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8.

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「第一回、魔王討伐作戦会議―っ!」

僕が高らかに宣言すると、聖女アンナ様がパチパチと手を叩きました。アンナ様は僕の左横に座っておられます。僕の右横にはアマンダ様がうつむき加減で座っていて、そんな僕とアマンダ様の間、少し後ろにアニスがぬぼっと突っ立っている。


勇者様だけが僕たちの前に一人で座っておられます。昨日と全く逆のポジションだね。


アマンダ様の調教洗脳が思った以上にスムーズに進んだため、一晩猟師小屋で肩を寄せ合いぐっすり眠った僕たちは、こうして朝になって宿屋の1階で5人、向き合っているのです。

勇者様と聖女様は、昨晩はお楽しみでしたか? 僕たちも拷問プレイでしっぽり楽しみましたよ。いやプレイじゃなくてリアル拷問だったんだけど。


ちなみにすっかり顔が変形したアマンダ様見て勇者様が「きさまあーっ」しましたが今回はアニスドカッ! とはならず、必死にアマンダ様が止めていました。

「お願いだがらざわぎにじないで!」アマンダ様は何故か自分がアニスに殴られると思ったようです。卑屈になっても自意識過剰はなくならないんだね。


「ところでその前に一つ質問なんですけど、勇者様って今までこんな感じで会議とかしてました?」

「……」勇者様はだんまりです。

僕がアマンダ様を見ると、「じでいながったわ……。」勇者様にじとり。

僕がアンナ様に横向くと、「していませんでした、アル様。」勇者様へにっこり。

僕がアニスへ振り返ると、「したことないわ、アル。」勇者様をじろり。

僕が勇者様を見かえすと、「……」勇者様は顔を真っ赤にしてプルプル震え出しました。


することしないでナニばっかしてましたもんね、分かります。


「まあそんな事はどうでもいいんです。どうやら本当に第一回な作戦会議の一番初めに、僕は最も重要な議題を上げさせていただきます。」


おほんと一つ、咳をして。


「勇者様、ほんとに魔王を倒す気あります? もしかして遊びで適当に口で言っているだけ、とかありません?」


「なっ!」顔を真っ赤にした勇者様が立ち上がりました。即座に反応したアニスが腰にぶら下げた大太刀の鯉口をパチンと大きく鳴らしました。

剣聖こえー。


なにやら脂汗らしきものを一筋垂らした勇者様が、無言で腰を下ろします。


「いや、今のは僕の言い方が悪かったです。勇者様ごめんなさい。

でもこれ、すごく大事なことなんです。僕たちはこのまま5人で魔王を倒さなきゃいけない。でも、その気持ちに少しでも偽りがあっては、この先前に進めなくなっちゃうと思うんです。だから、会議の一番初めに、僕たちはその思いをお互いに確かめ合うべきだと思ったんです。

ですから勇者様、あなたは魔王を倒すつもりがあるのか、その決意をあなたの口からきちんと聞かせてほしいんです。」

勇者はキッと鋭い眼光を僕に向けてきました。


「私の決意の前に、君の決意を聞かせてもらおう。

私たちには君抜きの4人でここまで育んだ固い結束があるが、君との間にはそれがない。

なればこそ、新たに新参者の君を迎え入れるにあたって、君自身の決意がなければとても受け入れることは出来ない。

まず君が決意を述べなさい。」


お、いい感じにパンチが返ってきましたね。さすが腐っても勇者様、いい感じに場を仕切ろうとしてくれます。さてさてこれはどうしたものか。


「勇者様、おっしゃることはごもっともです。

ですがこれは栄えある魔王討伐会議の、何より一番初めての会議なんです。

聞けば今まで、このような話し合いの場は一度もなかったというではないですか。

なればぜひともお聞かせいただきたいのです。

魔王討伐は勇者の業です。

これはあなたの救世の旅なのです。

僕たち4人はあなたに従い、あなたのためにこの場に集まったんです。

ですから今はまず一番にあなたの決意をお言葉いただけませんか?」


勇者様はしばし目を閉じ沈黙しておられましたが、カッとその目を見開きおっしゃいました。


「私は魔王を倒すためにここにいる。

その為に多くのものに協力を仰ぎ、皆の多大な尽力の元、この場にこうしている。

皆の思いを背負った私が、どうして魔王を倒さぬなどという事が出来ようか。

私は全ての民の希望なのだ。

私は必ずそれを成し遂げる。」


勇者様は立ち上がると、両手を鷹揚に広げて見せ、ことさらにっこりと微笑んでくださいました。


そしてまずは、聖女アンナ様をごらんになる。「アンナ、いつもありがとう。君のその癒しが私の萎えた心を奮い立たせる。」アンナ様のおっきいおっぱいに萎えた股間がおっきくなるんですね。

続けて魔女アマンダ様に微笑みかける。「アマンダ、王都で一番の医者をすぐに手配しよう。しばらく休んでから再び救世の旅に出よう。」二人でしばらく王都でしっぽり休むんですね。

そして剣聖アニスに真摯な目を向ける。「アニス、君は輝く剣聖だ。その奴隷紋に操られさぞかし苦しい思いをしているだろう。すぐに君を解き放ってみせよう。」そしてアニスの中にいろいろ放つんですね。


最後に僕の方へと向き直りました。「そしてアル。私は君を歓迎しよう。過去のいきさつから君が私を快く思っていない点については、私にも思うところがある。

私は立場から君に頭を下げるわけにはいかないが、むろんそのことを忘れるつもりはない。水に流せとは言わない、君が私をどう思おうとかまわない。

今はただ、世のため人のためにその力を私に貸してほしい。」そして再びいろいろと雑用としてこき使うんですね。


「さあこれが私の決意表明だ。皆私を信じてついてきてほしい。

そしてアル、次は君が、自身の決意を皆に明かしなさい。」



「……。」



僕は今、心の底から安心した。



今勇者様は「皆の多大な尽力の元」とおっしゃいました。

まさにこれが肝心だったんだ。


みんながいっぱい、勇者様のために骨を折ってきた。

戦乙女騎士団の団長様なんて特にすごかった。

「きみがわたしを自分のものにすることで恐ろしい魔王に立ち向かう勇気に変える事が出来るというのであれば、わたしは喜んできみにこの心と身体の全てを捧げよう。」

そういって婚約者がある身でありながら、涙を呑んで自ら進んでその処女を散らした。


一夜明けた団長様は死人の形相で婚約者様に会いに生き、一晩の全てを明かしたうえ、自らの責で婚約を破棄してもらっていた。

実家の伯爵家からも断絶され、多額の賠償金を一人で背負い、それでも団長様は一切の言い訳を言わず、その後も何度も勇者様に抱かれていた。


そんなひどい話が他にもいっぱいある。

みんながみんな、この方が魔王を倒す勇者様だっていうただそれだけの理由で色々便宜を図ってきたんだ。

そんなこれまでをなかったことにしないためにも、勇者様は絶対に魔王を討伐しなければならないんだ。


でも勇者様がどうしようもない真正のクズなら、それまでやらかしてきたすべてを放り投げて、この場で逃げる選択肢を選ぶ可能性があった。

自分が『勇者』という肩書きにあかせてやらかしてきた所業から逃げ出す可能性があった。


なにせ今まさに状況はとても異常で、勇者様一人を僕たち4人が詰めるような席の並びで、明らかに旗色は勇者様に悪く、いつの間にか僕に主導権を握られて。


でも勇者様はいま、僕たちの前で決意を見せてしまった。自分たちが実に多くの人に後押しされてここまで来たんだってことを認めてしまった。

自分ただ一人の問題ではなく、大勢の人間のかかわりあることなんだって頭で考え、理解して宣言してしまった。

そうして、後戻りできないところに自分を追い込んでしまった。


おかげで今、ようやっと僕は心底安心したんだ。


言ったな勇者。もうてめぇを楽な方へは逃がさねぇぜ?



「えー素敵な決意表明、ありがとうございました。では続けて、アマンダ様に決意の一言をお願いします。」

「おいっ!」勇者様が怒声を上げて、アニスがアレしてアマンダ様が喚いて勇者様が再び椅子に座る。この一連の流れ、めんどくさいから辞書登録したい。


「アマンダ様? 次はアマンダ様が決意表明してください。」

アマンダ様はびっくりとした様子で、とにかくぱちぱちと何度も目を瞬かせた。


そんなアマンダ様に、僕は優しく声をかけてやる。

「もしくは辛いとお感じになるようでしたら、降りるとおっしゃってもいいですよ。

正直、アマンダ様は僕たち5人の中で一番の小市民なんです。ついこないだまでただの魔術学園の女学生だけのお人だったんですから、無理に付き合わなくたっていいんです。

それにね、一つだけ安心してください。僕は5人全員が決意できないなら、こんな救世やめてしまおうって思っているんです。

あなたが無理なら、僕も無理です。僕だって小市民なんです。

世界を救うのは本来人類みんなで何とかすべき仕事であって、僕たち5人に押し付けられている現状が異常なんです。


だから、無理なら無理って言ってくださっていいですよ。そしたら僕も、無理って言いますよ。」


「……。」アマンダ様は泣きそうな、死にそうな顔でじっと黙ってしまわれる。僕を見て、勇者様を見て、また僕を見て。


アニスがイラついて、かかとを一回ドスンと鳴らす。

びくりとなったアマンダ様が少しだけ椅子から飛び上がる。でも黙ったまま。


アマンダ様はどうしても自分で決められないようだね。


残念だね。彼女がこの馬鹿げた救世の旅から降りるのは、今まさにこの瞬間しかないんだ。この後3人が決意を表明してしまっては、アマンダ様はもう一人だけ降りることは出来なくなってしまうんだ。

4人が全員決意してしまうと、一人残った小心者の彼女は逃げ出せなくなるんだ。

だから3人が口を開く前の今だけが、彼女が降りる唯一のチャンスだったんだ。


これは拷問なんてひどい仕打ちをした僕が彼女に用意したせめてもの詫びのつもりだったんだけれど、どうやら伝わらなかったみたいだ。

アマンダ様は普段は自分が賢い人間だとか思っている癖に、こういう時にはポンコツだね。


「じゃあアマンダ様は後回しにしましょう。」あからさまにほっとするアマンダ様。それでいいんですね? アマンダ様?


「続けて、聖女アンナ様はどうですか?」


「もちろん私も、皆と力を合わせ魔王を倒します。ロイド様、私も皆様のために微力ながらもお力添えする所存です。それから、アル様?」アンナ様が僕に顔を向ける。「先ほど『僕も無理』っておっしゃいましたけれど、アル様もわたし達と旅をしてくださいますよね? これからはずっと一緒ですよね?」

どこか熱っぽい表情で見つめられてしまった。この方も色々問題があって、それでこんなことを言い出すんだけれど、この件についてはちょっと後回しにしないといけないね。


「まあ、その話はまた後で。アニス。アニスはどうなの?」


「あたしは、バカなあたしが死なせてしまった子供のために、必ず魔王をこの手で八つ裂きにしてみせるわ。」


僕とアマンダ様が思わずアニスの方を見上げた。能面づらのアニスはただ目の奥だけをギラギラとさせながら、じっと勇者様の方を睨みつけていた。


対する勇者様はにこにこと笑っております。この人『子供』がどっかそこらの別の子供の事だと勘違いしているんだわ。アニスは子供好きな可愛い女の子なんだなーとかってのんきにそんなこと考えてますわ。

いやあんた、あんたとアニスの子供の話ですがな。


「そしたら次は僕ですね。

僕も魔王を倒すのに頑張りますー。

ちょっと色々あって、自分がずっと傍観者でいたことにどうしようもない苛立ちを感じてるというか。

責任って言葉の意味を一番わかっていなかったのが僕だというか。

まあ色々と思うところがありまして。

なんでまあ、適当に頑張りたいと思いますー。決意表明終わり。」


「なんだその決意表明は!」立ち上がった勇者様が以下略。


「それでアマンダ様。アマンダ様はどうします? みんなの決意を聞いて、心は固まりましたか?」

「わだじは……。」この期に及んでまだごにょごにょいうんですね。この人すっげーちっせーっ!

『鑑定』結果を斜め下いく状況に僕も『鑑定』さんもしばし言葉を失った。


「……アマンダ様は自分では決められないですか?」

「ごめんなざい……。」

「謝られるとイラッてするんで止めてもらえますか。」

「……。」

「アマンダ様は決められないですか?」

「……その。」アマンダ様が口を開きます。「わだじは……。」アニスがイライラしていますが、僕はジェスチャーで必死に押しとどめます。「わだじ……。」


それから意を決して、アマンダ様はこうおっしゃいました。


「わだじは人間のクズだがら……。」


うんこの人はこのあたりが限界だ。小賢しいけど小心者のアマンダ様は、自分から決意を口にしてしまうと後で逃げられなくなるって分かってしまったんだ。

さっきの勇者様の決意表明を、それを言わせた僕の手口を、本能的に察してしまったんだ。だからどうしても決意を口に出来ず、でも代わりにみんなの前で自分がクズであることを認めたんだ。

豆腐メンタルなアマンダ様にしては、これは大変頑張ったほうなんです。


「分かりました。ではクズなアマンダ様は決意表明しなくていいです。

かわりにそんなアマンダ様に命令です。アマンダ様がこのパーティにいる間は僕のメス奴隷になってください。

あ、間違えた、僕に絶対服従してください。」


「え゛っ?」アマンダ様はキョトンとした顔になりました。


「いや実は、昨日協調性のないアマンダ様がいなかった席で、アニスやアンナ様とそんな話をしていたんです。

ちなみに聖女様は、僕に絶対服従してくれるそうです。」

「はいっ! 私はアル様に絶対服従します!」アンナ様は嬉しそうに手を上げて宣言されました。

「アニスも僕に絶対服従だよね?」

「あたしもアルに絶対服従するわ。」胸の奴隷紋が少し見えるようにはだけさせながら、アニスも高らかに宣言した。


「ちなみに勇者様は僕に絶対服従してくれないそうです。つれない方ですね。」

「当たり前だ!」目を三角にしてぷりぷりとそうおっしゃいます。


「アマンダ様もどうですか?

なに、僕たちがパーティにいる間だけでいいんです。

これはとても簡単な理由なんです。効率よく戦闘を行うには、兵士が指揮官の命令に絶対に従う必要があるんです。

このまま僕がパーティに戻るとなると、作戦指揮は僕の管轄になります。もちろん大将は勇者様ですが、立場としては僕が参謀ってところです。

軍隊において参謀の作戦は、絶対です。もちろん立案時点では自由に議論していいんですが、決断した先は、全て僕に従ってほしいんです。

僕の言っている意味、分かりますか?」


「分がりまず。」この返事はちゃんと理解してもらえてる返事だね。アマンダ様は自分に害がないときの脳みそは優秀だよね。


「僕に絶対服従してくれますか?」


「わがっだわ。あなだにぜっだい服従じまず。」そう言い切るアマンダ様の顔は、どこか晴れやかだった。


「それじゃあ三人とも、声をそろえて言ってみようか。さんはいっ!」


「わだじだじはあなだにぜっだい服従じまず。」

「あたしたちはアルに絶対服従するわ。」

「私達はアル様に絶対服従しますっ!」



こうして僕たちの心は一つになった。



なんか机の向こうで勇者様がすごい顔をしているけど、ともかくそれでは次の議題にうつります。



団長様は超美人で普段は厳しくともベッドの中では超尽くすタイプでなんでもいう事を聞いてくれて


ちくしょう勇者、チンモゲろ。

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[一言] 団長さん、勇者に惹かれと思ってたら、勇者が純粋クズでしたか。
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