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9.

チンモゲました。

 9



「ふむーっ! むむーっ! ふむむーっ!」さるぐつわをされた勇者様が先ほどから大変うるさいですが、今から去勢手術を行います。


執刀は剣聖アニス。助手のアマンダ様は切除後の患部を焼くために魔法の準備をしています。

さらにその助手の聖女様は、大きなビンになみなみとヤギのミルクを注いだものを手にして待ち構えています。


なんでヤギのミルクだって? いやなんか知らないんだけど、《切断しちゃった指とかミルクに入れてすぐに病院に持っていけばくっつくかもしれない》って『鑑定』さんが言ってた。ちなみに異世界情報です。ホントかな?


この世界ですぐに病院にってわけにはいかないので、アマンダ様の空間魔法ストレージに保管してもらう手筈となっています。なんか中の時間が止まっているらしいので。

それで世界が平和になった後にでも、気が向いたら勇者様に戻してあげようという算段なのです。


ところでアマンダ様のストレージはお気に入りの紅茶とか化粧品とかドレスとか宝石とか、彼女を彩るキラキラしたものしか入っていないですが、そこに勇者様のブツが加わるのです。

意外と違和感ないんじゃないかと思うんだけどどうだろう?


アマンダ様は最初嫌がりましたが、「絶対服従」と僕が言い背後のアニスが睨みを利かせるとすぐにおとなしくなりました。まだまだ調教が足りないなあ。



さて、僕たち5人が救世の旅を続けるにあたって、僕たち全員がそれぞれに改めなければならないことがある。

先ほどの会議はまさにその点についての話し合いで、僕たちは遅くまで色々と意見をぶつけ合った。


「ごんなにちゃんどはなじあっだの、はじめでのごとよ。」アマンダ様は最後、へとへとになりつつも、すっかり満足した顔で嬉しそうにうなずいた。

不細工にゆがんだ顔だったけど、なんだかそのしぐさはとっても可愛らしかった。

ほかの二人もずいぶん晴れやかな顔で、聖女アンナ様はキラキラと尊敬の目で僕を見てくるし、アニスは何故か我が事のように自慢げだった。


勇者様は部屋の端でポツンと膝を抱えておられました。一度逃げ出そうとしたけれど、「あなたの救世の旅のための話し合いです!」とみんなで詰めて、それからは観念してくれました。



まずは僕。

もう先に少し語ってしまったけれど、僕は今まで傍観者でありすぎたから、自分から行動を起こし、自分で責任を取るという、みんなが当たり前のように毎日実施している行為についてまるで理解していない。

何より頼みの綱の『鑑定』さんがそれを理解していない。『彼女』には一生それがわからない。


だから僕はそれを誰の力も借りず、一人でそれを覚えなきゃいけない。どうやって?


ついこの間までの僕。勇者パーティのおまけで引っ付いているしけた顔の荷物持ち。はたから見たらどう見ても「被害者」だよね。だからみんな同情してくれる。

でもそんな人間に世界が救えると思う? 違うよね。

だから僕が世界を救うためには、僕は「被害者」であることをやめなければいけない。


どうやって「被害者」をやめればいいの? 簡単だよ。

僕は今から「加害者」になるんだ。


正確には「加害者」になる覚悟、かな。


どんな善行でも、それを行えばどこかに被害を及ぼす可能性がある。

例えば僕が良かれと思って女の子を助けても、彼女の恋人にあらぬ誤解を生ませてしまって、二人の仲に亀裂が入るかもしれない。

行動を起こすこと、加害者になる可能性を受け入れることは、本来同一のものだ。

もちろんいつでも加害者になるわけじゃない。行動することで被害を被る人がいるかもしれないって事を決して忘れるな、これはそういう覚悟の話なんだ。


もちろんそれをわかっていない人は世の中に大勢いるけれど、今の僕には関係ない。

これは僕の問題で、肝心なのは僕がそれを理解することなんだ。


僕はアニスのお腹の中をつぶすことで、「加害者」としての一歩を踏み出した。

アマンダ様に酷い仕打ちをすることで、「加害者」としての覚悟を自らに問うた。


そして今、僕は勇者様の性器を切り落とすことで「加害者」としての自信をつけようとしているのだ。

あれ? いい話が最後で台無しになったぞ? まあいいや。



次にアニス。

アニスは実はもう、仕上がっている。

たった昨日今日の出来事だけで、彼女は戦う女へと生まれ変わってしまった。


もともとお腹に子供が宿った時点で覚悟を決めたアニス。

でも僕がそれをつぶしたことで自らの過ちに気付き、アマンダ様のあの卑しい独白に自らの愚かしさを理解したのだ。


アニスはアマンダ様に対して思うところはないけれど、あの時アマンダ様に「ざまあ」って思われてたのを知ってそれだけは本当にショックだったみたいだ。


「なんであたし、避妊しようと考えもしなかったんだろう。」

そりゃあアニス、君は知らなかっただけだからね。人間知らないことについては考えることも出来ないからね。


でもすっかりしょげかえったアニスを、話を聞いてびっくりした聖女様が懸命に慰めて、アマンダ様が便乗して「わだじがわるがっだのよ」とか言い出したので「アニス。」ガンッとみんなの前てアマンダ様の机びたんを披露した。


勇者様? 「ああ……」とかなんとか、分かったような分からないような返事をしていたようだけれど、誰も見ていなかったのでわかりません。多分本人もよくわかっていないんじゃないかな?


そんなわけで決意したアニスは「あたしがぜったいに魔王をぶっ殺してやるわ」って鼻息荒く息まいているけれど、残念ながらアニス。対人特化の君の武力は、魔王には通用しないんだ。

だから必ず、僕が君の望む未来のための道筋をつけてやるから、それまで君はその牙を完璧な状態に研いでいなさい。


「分かったわ!」ギラギラした目になったアニスが、国宝の大太刀をしゃこしゃこと研ぎ始めた。

そういう事じゃないんだけれど、まあ本人がその気ならこのままでいいだろう。



続けてアマンダ様。

アマンダ様についてはもうある程度道筋がついたから、あとは本人に事情を説明して納得してもらうまで延々と話すだけの作業だった。


「アマンダ様はもともと救世の英雄とか無理だと思います。それはさすがに自覚ありますよね?」

「あ゛るわ。」自分がクズだと認められるようになったアマンダ様は、それで一気に肩の荷が下りたのだろう、ずいぶんと穏やかな笑みで素直に首を縦に振った。


「ところがそんなあなたが自らに不釣り合いな、一国を滅ぼすほどの強大な武力を手にしてしまった。そしてそのことに対しての自覚が一切ない。ないですよね?」

「な゛いわ。全然ぴんとごないわ゛。」


「それがとにかくやばいんです。

あなたはクズですけど、クズっていう事がどういう事か、自分で分かってないんですよね。それが実は大問題なんです。

だから僕がうまく自覚させて、この先クズが暴走しないよう、なんとか僕のコントロール下に置きたいんです。」


そこで僕が提示したのが一か月間にわたる洗脳合宿である。とにかくこの人を世間に触れさせると、安全、安心、楽な方へと際限なく逃げようとするので、少人数で隔離された空間に閉じ込めて、徹底的に洗脳、調教する。

感情を排した戦略兵器として運用できるようにするため、徹底的にブレインウォッシュをしてやるのだ。

心の洗濯? みたいな。


ってなことをなるべくソフトな感じでやんわりと説明すると、意外にやる気を見せてくれた。

「クズなわだじがうまれがわるだめのとっぐんなのね。」いや、あなたはこれしても生まれ変わらないです。ただ僕のいう事に徹底的に従うようになるだけです。


それで後半は合宿の予定についての相談。僕とアマンダ様、それからアニスの三人で山に籠もることになるだろう。


「ちょっと待て!」ここで勇者様が声を上げました。そういえばそんな人もいましたね。


やれ「迫るザカーを前にそんなことしている暇はない」だとか「三人きりは危険だ」だとか「君は信用ならない」だとか「私もついていく」だとか。

要はこれ、あれでしょう? 勇者様のいない間に3人で「ナニ」しちゃうのかって、そんな心配だけでしょう?


「どのみちザカーには今のままでは勝てません」とか「かなり厳しい洗脳するんで、余計な心配事は増やしたくないんです」とか「あなたではアマンダ様を甘やかします」とか「いや無理です。」などと反論するも、一向に聞く耳を持たない。


「だったら代案を出してくださいよ。」

僕はぴしゃりと言ってやる。


「さっきっから勇者様、文句ばっかりじゃないですか。

だいたい文句なんて子供でも言えるんですよ。生まれたばかりの赤子だって、いっちょまえに文句並べてわーわー泣くじゃないですか。「ママはもっと僕にかまって」「ママは僕を可愛がって」。

今の勇者様、まさにそんな感じじゃないですか。

そんなん誰でも出来るんですよ。そうじゃなくて、じゃあ代わりにどうするかって代案を出してくださいよ。

凶悪殺傷兵器を一切暴走させることなく、安全、安心、安定したアマンダ様の武力運用するための管理方法を考えてくださいよ。

僕は今、一般市民の陳情を聞いているわけじゃないんですよ。僕たちが力を合わせて魔王を倒さなきゃいけないんじゃないですか。

僕たち当事者なんですよ。

ちゃんと意見を言ってくださいよ。どうしたらいいか、なんでもいいからアイディアを出してくださいよ。」


すると勇者様はおっしゃいました。

「アマンダは大丈夫だ! アマンダは今のままで問題なく貢献してくれている! 余計なことをする必要はない!」

それは意見じゃねぇっ!


「それでザカーに負けておめおめ逃げ帰ってきたのが今のおめーらじゃねぇか!」


おっと、つい頭に血が上って、殿上人たる勇者様に汚い言葉遣いをしてしまった。


でもかわいい女の子たちがそろって三人、うんうんと頷いてくれたのです。

そしたら勇者様は黙ってしまわれました。


「アマンダ様はどう思います? あなたは今のままで、クズな人間がその力を正しく行使できるって思えます?」

「わだじは自分で自分がじんじれないわ。わだじはあなだにぜっだい服従するから、あなだがきめてぢょうだい。」


「では一か月間の洗脳合宿決行です。」

アマンダ様は少しばかり不安げな、でも決意した表情でこくりと頷きました。


「そんな! アル様!」ここで声を上げたのが、聖女アンナ様です。


ここからはそんな聖女アンナ様の問題です。



聖女アンナ様。

アンナ様は難しいね。本当にアンナ様は難しい。だってこの人、僕のことが好きだからね。


「アンナ様。アンナ様を一緒にお連れして合宿に行くわけにはまいりません。」

「なぜです! アル様!」


「ではアンナ様。そんなアンナ様に大事な質問です。アンナ様は今、エクストラ・ヒールが使えますか?」

「むぐっ!」アンナ様がヘンな感じで空気を飲み込みました。


「アニス。アマンダ様。ここ最近で、アンナ様にエクストラ・ヒール使ってもらった覚え、あります?」

「ぞういえばないわね。」

「あたしも見たことないわ。」

「ないですよね。だって使えなくなっちゃったんですものね。」


「酷いですアル様っ! それは言っちゃダメなんですっ! お願いですから黙っててくださいっ!」アンナ様がぽかぽかと僕の事を叩いてきます。


アニスが一瞬大太刀に手をかけて、どうしていいかわからなくなって僕を見てくる。僕はそんなアニスをたしなめる。


さて、アンナ様の問題はかなり深刻だ。

セックスという最高の遊びに目覚めてしまったアンナ様は、ずぶずぶハマってそれしか考えられなくなり、そしたらどんどん女神さまの声が遠くなっていってしまわれた。


別に女神様と交信するのに「清純」である必要はないと思う。過去に処女じゃない聖女様はたくさんいたし、彼女たちもちゃんと聖女してた。


ただ、女神様は耳年魔だけれど男性とのお付き合いがまったくない、恐らく処女神なんだよね。


それがアンナ様が性に狂ってから、お互いにお互いが何考えてるか分かんなくなっちゃったみたいなんだよね。

何せアンナ様は四六時中心の中がピンク色で、女神様はそもそもピンクな体験、一度もしたことないからね。


それでアンナ様はどんどん女神様のお声が届かなくなって、女神様もアンナ様の事がわからなくなっちゃって、それで女神の奇跡と呼ばれる神級魔法が使えなくなっちゃったみたいなんだよね。


なにせ神級魔法、あれただアンナ様の掛け声に合わせて女神様がちょちょっと自分の力を使っているだけだからね。

そりゃあ心が通じなくなっちゃったら使えるわけないよね。


「え゛え゛え゛え゛え゛ー……」話を理解したアマンダ様、すごく残念な声を上げた。

「うううううっ。」アンナ様が顔を真っ赤にして首をふりふりした。いや、可愛くしたって問題は何も解決しませんからね。いや可愛いけど。


「ぞじだらどうじで、アンナは数日前、アル・カーターにづいての神託をうげることができだのがじら?」アマンダ様が鋭い質問を投げかけてくる。


あー。それ今聞いちゃいますか。


「それはたぶん、アンナ様も女神様も、僕のことが大好きだからでしょうね。そこだけ二人の気持ちが一致してるから、その神託だけアンナ様に届いたんでしょうね。」


「えええええっ!?」今度はアニスが食いついてくる。

「どういうことなのっ!」何で君がそこで声をあげるのか、まあ分からないでもないけどすごく嫌な気持ちになるんですが。


まあいいや。

「せっかくだから隠し事は無しにして、その辺も全部暴露してしまいますか。」

「いやですーっ! アル様ぁーっ!」またぽかぽかと僕の胸を叩いてくるアンナ様。


アンナ様の生い立ちは少々特殊だ。

もともとただの孤児で、教会脇の孤児院でみんなとわちゃわちゃ暮らしているうちに、ある日聖女の力に目覚めてしまった。

アニスなんかは15歳の祝福の儀でスキルを得て剣聖になったけど、アンナ様はちっちゃいころに目覚めて先に聖女になったようだ。僕と同じだね。


それですぐさま大聖堂のうんと奥に匿われ、世俗を捨てた生活を送らされる羽目になったんだ。大聖堂なんて聞こえはいいけど、その実態は男子禁制で女性ばかりのただの隔離施設だ。

でもアンナ様は孤児院での記憶が全部残ってた。幼い頃から賢くおませな女の子だったアンナ様は、孤児院でのたった数年程度の生活の中だけでも、男女の睦み事なんかをすでにかなり正確に理解してしまっていたんだね。


当然アンナ様は興味津々だった。

でも教会の中ではとてもそんな話は出来ない。悶々と一人もだえる日々がつづいていたそうだ。


そんな中、とんでもないチャンスが訪れる。そう、勇者パーティとの魔王退治だ。

なんと教会を離れ、たった5人で救世の旅を何年も続けなければならない。

しかも5人の中には男の子が2人!


これはチャンス! 舌なめずりするアンナ様の顔が浮かぶようだね。


何せアンナ様は、救世の旅が終わればまた大聖堂に閉じ込められ、それから生涯、女しかいない特別区域で生きてゆかなければならないんだからね。


だから、数年の間に何としてでもいいことをしてやろうと、まあそんな決意で満々だったんだね。


初顔合わせでアンナ様が目を付けたのは、あろうことか僕だった。

理由がまた酷い。


そもそもアンナ様の性知識は幼い孤児院での思い出から止まっていて、当時アンナ様の周りにいた男の子は、みんなちっちゃい幼児・子供ばかりだった。

その後久々に世俗に出てきて出会った二人の男の子のうち、勇者様はその、成人男性の身体をしていた。

対する僕はいまでもちんちくりんだけど、あの時はもっと子供だったから、僕の身体の方が見慣れたものに近かったんだ。

だから僕が良かったんだ。

アンナ様は勇者様の逞しい身体が、なんだかちょっと、怖かったんだ。

だから消去法で僕を選んだんだ。

「だってぇ。だってぇっ。」アンナ様が恥ずかしそうに上目遣いでこっちを見てきます。可愛すぎて、すげえ破壊力です。


「僕言いましたよね。最初に会ったとき、アニスと婚約しているって。旅が終わったら結婚するつもりだって。それが何でその話聞いてなお僕をロックオンするんですか。」


なんか隣のアニスがいやんいやんしているけど可愛くないから無視しつつ、実のところその理由も全部わかっている。


アンナ様の外道な思考回路では、旅の間だけいい思いが出来ればよかったんだそうだ。救世の旅が終わったらどうせ大聖堂に閉じ込められる。数年の間だけが自分の自由だ。

だったらその間、アニスは自分に婚約者を貸してくれてもいいじゃないか。自分がアル様といちゃいちゃしたっていいじゃないか。

どうせ二人は後で死ぬまでイチャイチャ出来るんだから、たった数年くらいいいじゃないか。

酷い思考回路だよね。


「え゛え゛え゛え゛え゛っ……。」またアマンダ様が変なうめき声を上げました。

「ぜったいにダメっ!」なんかアニスが声を上げましたが、むしろ全然、オッケーなんですが。だいたい僕今フリーだし、アンナ様超好みだし。


まあただ、当時の僕はそんなふうには思えなくって、アンナ様のへたな誘い(下着姿で部屋に飛び込んでくる、隣に座ってスカートの裾をチラチラ持ち上げてみせる、等々)を全部無視していた。

「ひどいですーっ。知ってて無視するなんてひどいですーっ!」アンナ様が抗議のお声を上げました。可愛い。


まあそんな感じで可愛いアンナ様を適度に躱しているうちに、勇者様の毒牙が彼女を襲い、すっかり彼女は虜になった。


虜になった彼女はそのうえで、さらに外道な思考を広げる。


最初は怖かった勇者様でもこれだけ気持ちいいならば、好感度MAXのアル様と一つになったらどこまで私は気持ちよくなれるのか……ごくり。


それでアンナ様は、勇者様といちゃこらしつつも、陰でこそこそ僕を誘い続けたんだ。

(僕の太ももを撫でてきたり、後ろからおっぱいをぎゅっと押し付けてきたり、等々)


今なら喜んで誘いに乗るところだけれど、当時の僕には気持ちが悪かった。何考えているかわからなかったからね。もちろん『鑑定』さんが彼女の胸の内を伝えてくれはしたけど、その意味が僕にはわからなかったんだ。当時の僕は卑屈だったから、彼女に愛される理由が分からなかったんだ。

けどまあこれは、アンナ様も悪いと僕は思う。


だってそもそもなんで僕がいいんだって、その理由がひでえんだ。


アンナ様は僕らの前ではこんな感じだが、一歩人前に出ると、すげー外面がよくなるんだ。まるでこの人だれ? ってくらいにすまし顔の別人みたいになるんだ。

それで気心知れた人間の前でだけ、相好を崩して疲れたーっなんて言って甘えてくるんだ。


そうこの人、めちゃめちゃ内弁慶なんだ。自分のテリトリー以外では借りてきた猫みたいにおとなしくなるんだ。

だから嫌だ嫌だと口にしつつも旅が終わったら大聖堂に戻るつもりだし(そこでしか生きられない)、救世の旅では僕たち5人以外とはぜったい仲良くなるつもりもないんだ(すぐ僕か勇者様の後ろに隠れる)。


だから勇者様か僕かのどっちかしか、この人は最初から考えていなかったんだ。

勇者様より僕の方がまだまし、そんな理由だったんだ。

むしろあわよくば二人とも、それがこの人の魂胆だったんだ。


「アル様! そこまでご存じなら私はもう自分の胸の内を隠したりはいたしません。ずっとお慕い申しておりました、アル様。私はあなたと特別な関係になりたいのです。」


さっと手を差し出すアンナ様。


「ごめんなさいっ!」


僕はお断りしました。


アンナ様がこの世の終わりみたいな顔をなさる。


「いやいやアンナ様。だってあんた、エクストラ・ヒール使えませんやん。」

「えーっ。今その話はよいではありませんか。」

「いやまさに今その話をしていたんですけど。」

「えっ?」


つまりこれがまさに、アンナ様の問題なんだ。


欲ボケ。


どうにかしてこれを何とかしないと、肝心かなめの防御結界、蘇生回復が使えないことになり、そもそもの戦略が瓦解するんだ。


「というわけでアンナ様は、一人隔離して荒行をしていただき、女神様と再び交信出来るようになっていただきます。」

「えええーっ。」アンナ様がぶー垂れます。「私もアル様といっしょがいいですーっ」可愛く駄々をこねます。

「駄目です。アンナ様は僕が近くにいるだけで、際限なく脳みそがピンク色に染まります。ここは一か月、「アル様」断ちをしていただきます。」

「やーだーっ。やーなーのーっ! 半年も我慢したのに、せっかく再会できたのに、あとさらに一か月なんてむーりーっ!」

すげえガキみたいな駄々こねだしました。


はあやれやれ。

仕方がないので作戦Bへ移行。


「実は僕も、アンナ様の事、大好きです。本当は僕も、あなたと一つになりたいと思っています。」


「えっ?」アンナ様の顔がキョトンとなります。


「でも今は駄目です。女神様と繋がってないアンナ様は駄目駄目です。はっきり言って嫌いです。」


「えっ?」アンナ様が泣きそうな顔になります。


「僕は本物の『聖女』様であるアンナ様が好きなのです。エクストラ・ヒールが使えないアンナ様は嫌いです。使えるアンナ様が大好きです。」


「えっ!」アンナ様の顔に希望の光が差します。


「ぜひとも荒行を行って、女神様と心を通わせてください! 僕の大好きな本物の『聖女』様になってください! そしたら僕はアンナ様にメロメロです。アンナ様のいう事、なんでも聞いちゃいます!」


「えっ!」アンナ様がキラキラした瞳で見つめ返してきます。


「無事に女神様とつながることが出来ましたら、ぜひともそのあとは二人でしっぽりいろいろ楽しみましょう!」


「アル様っ!」僕とアンナ様は、二人して手を取り合い見つめ合う。「私、頑張りますっ!」よし、ミッションコンプリート。


「ダメっ! ダメダメダメっ!」何やらアニスがうるせえ。

隣のアマンダ様は気の毒そうな感じでアンナ様を見ております。アマンダ様はアンナ様の事をそれなりに高く評価してきてたからね。ここにきて化けの皮が剥がれ、一挙に幻滅したってところだね。


しかし、これ、本当に大丈夫なんだろうか。

そもそもアンナ様の「色ボケ」を何とかしようというのに、その鼻先にぶら下げたニンジンが僕とのセックスだなんて。


『鑑定』さんは《100%失敗する》って言っている。でもそれが僕がこの作戦を決行した最大の論拠だった。


もともとアンナ様は、極限状態に置かれたときの適応力だけはちょっと常人には理解できないほどのすごい力を持っている。


孤児院のわちゃわちゃした環境から、厳格な大聖堂の聖奥にいきなり転居させられた時だって、驚くほどの適応力で馴染まれてしまった。


だから今回も、とにかくなんでもいいから隔離施設にぶっこんでしまえば、たとえ彼女の目標がどれだけゲスで外道なものであっても、超常の力みたいなアレできっと何とかしてくれるのではないかと思ったのだ。


『鑑定』さんは《絶対無理》とか言ってるけど、この件については鑑定さんは一切あてにならない。なぜならこれは、アンナ様の心の変化に期待する作戦だからだ。

『鑑定』さんは、自分が知ってる「変化」については自信をもって回答できるけど、恋する乙女のすごいパワーが未来にどう影響を及ぼすかなんて、『彼女』はきっと、知らないはずなんだ。

だって女神様ってば耳年魔のくせに男性経験なんて……。まああんまり悪く言うのは可哀そうだからやめておこう。


だからいける。


不安を飲み込むようにして、僕は心の中で強く念じた。

これも僕なりの「覚悟」の現れの一つのつもり。

伸るか反るかの大博打だ。


「ところでアマンダ様。あなたのそのぐしゃぐしゃになった顔ですが、しばらくはそのままでいてもらいます。」

「えっ……?」アマンダ様がとても悲しそうな顔になった。

「いやもちろん、アマンダ様がご心配の通り、しばらく醜くゆがんだ顔で過ごさせて、あなたの卑屈さ、惨めさをじっくり育てるのが一番の目的ですが……」

アマンダ様が「そうよね、知ってたわ」って顔になった。

「アンナ様のエクストラ・ヒール、使えないじゃないですか。それだとあなたのゆがんだ顔を完璧に治せないじゃないですか。

へたに魔法で治してしまうと、かえって固着して後で修正できなくなるの、アマンダ様の方がよっぽど分かっていらっしゃいますよね? ですからアンナ様の神の奇跡が復活するまで、あなたの顔はそのままです。」

「ぞうね。だじがにぞのほうがよざぞうね……。」アマンダ様の顔にも希望の光が射してまいりました。


「アンナっ! あなだはがならず、神のぎぜぎをものにずるのよっ!」

「はいっ! アマンダ様のためにも頑張りますっ!」


うんこれはいい感じにまとまってきたね。

まあ、アンナ様こけたらアマンダ様もどうしようもなくなるんだけれど、いざというときのためにエリクサー買えるだけの貯金を始めようかな……。あれっていったいいくらするんだろう。

《50憶ベザー》即座に鑑定さんが答えてくれる。うんこれ無理だ。

頑張れアンナ様!



そして最後に残りましたるは、我らが希望の勇者様。

僕はいじけた勇者様を端に追いやり、4人だけで顔を寄せ合ってこう相談を持ち掛けた。


「勇者様については特に何かしようという事もないんだけれど、実は一つだけ悩んでいることがあるんだ。」


そう言って僕は、三人の顔をひとつひとつ、じっくりと見まわす。

それからことさら真面目な顔をして。


「勇者様の男性器、あれは切り落とした方が世のためじゃないかって思うんだけど、みんなはどう思う?」


思い切って打ち明けてみた。


3人は目を真ん丸にしました。

それから一番最初に声を上げたのは、アマンダ様でした。


「ぶっ! ぐっ! ぐぐぐっ!」なんとアマンダ様は笑い出したのです。「ある・がーだー。あなだはどうやら、本物の『けんじゃ』なようね゛。だじがにゆうじゃざまにしでいただくごとは今なにもないけど、ごがんのアレだげは邪魔者だわ。ずばらじい洞察眼だわ。」

「でもアマンダ様。アマンダ様は勇者様のアレ、大好きでしょう? よく動いていいところに当たって、サイズもよくて何時間も泣かせてくれる。あんないいもの、他にないって思ってたでしょう? なくなっちゃいますよ?」

「べづにいいわ、ある・がーだー。わだじはクズなのだから、あれがあるど、まだクズなごとをがんかえでじまうと思うわ。ごごはざっぱり、きりおどじでじまいなざい。」



続けてアニスが声を上げました。「あれって切っても大丈夫なの? それならあたしもその方がいいと思うけど。」

「いいの? アニス。アニスは勇者様の子供が欲しいってずっと前から思っていただろう? 平和になったらもう一度作るチャンスが生まれるのに、それが出来なくなっちゃうんだよ?」

「別にいいわ、あたしがバカだっただけなんだし。それにあたし、子供なら本当は……」なんかアニスがチラチラ気持ち悪い目で見てきた。うざいので無視します。

なにやら『鑑定』さんからピンクっぽい波動を感じるので、これろくでもねえ話に違げぇねえや。


アニスの秋波を払いつつ、「アンナ様はべつにどっちでもいいですよね。」僕はアンナ様に語り掛ける。

「だってアンナ様、そろそろ勇者様に飽きてきてましたもんね。」

「えーっ。」アンナ様が恥ずかし気にぽっと顔を赤らめる。

「え゛え゛え゛え゛え゛っ……」アマンダ様がげんなりとした顔になる。

「だって勇者様、最近なんだかワンパターンなんですもの。」

こればっかりは仕方がない。アンナ様は基本マグロで、相手があれこれ手を尽くしてくれるのが好きなんだ。対する勇者様も相手にあれこれしてもらうのが好きだから、二人の身体の相性は実はあんまり良くない。

「私、これがアル様だったらって……。」アンナ様が何やらチラチラと期待に満ちた目線を投げかけてきますが、「そういうピンクな思考を塗りつぶすために、アンナ様には一人荒行してもらいますからね。」ここはぴしゃりと叱りつけておく。

ついでになってアニスも一緒に怒り出すが、おめーに腹立てる権利はねーぞ。


「それじゃあどうやら反対意見もないようなので、勇者様のアレはアレするという事で、皆さまよろしいでしょうか。」

僕が最終確認をすると、みな一様に頷いた。



それで彼女たちは一致団結して大事に取り掛かった。

勇者様を机の上に縛り上げ、下半身をひん剥いて、刃を当てて。


僕はその間、見ているだけだった。僕はあくまで頭脳労働者で、実行部隊は彼女たちだからだ。今後は同じような形で戦闘や移動、生活を進めていくことになるだろう。

僕はやり方を考え、皆がそれに意見をし、決定したら後は僕は見ているだけ。

それがこれからの僕たちのやり方だ。

これはそんな僕たち新生勇者パーティが再結成して初めての共同作業なんだ。


彼女たちはさすがに何年も一緒に戦ってきただけあって、実に効率よく動いて見せた。


役割分担をして、てきぱきと準備をして、無駄口も一切叩かずに。

彼女たちは夜はいろいろだらしなかったかもしれないけれど、昼間は本物の勇者パーティだったんだ。


「分からないことがあったら、途中でなんでも聞いて?」僕は最初に声をかけたけど、まるで無駄な気遣いだった。僕はあとから恥ずかしくなってしまった。


半年前、荷物持ちとして腐していた僕は彼女たちがどれほど優れた冒険者であるか、まるで気付きもしなかった。

今ならわかる、彼女たちはSSS級だ。本当に救世の旅を続けてきた、本物の勇者たちだ。



ああ、感無量だ。

この女の子たちとなら、僕は安心して救世の旅に出ることが出来る。



きらめく刃の反射光を浴びて切り取られたそれを見ながら、僕は勝利を確信した。




剣聖アニス ・・・バカ、見栄っ張り、劣等感。

魔女アマンダ・・・クズ、小心者、虚栄心。

聖女アンナ ・・・外道、内弁慶、自分勝手。


こんな感じで出そろいました。3人とも私としては割と普通にめっちゃ好き。

いい感じに性格ばらけているので、アルのもとで一致団結するとほんとすごい仲良くなれそう。

生涯の親友になれたかもしれないね。まあもうあり得ないけど。


▼おまけ

賢者アル  ・・・マザコン、傍観者、自己不信。

勇者ロイド ・・・狂言回し、セックス依存症、キャラ立ってない、チンもげる。


ロイド様すんません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一生分つかったしもういいよね
[良い点]  間男のチンはやはりモイでおくべきものだと思うんですが、意外とざまぁや復讐モノでチンモギまでする作品は少なかったりするのでしっかりモイでおくのは大変スカッとしました。 [一言]  アニスち…
[良い点] 聖女は性女だったか‥ まさか最初からずっと勇者より アルに気持ちが向いてたのは 予想外でした。 正直、勿体無かったですね [気になる点] アニスは殆ど自らの意志で 裏切り行為してるし、 復…
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