アルコールチェッカーでの点呼が終ったら私達事務員が銀さんの名前が入った日報用紙と、車両のキーと、乗務員証と、メモリーカード、この4点をお渡し、そして今日の注意事項をお伝えします」
といい、高橋はそれらをギンレイに手渡し、掲示してある注意事項を説明する。
「高橋さん、他の乗務員の点呼を高橋さんにお任せして僕は銀さんと一緒に日常点検をして出庫の段取りを教えますが」
「ああ、そうだね、6時の点呼者も落ち着いてきたし、そうしてもらおうか」
渡辺がカウンターから出てきて、「さあ車のところへ」とギンレイを誘う。渡辺は、
「車は研修でお乗りになっていた3999号車ですがいま、整備工場にありますから」と言い、二人は外の駐車場へ出る。
「話が通じる精霊のドライバーが入ってくれて嬉しいです。ある意味、僕らの方が話が通じない奴らかもしれませんけどね」
ギンレイは歩きながら、
「何もわからないことだらけで、とにかく先ずはタクシー乗務員として早く一人前になりたいです」
「久しぶりの新人さんですからね、みんなでフォローしますよ。無線配車は新人には他の乗務員に優先して流しますから、お客がつかなくて困るようなことはありませんから」
「そうなんですか」
乗客をひとりも見つけられなかったら、と、内心不安に思っていたギンレイである。渡辺が、
「無線を取りたくないベテラン乗務員もいますがね」
それはどういう意味だろうか、と考えていると、社屋を出て駐車場を横断した向こう側の整備工場が近づいてくる。3999号車の横で齋藤が出迎えた。
「ギンちゃん、久しぶりだね、と言っても覚えていないかな」
「あれ?知り合いだったんですか」
渡辺が「意外」そうな目で二人を見る。
ギンレイが、
「故郷で子供の頃一緒に遊んでいました。ホテルの中で駆けっこしたり避難用の縄梯子で遊んだりしてよく番頭さんから電撃を喰いましたよ」
「番頭さんから電撃?」
「ふふ、よく覚えていてくれたね。あ、今日は初乗務で渡辺さんが日常点検のレクチャーだね。3999号車は仕上がっているから、渡辺さんやってていいよ」
そう言いながら、齋藤は整備工場前のアスファルトをホウキで掃除している。油汚れが目立つツナギを着ていて、「車両整備士」が板についている印象だ。
「では銀さん、日常点検は日報に記載のある50項目です。OKであればㇾ点チェックを入れてください」
渡辺に促され日常点検を開始する。ボンネットを開けてクーラントやバッテリー液などの不足が無いか、オイルは濁っていないか、ベルトにゆるみが無いか、などを見る。外周に凹みが無いか、エンジンをかけてライトが点灯するか、ハンドルにガタつきはないか、など一通り点検する。点検が終ったら運転席の機器類を見る。無線機のボリューム、領収書にロール紙がセットされているかどうか、ギンレイはひとつひとつ丁寧に点検をする。
「ギンちゃん、これ、洗車後のふき取り用タオル」
と、齋藤がタオルを3枚ほど手渡してくれる。
「同じ車に乗るのが決まっているなら日常点検は少し時間の節約ができるよ。バッテリー液やウィンドウォッシャー液はそんなに消耗しないし、ミラーの位置や座席の位置も固定されるだろうから。アルコール製剤を使ったシートの除染も帰庫の時か出発の時のどっちかでいいはずだよ、ね」
渡辺にあいづちを打つ。
「ええ、厳密に言えば全員毎日全項目ですが、銀さんの点検はとても丁寧すぎて、もう1時間近くになります。少し時間短縮する意味でもそのあたりは割愛してOKですよ」
事務所の方から澤本が走ってくる。
「渡辺君、そろそろ事務所に戻って。7時の人達が来ているから。齋藤さんにあと任せていいよね?」
齋藤がうなずく。
「ああ、いいですよ」
「トレーナーの大林さんが言ってたよ、銀さんはとても几帳面だって。ワイパー動かして元の位置と1ミリくらいずれててもいいんだからね」
澤本はそう言い、渡辺が事務所の社屋へ戻っていくのを見ながら、
「ギンレイさん、ここはもう切り上げて乗務に出てくれるかな、お客さんが待っているから」
「え、タクシーのお客さんですか?」
「そう、本当は乗務員の指名はダンピング防止で禁止事項なんだけど、どうしてもって、あまりにもしつこいから無線センターで受けちゃったらしいの。出勤後の出発準備で少し時間を頂きますって条件つきで。北側の駐車場出口から出て左に左折したら白っぽい服装の女の人が立っているから、その人を乗せてあげて」
「へーっ、早速ご指名とはすごいね」
齋藤が冷やかすように言うと、澤本が、
「でもね、もうかれこれ1時間近く待たせてると思うから、早く行ってあげて」
そう言って、澤本も渡辺のあとを追うように事務所棟へ走っていく。
「ギンちゃん、マフラーがぐらついていたのは直しておいたから。3999号のこと、帰ったらまた相談しようよ。空を飛ぶときの手順とか」
「えっ、えっ、空を飛ぶ?」
思わず3999号車が口を出す。
「まあ先ずは今日のところは営業に専念したらいいよ。いろいろと悩ましいことが起きるかもしれないけど、応援しているからね」
「ありがとう、サイゴン」
「はっはっは、その名前覚えていてくれたんだね」
齋藤ことサイゴンはギンレイとは同郷の友だ。若くしてビントウに見いだされ配下の部隊に入ったあとはあまり顔を合わせていなかった。「修行に出る」と言って故郷を離れ、もう数十年になる。クナイ使いの名手で、狙った魔物には百発百中。また、手先が器用で人間の造作物を修繕する腕前は人間の職人も舌を巻くほどであった。
3999号車の運転席でメーターにメモリーカードを差し込み、助手席のダッシュボードにある電光掲示に乗務員証を差し込み回送から空車へ変える。無線機とタブレット端末に乗務員コードを入力し、さあいよいよ出発というとき、メーター機の空車ボタンを押すと、
ププー ププー ププー ププー
無線機が鳴り、機械音声で
「本社社屋北側歩道、電話予約、女性、お名前かわい様 迎車にて向かい乗車の際にお名前を確認」
という案内があり、「さきほどの澤本の情報だ」と、あわててシートベルトを着用し、前後左右の安全確認をし、サイドブレーキを解放してギアをローに入れてゆっくりと発進する。
「気を付けてねー」
齋藤が手を振るのをミラーでちらりと見、駐車場を出る際には一時停止をして、左右の歩行者、自転車がいないことを確認しながら、ゆっくりと車道に向かいながら、右手から来る車が途切れたのを確認し、もう一度歩行者がいないことを確認して左折をすると、すぐ2、30メートルのところに白い服装の女性が立っている。
「お待たせしました」
ミラーと目視で安全確認をしながら乗客が乗りやすいドアの位置で車両を停車させ、運転席の座席横にあるレバーを引いて後部座席のドアを開ける。お客様がドアに手や足を挟まぬよう、完全に手足が車両の中へ入ったことを確認し、
「それではドアを閉めますのでご注意ください」
と言って、初めて「初めての乗客」の顔を見て、少し驚く。
「河合です」
乗客がにっこりと笑う。
「あの、河合様ですね」
「はい、そうです」
自分を指名した上1時間も待っていた初めての乗客が自動車学校の事務員だということに戸惑いつつ、
(しまった!車内に入れる前に名前の確認だった)
と、顔を真っ赤にして悔やむ。混雑したスーパーやホテルへの迎車で予約ではない人を乗せてしなった場合は激しい苦情となると聞いている。
しかもメーターを「迎車」にして走るのを忘れていることに気が付き、またどぎまぎする。そんな落ち着かない様子を見て、河合は自分が乗ったことで緊張しているのだろうか、という勘違いをし、
「あの、銀さんの一番最初の乗客になれて私も嬉しいです」
と、河合も顔を真っ赤にしてうつむく。
しばらくの間があり、気を取り直したギンレイが基本話法を思い出しながら、
「お、お客様、どちらへ参りますか?」
と、聞くと、
「は、はい、自動車学校までお願いします」
「どちらの道を通りますか?」
「はい、ここをまっすぐです」
自動車学校は会社の北側を走る幹線道路を3キロほど走った右手にある。こういうわかりきった目的地の場合はマニュアルにある「どちらの道を通りますか?」は不要かもしれない、などと考えながら、
「かしこまりました。シートベルトの着用をお願いします」
言うより早く、河合はシートベルトを着用していたことに気が付き、また赤面する。
「落ち着け、落ち着け」と、心に言い聞かせ、その自動車学校で習った通り、後方、左右をミラーで確認し、目視で左右を確認して方向指示器を右に出して、サイドブレーキを解放してギアをローへ入れ、もう一度右手の安全確認をしてゆっくりと車を進める。発進と同時にメーターを「空車」から「賃走」へ変える。車の電光表示が「賃走」になった3999号車は緊張気味の運転手と乗客を乗せて幹線道路を進み始めた。
ギアチェンジを段階的に5速へ上げ、ピタリ制限時速の50キロで走行する。途中の見通しが悪い交差点、路側帯を走る自転車を見た際には減速をし、ミラーと目視を合わせた確認をしながら進む。自動車学校を右手に見ながら、信号のある交差点の30メートル手前の更に3秒前に方向指示器を右に出し、後方と右手の安全確認をしながら車をセンターラインへ寄せて青信号の交差点で待機、車が途切れたところで後方と横断歩道の安全確認をしながらギアをセカンドでゆっくりと右折、そのままセンターラインへ車を寄せて、自動車学校駐車場へ入る手前30メートルの3秒前で方向指示器を右に出し、前方から車が来ないことと、歩行者がいないことを確認しながらゆっくりと歩道を越えて自動車学校の敷地へ入り、自動車学校の正面玄関前で停車するが、
「申し訳ありません」
ギンレイが後部座席にいる河合を向いて謝り、
「どこで降車ご希望なのかをお聞きしていませんでした。ご希望の場所はどちらでしょうか」
河合はにっこりと笑い、
「ここでいいですよ。おいくらですか?」
と言う。
ギンレイは、「申し訳ございませんでした」と、もう一度神妙な顔をして頭を下げ、メーター機の「賃走」を「支払」にし、
「750円です。お、お支払方法はどのようになさいますか?」
「現金でお願いします」
そう河合は言って、小銭入れをバックから取り出し、丁度の金額を運転席左斜め下にあるトレーに乗せる。ギンレイは、
「750円ちょうど頂きました。領収書はご入り用ですか?」
「いえ、けっこうです。あの、銀さん・・・」
「は、はい、何か」
「これを・・・」
小さなブーケの花束だった。受け取り、花と河合の顔を交互に見る。
「乗務中は邪魔になるかもしれないと思ったのですが、何かお祝いの品をお渡ししたくて、それとこれ、もしよかったら使ってください」
キーホルダーだった。神社で買ったもののようだ。「交通安全」の札とカエルの鈴が付いている。
「あの、もしお花が邪魔でしたら、私が持ち返りますが」
「あ、いえ、このダッシュボードの横のすきまに置きます」
そう言って、運転席の右前、くぼんだところにブーケを置く。
「よかった、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
しばらく河合が動かずにいるのを見て、
「あ、あ、ドアを開きます」
ギンレイは運転席座席右手のレバーを引いて後部座席横のドアを開ける。
河合は
「銀さん・・・」
「はい、何か」
「銀さんの運転、とても素敵でした。安全運転で・・・、とても素敵でした」
河合はそう言い、もう一度「ありがとうございました」と言いながら外へ出る。
ギンレイはドアを閉め、ひとつ息を吐き、後続の車が来ないことを目視とミラーで確認して、ギアをバックに入れてウィンカーを左に上げ、駐車場内で方向展開をして場内から出ようとする。
ビビビビビ
と、メーターからエラー音が出る。メーターが「支払」のままだった。このまま走行していくと、メーターは支払が未完了の認識で走行距離に応じて金額が加算され、収支は現金過不足となる。歩道の手前で停車し、「支払」から「合計」を押して「空車」にして決済完了とする。
歩道の歩行者がいないことを再確認し、接近してくる車がいないことも確認して左折で幹線道路へと向かう。
ミラーに映った河合はギンレイが自動車学校の敷地から出るまで見送ってくれていたようだった。
河合はいつも自動車学校で見かける姿と違って見えた。人間の女性にも女性のファッションにも全く興味がないギンレイでも「着飾っていた」ことはわかる。頭髪も以前とは違った。故郷でよく見たゼンマイのように丸まった箇所があり、ほのかに香水の匂いがした。
「ハクション」
ひとつくしゃみをする。ギンレイは香水の匂いが苦手だった。路肩に停車してブーケを手に取り花の匂いをかぐ。ギンレイは生花の匂いは大好きだ。キーホルダーを見つめる。カエルはキタキツネにとっては食糧だが、神社のお守りとセットになると縁起のよいものに見えるし、見ていると霊力が高まる気がする。
「無事カエルように、か」
ブーケとお守りを両手に取ると河合が自分に贈ってくれた祝いの気持ちがわかる気がする。
「ハクション」
またくしゃみをする。香水の匂いがまだ車内に残っている。窓を少し開けて深呼吸する。
河合を乗せてからの自身の運転を省みると反省点がいくつもある。
メーターの操作を誤ったこと、ドアの開閉、予約者かどうかの確認、シートベルト着用を促すタイミング、そして、行き先の確認。目的地が一直線場にあったにもかかわらず「どの道を通りますか」と聞いたことはまだ許されるだろうが、自動車学校まで行って、と言われて、「正面玄関」とすぐに思いこんだのは大失敗だと思った。
乗客によっては、自動車学校の隣に住んでいる人が「自動車学校まで」と言う場合もあるだろう。そこで働いている人であれば、「正面玄関」ではなく「職員通用口」つまり、駐車場に入るのではなく、自動車学校建物の裏手にまわるべきだったかもしれない。時間は午前7時、まだ自動車学校は開講前だったはずなので正面玄関は開いていなかっただろう。車両をメンテナンスする整備係りは早めの出勤をするので通用口ならば開いていたはず。おそらくギンレイを見送ったあと河合は建物の反対側へ歩いたことだろう。
河合はギンレイが初めて乗務員としてタクシーを運転させることを祝福するために1時間近くも自動車会社の前で待っていてくれた。その乗客を降車後に歩かせる場所で降ろしてしまった。
社長の権左衛門が、「先ずは乗務に慣れるよう」言っていた。「粗相のないように」とも言っていた。その意味がわかった。ハイヤー協会での講義や、会社での新人研修では気づけない、学べない、様々な乗客をこなさなくてはわからない様々なケースにおけるサービスの手順を習得すること。それはとにかく数をこなさなくてはだめなのだ。
「あまり考えすぎないほうがいいですよ。完璧なタクシー運転手などめったにいませんから。完璧な運転手でも間違うことはよくあります」
3999号車が慰めてくれる。
ネズミが、
「いまの人、すごく感じのいい人でしたね。人間にしては」
ニシン達も人間を間近で見るのが初めてで緊張気味だったがネズミの言葉にウンウンとうなずき、クンクンと香水の残り香を嗅いでいる。
運転手の仕事が雑だと、ニコニコした人も感じのいい人も怒り出すに決まっている。自分がきちんとしなければ、と改めて肝に銘じるのだった。
最初の客をなんとか無事にこなしメモリーカードには乗車1件が記録され、収入も得た。だがこのあとこの一日はギンレイにとって試練の連続となるのだ。
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最初のお客様は優しいひとでよかったですね。でもこのあとはそういう「人」ばかりではなさそうです。
*このお話しは連載中の「しあわせのたぬき」
https://ncode.syosetu.com/n8347hk/
シリーズもの別編です。




