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0.僕は『鑑定』が嫌いだ。

閑話休題/あるいは本作品の隠れたメインテーマ(全然隠れていない)

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僕は『鑑定』が嫌いだ。



様々なスキルがあるこの世界で、恐らく一番のクズスキルだからだ。

でも、どうしてこれがクズスキルかって、ちゃんと説明しないとみんな分かってもらえないと思う。

あるいはちゃんと説明しても、みんな分かってもらえないとも思う。


でも僕は『鑑定』なんてクズスキルにいいようにそそのかされて黙って従うだけの人生は死んでもごめんだって思ったから、誰も聞いていないとわかっていても、どこにもいない誰かのために僕の思いをぶちまける。



僕は『鑑定』が嫌いだ。



僕は物心ついた時から『鑑定』が使えた。僕は自分の両親にパパママって呼びかけるよりも前に、真っ先に「かんてー」って言葉を覚えたらしい。

僕の両親は「あれはなんだったんだろう?」って二人で笑ってたけれど、一人意味が分かっている僕はとっても恥ずかしかったな。

だってあのころの僕は、『鑑定』こそが僕の本当の親だと思っていたんだから。


『鑑定』は僕になんでも教えてくれた。初めのころの僕は言葉自体をまるで知らなかったから、父さん、母さんが近くにいるとあったかい気持ちになったり、危ないものの近くでは訳もなく怖い気持ちになったり、そんなふうに感情を与えてくれることで『鑑定』は色々教えてくれた。

それからちょっとづつ言葉として色々伝わるようになり、ハチの巣が近くにあるってだけで『鑑定』が《危険な木のそば、奥の茂み注意》とかって教えてくれるようになった。


そんな中での一番はやっぱり、幼馴染のアニスの事だった。

『鑑定』は僕に教えてくれた。


《アニスはアルの事が大好き。いつでも一緒にいたいって思っている》


その頃のアニスはきかん坊で僕は訳もなく突然殴られたりして、ちょっと嫌だなーって思っていた。


でも『鑑定』は《アニスはアルが好き、だけどそばにいたいのにどうしていいかわからないから意地悪しちゃう》って教えてくれて、嘘だろうって僕は思ったけれど、《アニスが好きなスミレの花をプレゼントするとアニスは大喜びする》って『鑑定』のいう通りにしたらアニスがわんわん泣き出しちゃって、なんだよって思ったら《アニスは嬉しすぎて泣き出した》って『鑑定』が鑑定してくれて、だから僕はアニスに聞いたんだ。


「アニスはうれしくて泣いてるの?」


アニスはわんわん泣きながら「そうなの! あたしうれしいの!」って言いながらなんだかおかしくなっちゃったみたいで、けらけら笑いだしたんだ。


それで僕はさらに聞いたんだ。


「アニスは僕のことが好きなの?」


そしたらアニスの顔は真っ赤になって、何も言わずに僕に抱きついてきた。


それから僕達二人はすごく仲良くなってしまって、あんまり仲がいいもんだから、僕の両親とアニスのおじさん、おばさんに「二人は将来結婚するつもりなの? だったら二人は婚約者だね。」なんてからかい半分に言われて、アニスはすっかりその気になってしまって、僕もそういうものだと思ってしまったんだ。


だって次の日からアニスの『鑑定』結果には――


アニス 6歳

アルの婚約者


って出るようになったからね。


それからすったもんだでいろいろあって、15歳の祝福の儀で、僕らのスキルが明らかになった。


アル 15歳

スキル:鑑定


「いやもう知ってるんですけど。今さら言われてもありがたみもないんですけど。」


僕は思わず呟いてしまったんだけれど、儀式を執り行った司祭様はびっくりして駆け寄ってきた。

『鑑定』は勇者パーティに加わるための必須のスキルだったからね。


ところで不思議なことに、僕はそのことを知らなかった。だって、14歳までの僕の鑑定結果に「スキル」って項目自体がなかったんだもの。

僕はずっと自分が『鑑定』もちであることは知ってたけど、僕が「スキル:鑑定」であり、勇者パーティの一員にならなければいけないと知ったのは、15歳の祝福を受けた後からだったんだ。


この時点ですでに『鑑定』の持つ力の限界や欠点が垣間見えていたんだと今の僕ならすぐにでもわかるけれど、当時の僕は「そんなものだ」と疑いもしなかった。


僕はなんて愚かな人間なんだろう!

わかるかい? 鑑定は僕に「全てを最初から明かさなかった」んだ。


話を戻そう。

僕がそんなわけで勇者パーティの一員になったのは自然な流れだったけれど、僕はちっとも不安がなかった。

だってそう、僕の隣にはアニスがいた。


アニスも一緒に祝福を受けて、


アニス 15歳

スキル:剣聖


そう、勇者パーティの一員になったんだ。


僕はそれまで、アニスが剣聖だったなんてまるで知らなかった。祝福があるまでの彼女の『鑑定』結果に、そんな項目はどこにもなかったからね。

もちろん君も、その訳は分かるよね?


そう、『鑑定』は僕に「隠しごとをしている」んだ。


さて、そこから先の転落の2年間について、あまり多くを語りたくはないな。

これは話の本筋とは違うし、僕がどれだけ惨めになったかの愚痴が延々と続くだけだったからね。


でも大切なことはそう、『鑑定』に「僕は騙された」って事なんだ。


いや、待って! 正直に懺悔させて!

騙されたのは僕が悪いんだ。僕は盲目的に『鑑定』を信じていたから、『彼女』が僕に都合のいい情報しか明かさなかったからって、それを全て鵜呑みにした僕が悪いんだ。

でもそう、あんまりにもみっともないくらい僕は見事に「騙されて」いたから、少しぐらい嫌味を言ってもいいじゃないかって、そんな気分なんだ。

それは例えばこんな感じなんだ。



アニスは最初の半年くらいには『勇者』様の柔らかな物腰と細やかな気遣いにすっかり絆され、ずいぶんと気を許していた。

僕は都会の持つびっくりするくらい早い時間の流れに戸惑うばかりで、そんなアニスの心移りを察する余裕もないくらいだった。

そんな僕たちが王都に出てきてから最初の彼女の誕生日が来たあの日、僕が用意できたのは郊外に咲いていたスミレの花を押し花にしたしおりだった。

16歳にもなった男性が同い年の女性に対し、何でそんなものをプレゼントしようと思ったのか、笑わないで聞いてくれよ? 


それが『鑑定』結果だったんだ。


けれども『勇者』様は全然違った。『勇者』様が同じ日に彼女のために用意したのは、その瞳の色と同じきれいな緑色の、翡翠のイヤリングだった。

それから翡翠に合わせた素敵なドレスも用意して、夜景の見えるレストランを予約して、そのままホテルまでエスコートされて、次の日の朝まで帰ってこなかった。


僕は当日、彼女にプレゼントを渡そうとしたよ。でも『勇者』様にガードされて、まごついているうちに二人はレストランの中へと消えていった。僕は中に入れなかった。ドレスコードというものがあることすら、その時には知らなかったんだ。

入口で止められて、理由を『鑑定』して初めてそんなものがあることを知ったんだ。


ところで『鑑定』には一つだけまあ、美点というほどでもないけれど、ましな制約があってね。

『鑑定』は「嘘」だけはつけないみたいなんだ。詳しい話は長くなるのでざっくりとだけ説明すると、「嘘」が混じるとシステム内部に矛盾が生じて、『鑑定』そのものが破綻してしまうそうなんだ。


だから少なくとも誕生日のあの日の夜までは、アニスの欲しかったものはスミレの花をかたどった思い出の小道具だったんだろうね。


でも次の日彼女を『鑑定』した時、欲しいものはなくなっていたんだ。

彼女は「別の何か」で満たされてしまい、そんなものは要らなくなってしまったんだ。

僕はそれをゴミ箱に捨てた。


ところでこの僕自身のみっともないエピソードのおかげで、ずいぶん後になってからの僕は『鑑定』の大きな問題点に気付くことができた。


『鑑定』は未来を鑑定できないんだ。


『鑑定』は過去と現在の事物、事象、状態、などの全てに答えてくれるけれど、それが未来にどう変化するかは答えてくれないんだ。

だってそう、『鑑定』ってそういうものでしょう?


だから僕はアニスの心がどう変わるのかを自分の心で考えなければいけなかったのに、おバカな僕はすべてを『鑑定』にゆだねてしまっていたんだ。


彼女はあの日、大人の階段を上り、僕たちの関係性は決定的に壊れてしまったけれど、その半分はきっと僕自身に責任があったことなんだと思う。


でもそう、あの時の僕は何もわかっていなかったな。ただただ、どうしてこんなことになったのか、訳も分からず呆然として、本当の意味での暗黒期はそこから始まった。



あの頃の僕の酷い話は本当に色々ありすぎて頭がぐちゃぐちゃになるけれど、もう一つだけ話をしようかな。


それは、『勇者』様が隠し持っている、もう一つのスキルについてだ。正確には祝福で現れる女神のスキルではなくて、本人が生まれ持った性質のようなものというのかな。


僕は『勇者』様が僕のアニスとあっという間に特別な仲になっていくのを見て、何か秘密があるはずだと考えたんだ。

そしたら『鑑定』結果に出てきたんだ。


なんと『勇者』様は、『魔眼』持ちだったんだ。女の子の心を自在に操る、恐ろしい魔性の瞳。その瞳に魅入られた女の子は、ただ『勇者』様の望むままに、その全てを彼に差し出す。


僕はその事実が明らかになったとき、飛び上がらんばかりに狂喜した。


アニスは『魔眼』に騙されたんだ! ってね。


僕のかわいいアニスだけじゃない。都会の雰囲気漂うおしゃれな『魔女』様や、清楚で可憐で可愛らしいお人形みたいな『聖女』様、大人の雰囲気で優しく、時に厳しく接してくれる冒険者ギルドの受付のお姉さん、剣の稽古や包帯の巻き方、いろんなことを教えてくれた乙女騎士団の団長様、野営の仕方や冒険の心得を伝授してくれたかっこいい獣人の女の子。


それから何より、国の宝と謳われた、国王様最愛の一粒種の王女様。


みんなみんな、『勇者』様にその美しいすべてを捧げた。


僕の心はその頃本当に荒んでいて、『勇者』様がその『魔眼』を使って美しい女性たちを次々に陥れてゆくのを一生懸命『鑑定』していた。

次はどんなふうな手管を使うんだろう? どうやってうまく口説き落とすんだろう? どこで『魔眼』を決めるんだろう?


僕は勇者様を徹底的に『鑑定』して、言葉や態度、贈り物などで態度を軟化させた女の子の隙をついて、魔眼のを使って見事に仕留めるそのやり口、その全てをつぶさに追いかけ続けた。


僕はそのころには、パーティのみんなから「気持ち悪い奴」と思われていたみたいで、アニスもすっかり僕には話しかけなくなっていたけれど、僕はそんなアニスたちを逆に憐れんでいたんだ。


「全部魔眼が悪い。本当にひどい能力だ。みんな騙されているんだ。」


さらには少しばかり、暗い喜びを感じてすらいたんだ。


「どうせみんな、勇者様に騙されてしまうんだ。」


そんなふうに考えながら、毎日をただの荷物持ちとして『勇者』様と女の子達を『鑑定』しながら過ごしていたんだ。



でもね、そんな僕が後になって頭をカチ割られるような衝撃を受ける出来事があったんだ。


あるこじゃれた大衆食堂には美人と評判の給仕さんがいて、確かにちょっとびっくりするほどきれいな人だったけれど人妻だった。

旦那さんが奥の厨房で料理を作っていて、裏手の井戸の周りをちょこちょこ走り回る小さな子供までいた。


勇者様がいつものように口説きに行ってね、その奥さんもまんざらじゃない様子で、それで僕は「ああまた勇者様のいつものあれが始まった。旦那さんも可哀そうに、もうすぐ寝取られちゃいますよ」なんて心の中でブツブツ考えていた。


その直後に僕はパーティを追い出されて、その後奥さんがどうなったかわからなかったんだけれど、少し後に一人でふらりと立ち寄った食堂にまさにその奥さんがいて、ついいつもの癖で彼女を『鑑定』してびっくりしたんだ。


《勇者との性交回数 0回。

彼女は勇者の誘いを断った》


それで思わず声をかけてしまったら笑われたよ。


「確かにドキっとするくらい色気のある男の子だったけれど、あんな程度で私の心が揺らぐわけないでしょう? だって私、結婚して子供もいるのよ?」


僕はその場で泣き出してしまったよ。そしたら奥さんは僕を優しく抱きしめてくれた。


「あなた、あの子たちの中で一人だけ辛そうにしていた子よね? もう大丈夫なの? ちゃんと逃げ出せたの? あの子たちちょっとおかしい雰囲気があったから、あなたが逃げ出せたのなら、こんなにいいことはないわ。」


それで僕は初めて自分がさんざん『鑑定』に振り回されてたって気付いたんだ。


これはね、『鑑定バイアス』っていうんだそうだよ。僕の前に賢者として『鑑定』と向き合ってきた知の巨人たちの一人が名付けたんだ。


つまりね、僕は自分自身の身の回りやみんなの僕への評価について、一切『鑑定』しなかった。

代わりに『勇者』様とその周りばかり『鑑定』し続けた。

さらには僕は『勇者』様の『魔眼』の効果と女の子たちの変化ばかり『鑑定』した。


そしたら『鑑定』は僕が知りたい情報の結果しか表さなくなった。


だから実は『魔眼』なんて本当はちょっとしか効果がなくて、本当は『勇者』様があれこれこまめに準備したりしてたことが大事で、アニスは自らの意思であの人に抱かれ、ほかのみんなも全員自分の意志であの人に身体を開き、僕はそんな彼女達からどうしようもなく嫌われて、僕は彼からうんと酷い扱いを受けていた、なんてことに気付くことすら出来なかったんだ。



僕はそれで、「騙された―っ!」って大声で叫んだよ。

いや、正直今では自分も悪かったって分かっているよ。自分で考えることを放棄して、『鑑定』結果に全てをゆだね、あまつさえ自分にとって都合の悪そうな『鑑定』は積極的にしないようにして。


でもさ、僕は物心ついた時から、『鑑定』して生きてきたんだ。

『鑑定』にいろいろ教わって世の中の仕組みを覚えてたんだ。


ずっと『鑑定』が全てだったんだ。


それが間違っているかもしれないなんて、普通にしてて気付けるわけないじゃないか。

少しくらい、「騙された―っ!」って怒ったっていいじゃないか。



僕は『鑑定』が嫌いだ。



それで、ここから先が肝心なことなんだけれど、僕が『鑑定』に疑いを持った瞬間に、とてつもない量の知識・情報が、いっぺんに僕の中に降りてきたんだ。



それはね、『鑑定』そのものの『鑑定結果』だ。



『鑑定』とは何か、かつての賢者、知の化身達の生涯を賭けた研究の全てが、余すところなく僕の中に降りてきたんだよ。


正直そのすべてを理解することはとても僕には出来ない。

知識、情報として頭に入っていても、その意味が分からないものもたくさんある。



でもね、『鑑定』について、もっとも本質的で重要な事柄は、あの日、あの時情報の渦が飛び込んできた真っ先に理解できたよ。



ちょっと難しい話だけれど、分かる人だけが聞いてくれるだけでいいけれど、それについて語らせてほしい。



『鑑定』について、次の概念を打ち立てる。



『鑑定は間違っている』



そして、その概念そのものを『鑑定』する。

するとどうなるか。



『『『『『『『『『『鑑定は間違っている』は間違っている』は間違っている』は間違っている』は間違っている』は間違っている』は間違っている』は間違っている』は間違っている』は間違っている』……

(以下無限に続く……)



どうかな? 僕の説明はうまく伝わっているのかな? 


知っている人は知っている有名なパラドックスだよね。



ここで肝心なのは、これが一切論理的に破綻していないってことなんだ。にもかかわらず、答えが出ずに思考停止してしまうって事なんだ。


こんな難しい言い方をすると分からないと思うけど、こう言いかえるといいのかな?


僕はその日初めて『鑑定』を疑った。そしたら『鑑定』を疑う僕の心そのものも、その場ですぐに『鑑定』出来た。

でも、その答えが正しいのかどうか、僕にはいまだにわからない。

なぜならその『鑑定』結果はいまもずっと計算途中の解を吐き出し続けていて、絶対それが終わらないってことだけが分かっているからだ。


だから分からないってことを、僕はその日初めて知ったんだ。


『鑑定』が本当に正しいかどうかなんて、本当は誰にも分からないってことを僕は知ったんだ。



僕はその日初めて、『鑑定』を嫌いになった。



僕は『鑑定』が嫌いだ。



ここから先、『勇者』様達と再会するまでの半年間は、まあそれこそ大して語ることもないんだけれど、せっかくだから『鑑定』についての先人たちの研究成果の一つ、とても面白い考察について紹介しようかな。


『鑑定』はどこから来たなにものなのか? という本質的な考察についてだ。


と言っても、究極的には証明しようがないってことは結論が出ているから、これはまあちょっとした余興みたいなものなんだ。


ある賢者様が『鑑定』結果をつぶさに観察し、そのそれぞれにある偏りがあることを発見したんだ。


例えばある種の健康や美容に良いとされる植物、ハーブやスパイス、果物や野菜について、『鑑定』は驚くほど子細な情報をつまびらかにしてくれる。

《この草とこの草は品種が同じだけれど、産地がすこし違うだけで、香りの立ち方がこんなに違うんです》まあこんな具合。


対してある民族が使う武器の違い、何々族の伝統的な反り返ったナイフと何々国の軍人が愛用する似たような形のナイフ、二つは全然違う歴史と使われ方があるのに、どちらも同じ《湾曲したナイフ》としか『鑑定』されない。


そう、『鑑定』はその対象によって、明らかにフレーバーテキストの質や量が異なるんだ。

まるでそう、『鑑定』には好みがあって、美容と健康が大好きで、兵器や武具には興味が薄くて、その知識の元となる情報の源に、意志ある存在がいるような……


先人たちはそこからさらに調査を押し進めて、その存在のプロファイリングを試みた。


曰く、『その存在』は女性的観点から主に家庭内で用いられるような道具、行動、風習などに強く興味を持つ。

曰く、『その存在』は他方で男性的な諍い、争い、戦闘、戦争といった暴力的な情報には潜在的な忌避感を示す。

曰く、『その存在』は甘いラブロマンスが好きで、男女の恋愛事については極めて多くの情報をとりあつかおうとする半面、具体的な男女の睦み事については些かあいまいで憶測を元にした情報が多く見受けられる。

曰く、『その存在』は極めて太古からの精緻な情報を多く保有しているが、どれも伝聞で集めた情報といった様相で、具体的に各時代、各地域で生身の人間が生活して得たであろう臨場感に乏しい。



どうかな? みんなにはもう、分かってしまったかな? 


何万年も前から存在していて、恐らく女性で、恋話が大好きで、耳年魔だけれど男性経験はなくて、そもそも僕らのこの世界で生きた経験はなくて、ただの覗き魔で……


そう、鑑定の知識のもとは、恐らく間違いなく『女神』様のものだ。



もちろん『女神』様本人の意思じゃない。

恐らくだけれど、女神様の意識や思考、認識をリアルタイムで常にシステムにアーカイブしていて、これをいつでも取り出せるようにしたものが『鑑定』なんだろうって、今ではほぼ結論付けられている。



何のことはない。幼いころから『鑑定』漬けだった僕は『女神』様に育ててもらったようなものなんだ。

彼女の生き方、彼女の考え方、彼女の好きなもの、彼女の夢や希望、そんなものの全てを『鑑定』結果から受け取って、それで今の僕が出来上がったんだ。



でもそれってメチャメチャ危険なことだって、君にはわかるかい?



だってほら、結論ならもう出ている。

『鑑定』が本当に正しいかどうかなんて、本当は誰にも分からない。


思えば僕は、『女神』様のお望み通りの選択しかしてこなかった男だ。アニスの事がいい例だよ。


最初のうち僕は、アニスがとにかく僕をぶつのでいやだって思ってた。

どうしたものかと思い悩んで『鑑定』した結果はこうだった。


《アニスはアルの事が大好き。いつでも一緒にいたいって思っている》


本当はこんなの、僕が知りたい回答じゃなかった。僕が知りたかったのは「アニスから逃げるにはどこどこに隠れるのが一番」なんて情報だった。


でも『鑑定』結果はいつでも『彼女』の望む回答ばかりで、僕はその全てに盲目的に従って、それで最初のうちはうまくいって、でもいつからかうまくいかないことばかりになって、最後には勇者パーティから身ぐるみ剥がされて追い出された。


けれどもそれが本当に正しい事だったのかどうか、僕には今でもわからないままなんだ。



僕は『鑑定』が嫌いだ。



でも、正直に告白したいこともあるんだ。


本当は僕も分かっているんだ。

僕はどうしようもなく生まれたときから『鑑定』とともに生きてきたから、『鑑定』なしの人生なんて考えられないんだ。

本当は僕は『鑑定』が大好きなんだ。好きで好きで仕方がないんだ。


でも僕は『鑑定』の言いなりになって奴隷のような人生を歩むのはまっぴらだと考えてしまったんだ。


一個の人間として、自立して生きたいと願ってしまったんだ。


だから僕は、どんなに苦しくても、辛くても、『鑑定』を嫌わなければならないんだ。


そうしないと、僕は僕でいられなくなるんだ。


好きで愛して憎くて嫌いな、僕の大事で大切なクソ女神様。



僕は『鑑定』が嫌いだ。



最後に少しは心の温まる話をしようかな。


『鑑定』って昔は『賢者』っていう名前のスキルだったらしいんだ。

でも歴代の『賢者』様達がみんなして「これのどこが『賢者』だ! こんなのただの『鑑定』で充分だ」ってクソ女神さまに大抗議したから、このスキルだけあとから『鑑定』って名前に代わったんだそうだ。

正直、過去の賢者様たちはすごいと思う。よくぞクソ女神様を問い詰めて名前を代えさせてくれたって思う。だって僕も、おんなじ気持ちだから。


こんなのどこが『賢者』だよ。こんなのただの『鑑定』で充分だよ。


ほかのみんなは『勇者』や『剣聖』や『聖女』や『魔女』でいいと思うよ。だってそれ、ただの名前で、ただのスキルでしょ。

『鑑定』だけはただじゃないクソスキルだから、あれに『賢者』なんて名前はおこがましいと僕も思う。



僕は『鑑定』が嫌いだ。



少し前に「人物メモ書き」でちょろっと書いたアルと女神の鑑定物語。

私は筋違いと思いつつ(ざまあが遠のくので)、書き殴らずにはいられなかったのです。


うまく伝わったとも思えない出来ですが、少しでも気に入ってくださった方がいたらこれほど嬉しいことはありません。



たかだかなろうのざまあもので「不完全性定理」をガチネタにしてやったぞーっ!!!

やったーっ!!!


なにより幼年期のかわいいアニスと対比して、16歳のアニス誕生日NTRがほのかにエロっぽく書けたのも最高の俺的グッド!



あと、食堂にいた給仕の美人奥さんに助演女優賞を個人的に送っておきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] あらまあ魅了・洗脳系の 魔眼 持ちのクズ勇者と思ってたら、それは精々の補助スキルで、要は普通に女たらし勇者か。
[一言] とりあえず勇者は人の女に手ぇ出す人型ゴミやから用が済んだらサンドバッグ奴隷堕ちやな
[気になる点] 鑑定、、、人の心も鑑定出来る 何故アルは心の鑑定が出来るのにしなかったのかが分かりません 蜂の巣の下りで危険な物から鑑定が遠ざけてくれるなら他の事にも鑑定が仕事をしてくれ無いとおかしい…
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