1.冤罪
一回は追放物を書いてみたいな、とは思いつつもよくある「主人公の能力に全く気付かず追放」や「追放した側のざまぁ」が苦手だったので、自分なりにそういった要素を極力省いて書いてみました。
ちなみに初投稿です(大嘘)
「――こんな時にも寝坊か、アレン」
時刻は昼過ぎ、起き抜けに自らが所属するパーティーのリーダーを務めるリオン殿下に呼び出されたのだが……どうやら自分以外のメンバーも集められていたらしく、不機嫌そうな顔をしたリオン殿下を中心として入口に立つ俺を全員が見ていた。
真正面に自らが仕える主君の実子にして聖王国の王子であるリオン、その右隣に聖騎士候補にしてこのパーティーの前衛を担うヴィルヘルム、逆隣には聖教会の最年少司教を務めながらヴィルヘルムと同じく自らの意思でリオンに賛同し、このパーティーに加わったコーデリア――
「……ッ」
……そしてリオンの斜め後方に立ち、この場で俺の事を一際憎々しげな目で見詰める魔術師のウーゴ――
「アレン、何故お前が呼び出されたか分かるか?」
「……いや」
どうやらパーティーメンバー全員が集められたというよりは、パーティーメンバー全員で俺を呼び出したと言う方が正しいのだろう。
しかし当然の事ながら、俺にはこの様に自分一人だけパーティーメンバー全員から呼び出される様な事態に心当たりがない。
リオン殿下を狙う不審な輩は昨夜の内に処理した為、彼らもまだそんな事があったとは把握すら出来ていないだろう。
「……本当に分からないという顔だな」
「あぁ」
分からないものは仕方がないのだからと、リオン殿下の確認を頷いて肯定する。
「……アレン、お前だけがこのパーティーメンバーの中で唯一目立った仕事をしていない」
「そうか」
その言葉に思わず首を傾げてしまう……確かに俺は主君であるリオン殿下の母親からの意向を受けて、リオン殿下が目立つ様に行動をしてきた。
決して出しゃばらず、陰から聖王の血を引く殿下の護衛をしながら遺失物探索という功績を、殿下が王位継承争いに於いて先んじる為に自身の手柄だと主張できるように。
そしてそれはある意味で成功し、そして失敗していると見るべきなのだろう……要は陰に徹しすぎてパーティー内での貢献を疑われているという事だ。
「今日もそうです。アレンさんは殆ど毎朝寝坊しているのも問題です」
「それはすまなかったな」
やんわりと、困った子を見る様な目でコーデリアが注意を促す……が、夜の暗闇と月は魔族を活発化させる。
聖王の血を引く王子を襲うのに万全の状態で挑むのは当たり前で、だからこそ警戒しなければならない。
余裕があるのなら昼間に出来るだけ寝て、自らの体調を整えるのは当然の事ではあるが、それを今彼女に言っても仕方がないだろう。
「お前は戦闘でもほぼ何もしていない」
「そうだったか」
憮然と、嫌なモノを見る様な目でヴィルヘルムが指摘する……続く小声での『コーデリアでさえ前に出る時があるのに』という発言からするに、単純に武力や男らしさといったものを重視する彼から見てコソコソと影から何かをするといった行為がダメなのだろう。
というより、そもそも影で何かをしているという認識さえ無いのかも知れない……やはり少し影に徹し過ぎたか。
「……ちゃんと話を聞いているのか?」
冷静に現在の状況を分析していると、リオン殿下から呆れ混じりに注意される。
……俺の悪い癖ではあるが、どうにも口下手で、上手く長文が話せない……勝手に自らの思考に没頭し、どうしてその考えに至ったのかの過程を省いて結論のみを相手に話してしまうのも嫌がられてしまう。
そのせいでこれ以上パーティー内での心象が悪くなってしまうのは避けなければならないだろう。
しかしながら何処まで話したものか……真面目で、誠実なリオン殿下に全てを話してしまえば『無用な気遣いだ! 自分で成し遂げてこその偉業だろう!』と、その様な事を言われて追い出されるのがオチだ。
そうでなくとも、今まで目立った貢献がない奴がいきなり『お前らの為に力を隠していただけ』などと言っても信じられないだろうし、事実だと見せ付けても徒にプライドを傷付けるだけだろう。
「……おい? 何を考えている? 本当に話を聞いていなかったのか?」
おっと、また悪い癖が出てしまったか……そろそろ口を開かないと本当に不味いな。
とりあえず自分もパーティーに貢献していたという事を主張しなければならないだろう。
「聞いている。俺が目立たなかったのは――」
「言い訳は止してもらおう! 貴様がパーティーに対してなんら貢献していない事は明白!」
とりあえず慣れない会話を試みようと口を開いたその瞬間、今まで黙っていた魔術師のウーゴが大声を張り上げる。
「言い訳など、俺はただ――」
「貴様が戦闘でも手を抜き、私生活も乱れ切っているのは事実だろう!」
「それは――」
「往生際が悪いぞ!」
「……」
取り付く島もないとはこの事だろうか……まさかウーゴ、俺に何も喋らせない気か?
俺の事をあまりよく思っていない事は薄々気付いてはいたが、まさか弁明の機会すら貰えないとは。
「アレン、俺には大事な使命がある……ここで足踏みしている訳にはいかないんだ」
知っている。お前が家族の為に文字通り命を懸けている姿をずっと見てきた。
「昔馴染みのよしみだ。母上の紹介もあるため今回は許すが――」
そうか……何も弁明できず、傍から見ればただの役立たずにしか思えない俺をお前は一度は許すというのか。
「……ふぅ」
「……チッ」
仕方がありませんね、という顔で息を吐くコーデリアと、不満げな顔ながらも何も言おうとはしないヴィルヘルム……この二人はリオン殿下の許そうという雰囲気を察して、それに従うつもりなのだろう。
「――ちょっと待ってくれ!」
初日は複数話を投稿予定なのでよろしくお願いしますね。