14.混迷
具合が悪すぎて昨日の投稿を忘れてました……ごめんね。
「……思ったよりも敵が少ないな?」
厄介そうな敵だけ排除していると、リオン殿下がそんな言葉を洩らすのが耳に入る。
気付かれない様に隠れ潜みながら元パーティーメンバー達を見守っていると、ちょうどあちらも戦闘が終わったタイミングだった様だ。
ウーゴの発案、というより提供した情報からいきなり人攫いを担っていた魔王崇拝者達の拠点に乗り込んだ時は驚いたが、今のところ大した問題は起きていない。
「そうですね……」
「おいウーゴ、本当にここが拠点で合ってるんだよな?」
「合ってるから襲って来るのでしょう?」
「まぁ、そうだが……にしても何故急に拠点の場所が分かった?」
もうこれは黒だと見て良いだろう……明らかに挙動不審でもあり、開き直ってもいる態度だ。
それにウーゴが怪しい動きをする度に俺でも厄介だと思える敵が真っ直ぐにリオン殿下を目指して襲って来ている。
しかもソイツらはみんな人の形をしていながら人の気配が全くしないと来たものだ。
魔族ともまた違う初見の敵で、聖神のモノではない加護を扱う事も疑問が残る。
「そんな事よりもこの奥です。この奥に重要参考人が居ます」
「だから、なぜお前はそんな事を知ってるんだ?」
「仲間から聞いたのです」
……ウーゴの様子がおかしいな、まるで早くこの場から出来るだけ遠くに立ち去り、安全地帯に移動したいかの様な……自らの味方が多い陣地に居るのにまるで何かから逃げているかの様だ。
「その仲間とは誰だ、なぜ今まで協力してくれなかった?」
「今までも協力してくれましたが……アレン殿に邪魔されていましてね」
む、以前の襲撃者達はみんな魔族で、人間の協力者などは居なかった様に思えるが……いや違うな、リオン殿下達を誤魔化すための方便か。
これは所謂あれだな、嘘は言っていないというやつだ。最近覚えた。
「……なぁ、本当にアレンは俺を裏切ったのか?」
……。
「今さら何を言っておるのです、私の写像魔術を疑うのですか」
「そういう訳ではないが……」
「だいたい追い出したのは王子自身でしょう?」
「……っ」
……殺すか。
「おいウーゴ辞めろ、何をそんなにイラついている」
「そうですよ、ウーゴさん少し様子がおかしいです」
思わずウーゴに対する殺意から突撃しかけたところで、ヴィルヘルムとコーデリアの言葉を聞き出した足を引っ込める。
そうだ、リオン殿下には俺よりも信頼できる仲間が二人も居るのだから大丈夫だ。
それに王子自身も、本来なら俺が直接護らなくてもいいくらい強い人物なのだから。
「私よりも追放された側の肩を持つと?」
「そうではありませんが、あれはリオン様もお互いに一旦距離を取った方が良いと判断されたからで……」
「いや、いいんだコーデリア」
「リオン様……」
「アレンを追い出したのは、俺の判断だ……あの時の許せないという感情に嘘はない」
……リオン殿下にあんな顔をさせてしまったのは失態だな……今回ウーゴを排除したら捏造された写像魔術に対する対策でも学ぶか。
写像魔術で捏造する、という事自体が有り得えない事象なので難しいが。
「……さぁ、目的はこの先ですよ」
さて、いつ頃ウーゴを排除するか……わざと一人くらい厄介な敵を素通りさせて戦闘の混乱に乗じて闇討ちするか、等と考えていると先に目的の場所へと辿り着いてしまったらしい。
今のところ人も魔族の気配もしないが、そんなモノはもはや当てにならん……どんな敵が現れたところで直ぐに対応できる様に警戒しなければ。
「……巨、人?」
ウーゴを先頭として足を踏み入れた大広間……そこには天井部を支える柱だと思い込むほどの太く、大きな脚を持つ巨人が待っていた。
あまりの大きさに遠近感が狂い、パッと見でそれが人型だと認識できない程の巨躯を見て――すぐさまこれは俺が出て行かなければと判断する。
「――さて、もう演技にも疲れました……下等生物との馴れ合いはもう辞めにして、王子以外の二人には消えて貰います」
「ウーゴ、何を言って……?」
あぁ、アイツはもう賭けに出ていたのだと悟る――俺を追放した事で安心せず、いずれ戻って来る事を見越して何度も速攻を仕掛けていた。
だが奴の想定よりも早く護衛任務に戻った俺が、依頼の道中で何度も仕掛けられていた襲撃を全て潰した事で腹を括ったらしい。
上手くパーティー内に潜り込み、リオン殿下の信頼と政府中枢の伝手の全てをチップとしてここで聖王の血を手に入れるつもりだ。
「――させるものか」
あの巨人がなんであるのか、ウーゴにとってどれ程の信用に足る戦力なのかは分からないが、一目見ただけであれは厄介だと分かる。
聖王の血を引くリオン殿下を攫い、どうするつもりなのかは知らんが魔族関係者の考える事などろくな事ではない。
リオン殿下には悪いが、ここは介入させて貰う――
「――いい加減に止まれぇ! 止まってくれぇ!」
一歩、足を踏み出したところで横の壁が突然破壊され、その向こうから幼い少女に抱えられて悲鳴を上げるガリガリの男が現れる……が、何が起こったのかさっぱり分からん。
「わかった」
分からん、が……この幼い少女も相当に出来る様で油断ができない。
何を考えているのか分からない表情からは何も読み取れないが、ここに来て新手の登場か。
「「――アレン?!」」
と、背後の状況に気付いたリオン殿下と、この少女を追い掛けて来たと思わしきアリサの声が重なる。
「……なるほど、これはアリサにはキツい相手か」
この少女が何処から来たのかを瞬時に悟り、また同時にこの幼い見た目ならアリサが本気を出せなかったのだろうと当たりを付ける。
そして入り口がバラバラなだけで、地下でこうも深く繋がっているとは思わなかった……いや、繋がっていたというよりも繋げられたと言った方が正しいが。
「アリサ!」
「っ! 応!」
手振りのみの簡単な合図で状況を瞬時に把握したアリサと頷き合い、お互いにすれ違う形で敵を交換し合う。
見知らぬ男性を担いだ少女の前に回り込み、リオン殿下の元へとアリサが走るのを確認して見送る。
適材適所というやつだ……アリサにはこの少女よりもあのデカブツ相手の方がやりやすいだろう。
「どうしてお前達がここに?!」
当然と言えば当然の事だが、ついさっき信じていた仲間に裏切られたばかりのリオン殿下が状況を理解できないとばかりに叫ぶ。
「話は後ですリオン殿下――」
「――ええい! コイツらをどうにかしろ! 近付けさせるな!」
アリサが声を掛け、リオン殿下の下へと走っている正にその時……少女に担がれていた筈の男が叫ぶ。
「――わかった」
それに対して少女が何でもないように返事をし、地面に手を付いた瞬間――この地下空間の全てが分解され、再構築された。
あぁ、もう滅茶苦茶だよ……




