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16.ゴリ押し

筋肉だ、筋肉さえあれば大抵の事は解決する――


「知っているぞ、お前『鬼子母神』のアリサだな?」


「……」


 まんまと王子やアレン達と分断されたとイラついていたところに上から声が降ってくる……それに片眉を上げて反応しながらガンを飛ばす事で返事とする。

 まさかこの巨人が喋るとは思わなかったが、そんな事よりも『舐めた口利きやがって』という感情が強い。

 シンプルに舐められていると思った。生意気な奴がオレを馬鹿にして、オレも馬鹿にされていると感じる……本来ならばその瞬間にぶっ飛ばすところなんだがな。


「話せるとは思わなかったか? 私は元々ここの職員だ」


「……ほう、じゃあおメェも同罪って事だな?」


 バキバキと拳を鳴らし、口角を吊り上げ、殴る大義名分を得たと嗤う……こういうふとした拍子に元ヤンだった時の顔が出てしまう。

 もはやオレの中では目の前の巨人も小さな子どもに手を出すゲロ以下の非生物の仲間であり、殴りがいがある肉袋(サンドバッグ)でしかないが……ここにアレンが居たらと考えると乙女的によろしくないので多少は自重しなければならないな。


「見ろ! この美しい肉体を、我々の研究の成果である――」


「――うるせぇ!! 寝ろッ!!」


 踏み込み一つで地面を踏み割り、そのままの勢いで跳躍……一瞬の内にすぐ目の前まで迫った気色悪い顔面に拳を叩き込み、衝撃に巨体が後方へと吹っ飛んで行くのを見送りながら舌を打つ。


「……チッ、鬱陶しい」


 身体強化の魔力で修復されていく火傷の様な負傷をした右拳を見ながら、自分の機嫌がどんどん下がっていくのが分かる。

 何が気に入らないかと言えば、自分が殴ってまだ息があるところがマジで気に入らず、何なら火傷の事などはどうでもいい。

 腹が立つので『大人しく死んどけや汚物が』という感想しかねぇ。


「この私を殴り飛ばすとは多少驚いたが、その程度では無駄だ」


「はしゃぐな醜男」


「……まだ分からんようだな?」


「あ"?」


 イライラが高まりすぎてこの場にアレンが居たら絶対にしない様な表情をしてしまうオレを前にして、元職員だと名乗った巨人は気分が良いのか饒舌に語り始める。

 これだから雑魚はいけねぇ。たった一度の攻撃を凌いだ程度で自分が優位に立ったと勘違いし、その勘違いに気持ちよくなって敵を前にして手よりも口を動かす。

 その滑稽なサマにはいつも反吐が出る……が、なんか知らんが勝手に情報を吐いてくれるんなら今はオレ個人のイライラは我慢して聞くべきなんだろう。

 チッ、クソが……これが宮仕えをするデメリットだな。


「哀れな聖物性愛(ヒエロフィリア)共め……偽物の神が不平等にばら撒く加護を有り難る愚か者ではこの我は倒せん」


「なに上から目線で嘲笑ってんだァ……?」


 大人しく聞いてやるからさっさと本題に入れよ、モテねぇからってはしゃぐな。


「無垢な孤児共から絞り出した聖神の加護という名のリソースを魔王様に捧げ、その対価として得たこの肉体は――」


「――死ね」


 何か情報を勝手に吐いてくれるならオレ個人の私怨を多少は……そう、多少は我慢するべきだとらしくもなく思っていた。

 だがそんなオレらしくない我慢は目の前の汚物から発せられた、明確な子どもへの加害行為の自供という爆弾によって文字通り吹き飛んだ。

 自らの拳が焼け爛れるのも気にせずムカつくクソ野郎を断罪(撲殺)するべく拳を思いっ切り振り抜いていく。


「クハハハ! 無駄よ! 衝撃吸収、強酸体質、筋肉増強、瞬間再生……複数の加護を得ていると言っても過言ではないこの私を、お前を殺す為に調整されたこの私を倒す事など不可能ッ!!」


 殴る度に対象の部位に合った握り方へと変えながら足から腰へ、腰から肩へ、肩から腕へと力を伝播させていく。

 それら全てを巨人は受け止めていくが関係ねぇ、オレの殴打で傷付く傍から音を立てて修復されていこうが殴る事は辞めない。


「だから無駄だと――?」


 ――と、ここでクソ野郎の顔色が変わり始める。


「なんだ……?」


 事実としてコイツはそこそこ強いんだろう……何人もの子ども達の命を犠牲にして、魔王様とやらから授けられたらしい肉体強度には目を見張るモノがある。

 人体程度ならワンパンで爆散させる威力があるオレの拳を受けてもきちんと防御すれば吹き飛ばされない耐久力に膂力、多少の傷は瞬時に回復する再生力は確かに厄介かも知れない――


「――でもそれだけだ」


 どうして最初の拳でオレの肉体強化の上限を知った気になっちまったんだこの雑魚は……オレよりも強いと勘違いしてしまった事はもうこの際どうでもいいが、そこで何故攻撃して来なかったのか――


「――その代償がこれだ」


 そして馬鹿正直に受け止めた拳の数が百を超えた辺りから変化が訪れる。


「ま、待て――」


 違和感に気付いたアホが今さら焦り始めるがもう遅い――


「――オレの拳は一発打つごとに、また時間が経過するごとに強化されていく」


「馬鹿なッ!! それにしたって限度はあるはず――」


 巨人の分厚い皮膚が突き破られ、また新たな血が流れ出る。


「お前みてぇな耐久自慢にはなぁ――」


 皮膚の下にギッシリと詰まった筋繊維を掻き分け、破壊されたそれらがささくれ立つ。


「――ゴリ押しに限る」


 皮膚を破り、筋肉を掻き分けた拳はそのまま骨を粉砕する。


「なァっ?! どんどん威力が上がって――?!」


 あまりに硬く、重く、加速した拳は前方の空気を急激に圧縮して熱を生み出す。

 赤熱し、まるで炎を纏った様に見えるその拳が振るわれる度に周囲に破裂音が鳴り響く。


「コイツ、いったい何処まで肉体強化の出力が上がるッ?!」




「――もう止まらねぇぞ」




 オレが軽く放ったジャブは容易く丸太の様な両腕を爆散させ、二人の間に真紅の華を咲かせる。


「――ァァアアア?!」


 引き伸ばされた知覚に於いて、緩慢な動きしか見せない巨人がゆっくりと悲鳴を上げるサマに唾を吐き捨てながら抉る様に、巨人の鳩尾へと容赦なく拳を振り上げる。


「――ぼ゛え゛ぇ゛?゛!゛」


「……汚ぇ面を近付けやがって」


 無駄にデカい身体をくの字に曲げ、汚い面を近付けた代償として軽いフックで顎を穿つ。


「――ピギュ!!」


 下顎が吹き飛び、クセェ息を留める為に口を閉じる事すら出来なくなった間抜けな面が左に流れて行くのを見送りながら姿勢を低くして、そのまま大木の様な両脚へと左から腰の入った横蹴りで寸断する。


 ――ボチンッ


 鋼の如き筋肉の塊を冗談みたいな音を立て破壊した蹴りの余波は凄まじく、前方に真空波が巻き起こる。


「――ハアァァァア!!」


 顎とは逆の向きに力を加えられ、両脚という支えを失った胴体が逆時計回りに回転しながら宙に浮いたままの状態をこれ幸いとして、一瞬の内に呼吸と力を溜め――


「――死に晒せェ!!」


 ――踏ん張る大地を放射状に砕きながら正拳突きの高速連打を開始する。


「100! 200! 300! 400! 500!――」


 衝撃吸収できるんもんならやってみろ。

 強酸体質とかその程度でオレの拳を壊せると思うな。

 筋肉増強? その筋肉を破壊すればよくね?

 瞬間再生とかよ、じゃあそれを上回る速度で殴りゃ良いだけだろうが。


「ハッハァッ!! こんだけ殴れると気分が良いなァ!!」


 見てみろよ、お前が無駄に再生するから部屋中が大量の肉片と血飛沫で汚れてんじゃねぇか。


「……って、ハイになってる場合じゃなかったわ」


 さっさと終わらせてアレン達と合流しねぇといけねぇ。


「名残り惜しいが、これで終いだッ――」


 血霧の中で、唯一残った肉片である顔面に向かって極限まで強化された最後の拳を解き放つ。


「――オラァ! 1000コンボォ!!」


 あまりの濃度に可視化された金色の魔力が渦を巻き、周囲の空間を歪め蜃気楼さえ生み出しながら前方の一切合切を破壊する。

 肉片はひとつも残らず、血霧は吹き飛び、壁と天井は消滅して太陽光が顔を出す。


「……べっ、やりすぎた」


 この上って聖王都じゃなかったっけ? いやでも地下に降りてから大分移動したし、聖王都の外の可能性も……あ、てか王子達がまだどの方角に居るのかも分からないんだった……やばい、どうしよう。


「あ、アレンに怒られる……かも……」


 ついでにミーア殿下からも叱られそうなんたけど、マジでどうしよう。


「……………………ま、いっか!」


 久しぶりに沢山殴れてスッキリしたしな! 子どもを害す悪も成敗できたし、これでヨシ!

――筋肉以上の暴力に晒された時は知らん()

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― 新着の感想 ―
[一言] 筋肉が全てを解決するのではなく、暴力と力が全てを解決するのか……。
[良い点] 脳筋!脳筋!姉御かっこいい! 逆鱗に触れた結果が肉片すら残らないのかwww 乙…女…? [一言] 更新お疲れ様です。
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