エピローグ 思い、続く限り
万聖節前夜。
この世とあの世…「幽世」の門が開き、死者の魂や怪物達がこの世に溢れ出るとされる幻の夜。
それは「本来あり得ない邂逅」が起こるとされる幻想の時間でもある。
しかし、それはひとときの奇跡でしかない。
いずれ、終わりは訪れる。
ロウ「こうして顔を合わせるのは、いつぞやのクリスマス以来か。元気だったか、公務員」
巡「ええ、おかげさまで。ロウさんもお元気そうですね」
ロウ「まーな。腹が減っている以外はいたって健康だぜ」
頼都「本当に相変わらずだよな、極貧ガンマンはよ」
ロウ「おたくらの世界みたいに、こっちは食い扶持が溢れてる世界じゃねぇからな。その日暮らしの宿無し風来坊にとっちゃ、これが当り前よ」
巡「ご苦労されてるんですね…」
ロウ「お前に言われたら、ある意味おしまいだな」
頼都「そこは同感だ」
巡「え?僕ってそんなに苦労人ですか?」
頼都「本人の自覚が無いってのが一番の悲劇だな」
ロウ「だな。俺が悪かった」
巡「お二人共、どうしてかわいそうなものを見る目で僕を見るんです!?」
ロウ「まあ、それはさておき…今夜ももうすぐお開きか。あっという間だったな」
頼都「毎年思うんだが、これっていつまで続くんだ?」
巡「何だか、うんざりしてる感じですね?」
頼都「感じじゃなくて、心底うんざりしてるんだよ」
ロウ「お前の厭世家ぶりも相変わらずか」
頼都「長生きしてるとな、色々とだるくなるもんなのさ」
巡「僕はずっと続いて欲しいって思いますけどね」
頼都「ハイハイ。お前ならそう言うと思ってたぜ」
ロウ「どうしてだ、公務員?」
巡「僕達、本当はつながりはあっても、基本的には別々の世界にいる存在じゃないですか。でも、この夜だけは、こうやって出会うことが出来るんです。それって、とってもすごくて素敵なことだと思いませんか?」
ロウ「『The 主人公』ってな回答だな」
頼都「まさに模範的な回答だな。倫理的にも」
ロウ「カボチャの旦那は別意見のクチか?」
頼都「まぁな。今のこの瞬間は、呑気に顔を突き合わせている連中だがよ、事と立場によっちゃ敵対する奴らだっているんだ。どうにも落ち着かねぇんだよ」
ロウ「へぇ…案外ビビリなんだな」
頼都「別に。ただ面倒くさいだけだ」
巡「そう言いながら、頼都さんはちゃんと毎年顔を見せてくれるんですよね」
頼都「仕方ないだろ。嫌でも連れ出されるんだからよ」
ロウ「俺は別に気にしねぇけどな。実害があるわけじゃないし」
頼都「例の『お便りコーナー』では散々な扱いなくせにか?」
ロウ「あー、アレな!少しひどくないかアレ!ってか、毎年だぞ毎年!一体どういう教育してんだよ、カボチャの旦那!?」
頼都「知るか。俺はノータッチだし、そもそもあいつに関しては何を言っても無駄だ」
ロウ「お前の部下なのにか!?」
頼都「ああ、俺の部下なのにだ」
ロウ「…ぐうの音も出ねぇな(汗)」
巡「まあまあ。いいじゃないですか、毎回のお約束みたいになりつつありますし」
ロウ「お約束で毎度毎度出した手紙を消滅させられてもなあ(汗)」
頼都「…で、お前さんはこの後も付き合うのかよ?このお祭り騒ぎに」
ロウ「そうだな…まあ、乗りかかった船だし」
陽想華「うむ!退屈しないしな!」
巡・頼都・ロウ「「「うわっ!ビックリした!!」」」
陽想華「何だ、大の男が三人もそろって情けない」
頼都「仕方ねぇだろ!何の脈絡も無く出てきやがって!」
ロウ「いたのか、お前!?」
陽想華「勿論だ。私も一応主役級だからな…!」
巡「あれ?主人公はどっちかと言えば書記の打本さんなんじゃ…?」
陽想華「細かいことはいいじゃないか!細工品タイトルに『生徒会長』とある以上、主役は私しかいない!」
頼都「ポジティブだな」
ロウ「質の悪いお前みたいだな」
巡「どういう意味ですか!?」
陽想華「何はともあれ、こうして主人公たちが一堂に会したんだ。何か盛り上がることをしようじゃないか」
頼都「んじゃ、手っ取り早く派手にバトルか?」
ロウ「お、悪かないな」
巡「何でそうなるんです!?」
陽想華「そうだぞ。それでは私と十乃氏は分が悪すぎる」
頼都「んじゃ、どうすんだよ?」
陽想華「ここは一つ、お互いの親交を深め合うために、懇親会などどうだろう?」
ロウ「いいねぇ!文なしだが!」
巡「いいですけど、詩騙さんはお酒はダメですよ?未成年だし」
陽想華「むぅ…一応、私は特別住民だから、問題ないと思うのだが、仕方あるまい」
頼都「やれやれ…お祭り騒ぎの後にまたお祭りか」
巡「お嫌ですか?」
頼都「あん?」
巡「お祭り」
頼都「…ハッ、ヒマつぶしには悪くねぇ」
ロウ「素直じゃねぇなぁ」
陽想華「それが十逢氏の持ち味だ。甘いカボチャのスイーツとはわけが違いということだよ」
頼都「何だそりゃ」
ロウ「…」
頼都「何だよ?俺をジッと見て」
ロウ「いや、お前って…美味いのかなって」
頼都「…ふざけてると、燃えカスにするぞ?」
ロウ「じょ、冗談だよ冗談!」
巡「さ、行きましょう、皆さん。早くしないとお店がしまっちゃいますよ」
頼都「へいへい」
ロウ「俺は肉が食いてぇな、肉!」
陽想華「うむ!同意しよう!」
喧騒が遠退いていく。
本来はあり得ない邂逅の余韻のみが後に残る。
それは誰かが…あるいは物語たちの紡ぎ手が抱いた、ささやかな夢なのかも知れない。
しかし。
この夜がある限り、幻想は真実となり続けるだろう。
くり返し、幻の夜が来る限り…
【END】