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10.

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1か月の月日が過ぎた。

僕は重大な決断をしなければならない。

そう。再び僕が「加害者」になる決断だ。


結論から言うと、アマンダ様が育たなかった。

いい感じに卑屈になって、なんでもいう事を聞くようになって、裸で●●●とか×××とか平然と出来るようになったのに、肝心なことが出来ないままだった。


魔力のリミッターが外れなかった。


アマンダ様には圧倒的な火力で電光石火の先制攻撃をしてもらって、敵に準備をする機会を与えることなく壊滅してもらうつもりだった。


今代の勇者様はあまりに非力な上、本来賢者としてパーティを縦横に引き締めるべき僕があまりにへぼだったせいで、僕たちは過去の勇者パーティに比べてとても戦力が低いのだ。


だからアマンダ様の心のリミッターをなんとか外してもらって、本来『魔女』が持つ無尽蔵の魔力をすべてぶつけられるようになってもらえばいい。


これが一か月前の僕が導き出した最善策だった。

その為の洗脳だった。


僕は見誤っていた。

魔力のリミッターを外すような行為は命にかかわるもので、どんなに洗脳をして彼女を追い込んでも、おいそれとどうにかなる問題ではなかったんだ。

本当は彼女はよくやってくれていた。僕の計算する最大値に対し、7割、8割くらいの力は出せるようになっていた。

本来はそれだけで超一流の魔術師の仕事、一番に褒められるべき快挙だった。

けれども僕は叱咤した。もっと出来るはずだと彼女を苛め抜いた。

うまくいくはずがなかった。


人間というものはよくできていて、どんなに強い洗脳や催眠も、自らの命に係わる事柄になると殆ど利かなくなる。騙し打ちみたいに目隠しして崖から突き落とすような方法ならやりようがあるけれど、魔力リミッターを自らの意思で外すなんて、洗脳ごときでどうにかなる問題じゃなかった。

だから見誤ったのは僕だった。


皮肉なことに、リミッターを外して見せたのはアニスだった。

アニスはこれ以上強くなる必要なんてなかったのに、魔王を倒したい一心から刀を振り続け、たった一か月で剣聖の限界を超える力を手にしてしまった。なんとスキルが変化して、剣神とかって初めて見たんですけど。

そんなアニスの原動力が、子を失った悲しみを魔王討伐に転嫁する、いわば狂信だった。


そうか宗教の力を借りて狂信者に仕立て上げればよかったのか。


そう気づいたのはもう約束に決めていた終わりの日が間近にせまる頃だった。

だがこの着想が、僕に次の一手の光明を見出させてくれた。


「あるじゃないか……。狂信者による、魔力のブーストアップ。」



それはまさに悪魔の所業。


彼女の腹の中に、悪魔の子種を植え付けて宿す。

着床した「それ」は、母体を自分の都合の良い環境に作り変えるため、大量の魔力を流し始める。

確かに魔力は跳ねあがるものの、母体は人ならざるものへと変容する。


悪魔崇拝の狂信者達が編み出した、世にもおぞましい地獄の所業。



「どうじでっ! わだじっ! 全部いうごど、ぎいできだじゃないのっ! どうじでっ!」

「確かにアマンダ様は全部聞いてくれました。辛かったろうに、本当に我慢して耐えてくれて、あなたには感謝の言葉もありません。


でもこれ、そういう問題じゃないんですよ。このままじゃ勝てないんですよ。だから僕はあなたにこうするんです。


僕を恨んでくれていいですよ。全てが終わったら、アニスと二人で僕を殺してくれていいですよ。でも今は世界の大事なんです。ですから、諦めてこれを受け入れてください。」


「ぞんなっ! やくぞくがぢがうわっ! いうごどぎげばぞれでいいっで!」

「確かに言いましたけど、約束したわけじゃないんです。だから諦めてください。」


「ぶざげんじゃないわっ! あんだにぞんなごとずる権利はないっ! あんだにじだがう義務もないっ! ぶざげんなっ! ぶざげんなっ! ぶざげんなっ!」


なおぎゃあぎゃあと喚くアマンダ様を冷ややかに見返しつつ、僕はアニスに向けて顎をしゃくった。

心得た様子のアニスはドカッと一発蹴り上げて、おとなしくなったアマンダ様を担ぎ上げる。


アニスは今、不思議がっている。どうしてアマンダ様はこんなにも反抗してるんだろうって。あたしたちは全員、アルに絶対服従なのにって。


違うんだアニス。これは君とアマンダ様の人間の違いなんだ。

覚悟と絶望と決意の全てを総動員して、自らの腹の中の子を堕胎した事実を受け入れたアニスには、ゆるくて適当でいい加減なアマンダ様の人生観がまるっきり理解できないんだ。

二人は同じの18歳の女の子たちなのに、まるで立ってる位置が全然違うんだ。


でもアマンダ様が悪いわけじゃないんだ。僕らは本来、5人そろってただの18歳のガキんちょで、アマンダ様みたいにぶー垂れているのが全然許される年頃なんだ。

それがなんだか魔王討伐とかって下らないイベントに引きずられて、こんな望みもしない舞台に無理やり立たされているだけなんだ。


だから本当は、アニスも一緒になって僕に腹を立ててくれたら良かったんだ。

でも責任感の強い君が一人自らの不幸を飲み込んで前に進む覚悟をしてしまった瞬間から、君はアマンダ様とは決定的に違ってしまったんだ。


そして君がそんなふうになってしまった原因の一つである僕は、自らの所業を悔いるあまり、更なる悪行を重ねようとしているんだ。

だから今、本当は君にも僕を非難してほしかったけれど、おバカな君があっけらかんと僕に付き従うばかりだから、僕はますます惨めな気持ちになるんだ。



さて、そんなこんなでサクッと近所の悪徳領主の隠し施設からお目当てのブツ(悪魔の精)をパチくって来た僕たちがアマンダ様に施術したところ、なんとこれが一発で成功。

とんでもない魔力を一度に吐き出せるようになりました。


その弊害として、それまでアマンダ様が操ってきた美麗で華やかな魔法の数々はすべて使えなくなりましたが、大丈夫!

僕が『鑑定』さん知識から引っ張り出してきた凶悪な殺傷破壊魔法陣。魔力コスパは著しく悪いですが、今のアマンダ様ならいくらでも魔力を注ぎ込めるので、とんでもない威力が発揮できます。

その破壊力はなんと、かつてのアマンダ様の最大火力のおおよそ31倍!

7~8割でどうにか100%を……とか悩んでたかつての自分がアホらしくなってくる結果ですね。


なにより素晴らしいのがこれ、僕が用意した魔法陣に魔力を流して初めて魔法が発動するのです。


そう! アマンダ様の暴走による暴発の危険性が限りなくゼロになったのです!

そこらの女学生に国を亡ぼす力を与えちゃいかんでしょ、っていう最大の懸案事項が一挙に解決したのです。


代わりになんか、僕の責任がすさまじく大きくなった気もしないでもないですが、そこはそれ。まあ何とかうまくやってみせましょう!


え? 僕の暴発の危険は大丈夫なのかって? それはなんとも……。

まあ、そもそもこの世界の人間はたった5人の勇者パーティに責任のすべてを押し付けるような外道の集まりなので、僕がうっかり暴発しても不幸な事故ということで見逃してもらいましょう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前回聖女の事については鑑定していたのに魔女については鑑定していなかったのですか? 話が進んでいく毎に賢者の無能ぶりが分かってきますね
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