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「僕、今でも夢に見るんです。」僕はみんなに語ってやる。
あの日、僕が追い出された半年前、僕はいきなり呼びつけられ、『鑑定』しか出来ない僕がいかに無能か、荷物持ちとしてもいかに役立たずか、僕がいるだけでどれだけ無駄と面倒があるかを滔々と諭されたうえ、身ぐるみをすべて剥がされ、無一文で宿を放り出された。
勇者であるロイド様は理路整然とにこやかにただ厳しくお言葉を述べ、魔女アマンダ様は当然とばかりに非難の声を重ね、幼馴染の剣聖アニスは「ついにこの日が来たか、でも仕方がない」と冷めた目で僕を見つめ、聖女アンナ様は残念そうに眉尻を下げ、でも何もおっしゃらなかった。
だから僕は、ここにいる4人全員が素っ裸になりこのまま宿から追い出され、そののちに改めてまた5人でパーティを再結成するのが一番いいと考えている。
でもそれじゃあ、可愛い女の子たち3人を裸にしなければならないでしょう? そんなことはよろしくないから、ここは一番立場の偉い勇者様が代表してくれればいいと思ったんだ。
でも僕は寛大だから、裸に剥くのではなく土下座してくれればそれで十分だと思ったんだ。
「君は自分が何を言っているのか、分かっているのかい?」勇者様は笑顔でそうおっしゃったけど、くちびるの端はヘンにゆがんで、心なしか声も震えていた。
「逆にお尋ねしますけど、僕が戻る必要、ありますか? どれほど僕が必要なんですか? べつにいらなくないですか? 『鑑定』だけの僕に何をさせるつもりなんです?」
「それは……」勇者様が言葉を失ってしまわれる。
「もしそれほどまでに必要としてくれるなら、土下座一つで丸く収めようという僕の意を買ってはくれませんか? それとも実は違うのですか? 女神の神託か何かで『鑑定持ちのアル・カーターを呼び戻すよう』言われて、訳も分からずいやいやながら従っているのではありませんか? どうなのですか?」
「あなた!」魔女アマンダ様が顔を真っ赤にして掴みかかってくる。
突然の展開にびっくりした聖女アンナ様が目をぱちくりさせている。
「止めて!」間に割って入ってきたのは幼馴染の剣聖アニスだった。
「お願い、止めて!」それからアニスは僕に向き合うと、その場で膝をつき、身体を投げ出し、僕の前で土下座をしたんだ。
「お願い、アル。あなたの力が必要なの。あたしたちに力を貸してください。」土下座しながらそういうと、顔をゆっくりと上げた。その目には大粒の涙が溜まっていた。
そんな彼女に、聖女アンナ様が駆け寄る。
魔女アマンダ様もびっくりされてしまい、動かなくなってしまう。
勇者ロイド様がそんなアニスを一瞥すると、僕に向かってこうおっしゃった。
「君は女性にここまでの事をさせて、恥ずかしいとは思わないのか?」
「と言いますか、僕は勇者様が土下座をしてくれればそれでよかったんですけれど。なんであなたはそんなに偉そうなんです?」
「なっ!」それから勇者様は、また言葉を失ってしまわれた。
「お願いよ、アル。勇者様には無理を言わないで。私がいくらでも頭を下げるから、お願いだからパーティに戻って。」ぽろぽろと涙を流しながらアニスはそんなふうに言って来る。
「ロイもお願い。これ以上アルを刺激しないで。私はアルと幼馴染だから、ここは私に話をさせて。」
おやおや! 勇者ロイド様はアニスに「ロイ」って呼ばれているらしい。二人はとっても仲良しなんだね。
「分かった、君に任せよう。だがアニス、君が膝を屈してはいけない。君は栄誉ある剣聖なのだから、どうか立ち上がって対等に話をしてほしい。」
アニスはのろのろと立ち上がった。そんなアニスをおもんばかって、聖女アンナ様が横から抱き支える。
なんだかいい感じに僕が悪者になってきたね。まあ別にいいんだけれど。
「それじゃあお言葉に甘えて、二人きりになる場所に移動してちょっと話をしようか? 僕も正直状況がよくわからないので、君にいろいろ教えてほしいんだ。どうもほかのお三方では話がうまく出来そうにないし。」僕がそうアニスにそう声をかけると、またまた勇者様からの横やりが入った。
「待ちたまえ! 妙齢の婦女子を男と二人きりにさせるわけにはいかない。話し合いはこの場でしなさい。」
僕は絶句してしまった。
それでそのあとどうしようかと迷った挙句、正直に言ってしまうことにした。
「僕がアニスの婚約者だった時、あなたはアニスを誘って良く二人で出かけていましたよね? おまけにアニスはあなたの恋人かもしれないけれど婚約者ではないですよね? 別に僕がアニスとちょっとの時間二人きりになっても誰も困らないですよね?」
「そういう問題ではない!」
「えええええーっ。」うん、弱った。僕はどうしたらいいんだろうね。
「大丈夫だから! あたしとアルはただの幼馴染だから! あなたの心配するようなことにはならないから! いざとなったらちゃんと逃げるから! ほらアル! 行きましょう!」
さすがにアニスはなんだか恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして僕の手を取り、そのまま宿の外に引きずり出された。
勇者様あたりがついてくるかと思ったけれど、さすがに勇者様もそこまでアレなお人ではなかった。
どうでもいいけど「あなたの心配するようなこと」ってこの期に及んでシモの話ですよね? 救世の勇者の一番の心配事がそんなのでいいんでしょうか?