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「え……。今さら、戻って来いっていうんですか?」僕、アル・カーターの前にいる金髪碧眼の男性の一言に、僕は目まいでくらくらしそうになったんだ。
「ああ、そうだよアル。君の力が必要なんだ。私たちは本来5人で一つのパーティだったんだ。不幸な行き違いから私たちは君を追い出してしまったが、過ちであったと気付いたんだ。どうか過去のいきさつは水に流して、またパーティに戻ってきてほしい。」
キラキラ輝くような笑顔でさわやかに語るこの人物は今代の勇者様、ロイド・タータニス・クレンドル様でいらっしゃる。
ほんの半年前まで僕は一緒に組んで、魔王と倒すための救世の旅をしていた。
「また荷物持ちとしてですか?」
「いや違う。その、君には実は特別な力があると聞いてね。この先の攻略には君の力が必要だと分かったんだ。」
「特別な力って、『鑑定』しかないですけど。何に使うんですか?」
「そんなことはないだろう! 君は勇者パーティに選ばれたんだ! 隠していた秘密の力があるだろう!」
「そんなものはありません。最初に女神さまの信託があった時も、僕の『鑑定』の力も合わせなさいっておっしゃってたじゃないですか。」
「そんなはずはないわ!」ここで一人の女の子が声を上げた。僕の幼馴染、将来を約束したかつての婚約者、今は勇者様の恋人のアニス・ゴードン、剣聖様だ。
同じカーター村の出身なので本当は彼女は僕と同じ「アニス・カーター」って名乗らなきゃいけないんだけど、恥ずかしいっていう理由で勝手に恋愛劇の主人公と同じ「ゴードン」って苗字を名乗ってる、そんな女の子だ。とっても可愛らしくて、すらりと長い手足が美しい、素敵な女の子で、僕は昔、ちょっとおませで見栄っ張りな彼女が大好きだったんだ。
「だってアルは、昔からいろいろ物知りで、みんなをいろいろ手助けてくれたじゃない! もしかしたら伝説の『賢者』なんじゃないかって、あたしたちみんなで話してたの!」
「それ、『鑑定』で調べたからいろいろ知ってただけなんですけど。」
「御託はいいのよ、アル・カーター。いいからあなたは黙って戻ってくればいいの。いい加減立場をわきまえなさい。」えらく高圧的に話しかけてくるのが、魔女のアマンダ・ゴールドバッハ様。高貴なお貴族様の出で、高名な魔術学院でも優秀な成績を収める天才児らしい。柔らかそうな美しい肌にぱっちりした大きなお目目、大きなお胸がプルンと揺れる、この方も勇者様の恋人の一人なんだ。
「いえですから、戻って『鑑定』を使って、何をすればいいんです?」
「おだまり! あなた生意気よ!」アマンダ様は手にした扇子を投げつけてくる。僕の額に当たって床に転がった。痛い。
「その……。お願いです。アル様。皆で力を合わせて立ち向かわなければ、魔王は倒せないのです。どうかお力添えをいただきたいのです。」両手を前に組んで、目を潤ませながらそう語り掛けてくるお方が、聖女様のアンナ・マリス様。清純でとても美しい方なんだけれど、恋人である勇者様との夜に一番声が大きい、ちょっと困ったお方なんだ。
「聖女様がおっしゃるなら戻ってもかまいません。でも本当に僕『鑑定』しかできないですからね。」
「ああ、女神様! このお導きに感謝いたします。アル様にも感謝をいたします!」聖女様はそういって、聖印の痕を指で空に描いた。
魔女様は当然とふんぞり返り、幼馴染の剣聖様はどこか期待した様子で僕を見つめ、勇者様はにっこりと微笑んだ。
「ただし一つだけ条件があります。」僕はそんな4人を見渡してこう言ってやる。
「勇者様は僕に土下座してごめんなさいしてください。でないと僕は戻りません。」
「は?」勇者様の顔が、ヘンな風にゆがんだ。