2.冤罪その2
本日2話目!
と、そんな雰囲気をぶち壊す怒声が王子の後ろから響いてくる。
確認せずとも王子の言葉を遮ったのがウーゴだと分かるが、また奴か。
「……どうしたウーゴ」
「コイツの罪はそれだけじゃない! アレンはパーティーの軍資金を着服している!」
「なんだと?」
ほう、コイツ……もちろん俺はそんな事をやっていないが、わざわざ罪を捏造してまで追い出そうとするか。
生来の気質もあってか元々パーティーメンバーと交流が深かった訳ではないが、だからこそ明確な悪意を持って貶められる理由が判然としない。
「そのような事実はない」
とはいえ、ここはきちんと否定しておかねば中立寄りのヴィルヘルムやコーデリアまで、俺を追い出すべきだと言い出しかねない。
「そうだ、流石にそれは何かの間違いではないか?」
む、これが虚偽の申告だと分かるのは俺とウーゴ本人のみだが……確証もなく鵜呑みにするほど王子も愚かではないし、いきなり疑われない程度には俺も信用があると見て良いのだろうか。
そもそもこの捏造にどんな意図があるのかは現時点では不明だが――王子のため、怪しきは排除するか?
「――ッ!!」
……なるほど、普段の様子からは分からなかったが、ウーゴは俺のささやかな殺気に反応する程度の実力を隠し持っていた様だ。
「し、証拠だってある! そ、それにコイツは貴方様の母君なら取り入る事も容易いと侮辱し、さらには妹君にまで手を出そうとしておられたのです!」
その瞬間空気が一気にピリつくのが肌で分かった……主君の名を利用された俺の殺気か、家族を侮辱された王子の怒りか。
自分達でも無意識下の内に漏れ出たそれらの感情がこの場の雰囲気を悪くさせる。
「……嘘ならお前も容赦はしないぞウーゴ」
「う、嘘ではありません! 私はしかとこの目で見たのです!」
王子、というよりは俺の方をしきりに気にしながらウーゴが珍しい写像魔術を発動させる。
そこには俺が自らの主君であり、王子の母親であるミレーユ殿下を貶める発言を繰り返しており、さらに場面が変わって今度はまだ未成年であるミーア殿下に言い寄る俺の姿が映っていた。
写像魔術は本来であれば自らが見聞きした物しか映せない筈だが……コイツ、こんな器用な真似も出来たのか。
「……アレン、なにか申し開きはあるか」
危うく俺に襲われそうになり、恐怖から泣き始めるミーア殿下という映像を背景に……王子は静かに、何かを押し殺すような震える声で俺に問いかける。
「……俺は、やっていない」
自分でも『あぁ、これは無理があるな』と思いながらも否定する。
一般的に写像魔術は自らが観測した世界の記憶を反射させる事で過去を再確認するという性質のため偽装できないとされており、また扱える者も少ない為に不意打ちで出されると反証が難しい。
しかしそんな抵抗も虚しく、続く『あの世間知らずの親子なら簡単に取り入れると思った』といった旨の発言が流れた事でこの場での負けは確定した。
「――出ていけ!」
まるで信じていた者に裏切られたような、酷く傷付いた顔のリオン殿下が生の感情を剥き出しにして叫ぶ……そんなに歪むお前の顔を見るのは何年ぶりだろうか。
いずれにせよ、今の状態の殿下に弁明しても無理だろう。ここは一旦退いてミレーユ殿下に判断を仰ぎに行くべきか。
「お前が、そんな奴だとは思わなかった……!!」
「……そうか」
俯くリオン殿下から背を向け、部屋を後にする――
「……」
その際にリオン殿下を虚偽の申告で唆したウーゴを横目に見ながら、王子に一度だけ致命傷を防ぐ結界を張っていく。
王子自身も強く、その実力には信頼があるのでこれさえあれば離れていたとしても何かあった時に自分が間に合うだろう。
――だが、ウーゴ、ここに来てお前は目立ち過ぎた。
何の目的があって俺を貶めたのかは知らないが、お前の正体を暴くその時まで……精々今のうちにほくそ笑んでおけ。
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主人公のイメージはゴブスレさんとワンパンマンのジェノスを足して2で割った感じ。