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2 網走署へ

網走署へ到着しました。

「ようこそ、お待ちしておりました。網走署の尾崎です」

「T県警の香崎です」

「磯田です」

 私と京子は、面通しのために2階の取調室の隣の部屋に案内された。マジックミラー越しに、取調室にいる村田係長が見えた。係長はラッコの着ぐるみを着ていた。

「……はい、あの方は村田係長です。間違いありません……」

 私はおそらく悲痛な表情をしていたはずだが、逆に、京子は爆笑していた。

「わかりました。では、これで釈放になります」

「えっ? 牢屋にぶち込んどかなくていいんですかー?」

 京子は不思議そうに尾崎刑事に尋ねた。

「ええ。昨日、現場近くにいた女性が名乗り出てくれまして、自分が悲鳴を上げたから探しに来てくれたのではないかということでした。特に盗まれた物とかはないですし、警察官が職務を遂行したと判断できますので、釈放になります」

「えーー。じゃあ、私たち、すぐに帰らなきゃならないじゃーん」

「京子、みっともないでしょ」

「せっかく北海道に来たのにー」

 私たちは部屋から出た。尾崎刑事が取調室に入り、そして係長が出てきた。

「おう、ご苦労、香崎、それに磯田も」

 係長はいつもの調子だった。

「ちょっと係長、何ですかそのぬいぐるみ? カッコ悪いし、脱いでくださいよー」

「まあ、俺は別に脱いでもいいんだけどな。この着ぐるみの下には何も着ていないんだが、どうしてもと言うのなら、脱いでやってもいいんだがな」

「あの、尾崎さんでしたっけ? 係長、脱ぐって言ってるんでー、公然猥褻罪で逮捕してもらっていいですかー?」

 係長は困り顔で、尾崎刑事はもっと困った顔をした。

「冗談に決まってるだろ、まったく。それより、どうだ、このラッコの着ぐるみ、萌えるだろ、はっはっはっ!」

「係長、なぜ着替えないのでしょうか?」

 私は尋ねた。

「着替えはホテルにあるんだよ。だからこれ着ておくしかないだろうよ」

 私は変な上司を持って、とても恥ずかしかった。

 私たちは署から出るために1階へ降りた。数名が騒がしくしているのが目に入った。イルカの帽子をかぶってコートを着た大柄の男が警官に詰め寄っていた。私はツッコミを入れたかった。なぜ、イルカの帽子なのかについて。イルカの皮でつくられた帽子ではなくて、イルカを模した帽子だったのだ。しかもデフォルメされていた。だから愛らしいく見えた。そのかわいい帽子をかぶった大柄の男が警官に文句を言っているのだ。違和感しかなかった。取り巻きと思われる連中もいたが、彼らの服装はごく普通で地味だった。

「あれ、何ですかー? ヤクザ?」

 京子がすごくダイレクトに尾崎刑事に訊いた。

「あの人、北網走漁業組合会長の桜井っていうんです。最近よく署に来て、いろいろと注文をつけてくるんですよ。今日は取り巻きまで連れて来てますね」

「ああいうのって、過剰要求じゃないんでしょうか?」

「あ、いえ、この頃、漁港で物が盗まれるらしいんです。その件で、まだ犯人は捕まらないのかとか、もっと巡回を増やしてくれとか、あの人、そういことを言いに来てるんです」

「警察はどこも大変ですね」

 私たちはとりあえず係長が宿泊しているホテルに行くことにして、タクシー会社に連絡した。タクシーが来るまで、署内の休憩スペースで待つことにした。私は紅茶を、京子はメロンソーダを、係長は相変わらずコーヒーを飲んだ。

「係長、一体なぜこんなことになったんですか? 課長がおっしゃるには、『海獣祭り』に参加するために着ぐるみを着たのだとか。それにしてもなぜ、不法侵入なんてことになったんでしょうか?」

「どうせー、女のケツでも追いかけてたんじゃないんですかー、係長?」

「聞いてないのか、女性を助けるためだったんだよ。ちゃんとした刑事の仕事だ」

 係長はラッコの着ぐるみ姿で説明したので、説得力など全くなかった。ふと、女性が私たちを見ているのに気づいた。20代後半くらいだろうか、品の良さそうな女性だった。私は会釈した。女性は少し驚いたような意味深な態度だった。

「誰だろ?」

「ああ、俺が無罪だということを名乗り出てくれた方だ」

 その女性は何か言いたげな感じだったが、去って行った。

「目撃者の相田さんですよ」

 尾崎刑事が彼女を見送ってから私たちに言った。

「すっごい美人ー。係長には一生縁がないみたいな高根の花ですねー?」

「やかましい!」

 そうこうするうちに、タクシーが来たので、私たちはホテルに向かった。


村田係長がチェックインしているホテルへ行きます。

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