過去へ 【月夜譚No.183】
タイムパラドックスを起こさないよう、慎重に行動しなければならない。己のどんな行動が未来にどう作用するかなんて、判らないのだから。
正直、過去に来るのは怖かった。タイムパラドックスの件もそうだが、再びあの光景を目にすることが怖かった。
だが、それでも彼は過去へ飛んだ。何が何でも、あの事件の真相を突き止めなければならないからだ。
この商店街の隅で待ち伏せをしていれば、必ず奴がやってくる。それを待って、尾行をするのだ。
緊張で、握り締めた掌に汗が滲む。喉も渇いたが、水の用意もしてこなかった。
知らず力が入っていた目元を緩め、澄み渡った青空を仰ぐ。以前の空はこんなにも綺麗だったのかと、彼は息を吐き出した。
未来を変えようとは思わない。ただ、事件の真相が知りたいのだ。
彼は大きく息を吸い込んで、商店街の人通りに視線を戻した。