9.百面相の魔術師
追放物ではお馴染みの敵さんサイドの話!
「――それはですね」
私の説明を聞き入る間抜け共の面を拝みながら内心でほくそ笑む……とうとう、とうとうやってやった!
あの忌まわしい半端の裏切り者を! コチラの手勢を尽く単身で退け続けた隻腕の男をついに遠ざける事が出来た!
何度あの男に苦渋を舐めさせられた事か……それに私の正体にも勘づき始めていたからな、正体を突き止められる前に追い出す事が間に合って良かった。
「……つまり、ここ最近聖王都まで起こる様になった人攫いを調査すればいいんだな?」
「えぇ、そうです。前金として一人あたり金貨五枚という破格の待遇も魅力的です」
数多くの仲間たちを屠ってきた最大の障壁は居なくなった……ここいらで本格的に行動に移す。
目の前の三人は何も疑問に思ってないだろうが、この依頼自体が内通者を通して仕組まれた罠だ。
聖王の血を引いていながらその出自から疎まれ、王族の中でも雑に扱われているリオン王子という存在を生み出す為にどれだけ大掛かりで遠大な計画が立てられた事か……まさか最後の収穫という段階に入って躓くとは思わなかったぞ。
「――報酬はどうだっていい」
「……は?」
何を言っているんだコイツは? またお得意の正義感に溢れた綺麗事か? ……お前のそういう所がムカムカするんだよ。
「俺が遺失物を探しているのは王位を得る為だ」
はっ! これから暗い未来しかないお前がどうやって聖王になるんだか……
「微妙な立場の家族を救いたいという、始まりの動機こそ不純かも知れない……だが、聖王を目指すなら民を見捨てる事は出来ない」
「ま、お前ならそう言うだろうな」
「私はリオン様となら、何処にでもついて行きますよ」
何を思ってそんな宣言を改めてしたのか分からないが、こんな臭い茶番を見せ付けられる方の身にもなれよ――
「――では、その様に手配します」
内心とは真逆の表情を貼り付けて、私は下等生物共に同調して見せる――
「あ、あの……今、さら……なんで、す……け、ど……」
「……なんだ?」
王子達に追い付き、離れた場所から危険がないか様子を窺っていると控えめにアビゲイルから声を掛けられる。
子ども好きのアリサが母性か何かを爆発させた結果として彼女も同行させる事になったが、彼女の『金属ならだいたい自由にできる』という破格の加護のお陰でかなり助けられているのは事実なので大抵の質問には頑張って答えよう。
「そ、の……王子、が護衛……も付け、ずに……危な、い……の……では、な……いです、か……?」
「「……」」
そのある意味当然と言えば当然の疑問に対して俺も、すぐ近くで聞いていたであろうアリサも思わず黙り込んでしまう。
リオン殿下は仮にも伝説の聖王の血を引く直系の男子王族だ……超大国である聖王国でなくとも、普通は王族という存在は厳重な警護が敷かれて当たり前であるべきだ。
そんな大事な存在がなぜ王城から飛び出し、さらにはろくな護衛も付いていないのかと疑問に思うのは当然の事だ。
「あっ、いや……そ、の……答え、にく……い……質問、をし、て……も、申し……訳……」
「あ、いや……気にしなくていい」
俺とアリサの様子から自分が不味い発言をしてしまったとでも思ったのか、涙目になって慌て始めるアビゲイルを宥める。
アリサと一緒になって頭をグリグリと撫で回し、目を白黒させているアビゲイルの様子に苦笑しながらも口を開く……と、言ってもあまり答えにはなっていないと思うが。
「……勝手に死んでくれた方が良い王族も居るという事だ」
頑張って、何とか少し長めの説明でもこれくらいしか言える事はない。
案の定とも言うべきか、俺の説明に怒りこそはしないがアリサは不機嫌そうな顔をする。
そんな俺のよく分からない説明と、それに対するもう一人の反応を見てアビゲイルもこれ以上は踏み込まない方が良いと考えたのか困った様な顔をして両手の指を絡ませながら俯く。
それっきり黙ってしまうが、元々誰かとの会話が苦手な娘だ……自分の質問のせいで変な空気になったとなれば、こうなってしまうのは仕方がないだろう。
「……ふむ、ちょうどいいか」
「あん? ……あぁ」
「えっ……?」
さて、どうやってこの場の微妙な空気を誤魔化そうかと考えていると、戦闘中の王子達を陰から狙う不穏な集団を発見する。
口下手な俺や、先ほどまで考え込んでいたアリサではどうにも出来ないと思っていたところだ……本来の任務内容でもあるし、彼らには体の良い話題転換となって貰おう――
――おかしい! 何故だ何故だ何故だ何故だ?!
「ぐっ、……くそ!」
小さく吐き捨てながら何度も何度も開始の合図を送るが、一向に自らの手勢が現れない。
「おいウーゴ、どうした?」
「っ! い、いや! なんでもありませんよ……」
「? そうか」
そうこうしている内にせっかく香魔術で誘き寄せた魔獣達も王子共に殲滅されてしまった……コチラは計画通りに動いているというのに、奴らは何をしているのか?
何の為に私がこうやって下等生物に下げたくもない頭を下げ、何を考えてるのか分からんイレギュラーにいつ殺されるのかと怯えながら頑張って来たと思っている?
何故こうも上手くいかない? やはりあんな奴らと手を組んだのは間違いだったか!
「くそっ! 使えん奴らだ……!」
「ウーゴさん、どうしたんですか?」
「……いえ、なんでも? ただ先ほどの戦闘で付いた汚れが中々落ちなくて困ってるんですよ」
「なるほど、ウーゴさんは綺麗好きですものね」
チッ、いちいち癪に障る女だ……世界は全て綺麗なもので出来ていると信じて疑わず、常に王子の傍に侍る売女め。
コイツの綺麗事のせいで何度もあの野郎を追放するのに失敗した。
何故だ、どうして、なんで……何が原因で私の計画があと少しというところで上手くいかない?
「……あと少しなんだ、なりふり構ってなどいられんか」
ここはもう、多少不自然でも適当な理由を付けて『人攫い組織の拠点を見付けた』として、無理やりにでもコイツらを誘導するか。
どうせ成功すればコイツらは死人に口なしとなるのだから、変に疑われてここまで積み重ねてきた信用を損ねたりするのは必要経費だと割り切ろう。
「お前らのせいだからな――」
手勢が潜んでいたであろう方角を睨みながら一人呟く……どうして私が下等生物の尻拭いをせねばならんのだ――
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敵だけどウーゴさんも苦労してそう()




