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八大貴族とアルカナゲーム  作者: 楓原こうた
5/9

アルカナゲーム

「まぁ、私も暇な訳ではない……ここの事はこれからのクラスの連中にでも聞け」


「投げやりですね。もしかして、学園長様は結構根に持つタイプで?」


「率直に言おう────私はかなり持つぞ?」


「ご丁寧にありがとうございます……っ!」


 薄らと涙が零れそうになるのを堪える夜月。

 どうやら、綺麗さっぱり忘れてくれるような人間ではないようだ。


「泣くな泣くな。私が虐めたみたいに思われる。本当に、後一時間しか時間が取れないんだよ」


「……あのー、すいません。その一時間って結構ありますよね?」


「これは私の貴重な休み時間だ。平民に私の休憩を邪魔されてなるものか」


 随分バッサリものを言う青葉。

 ただ、休憩時間を割いて迎えてくれた事実に、少しだけ申し訳なさを覚えてしまう。


「まぁ、しかし……迎えた者として、最低限説明しないといけない部分もあったか。うむ、それぐらいなら時間を割いてやってもいい」


 それに加え、意外と面倒見のいい人なんだなとも思った。


「まず、この学園はそこらの教育機関とは違うのは知っているか?」


 そして、青葉は少しだけ楽な姿勢に切り替えると、正面に座る夜月に説明していく。


「とりあえず、一般人じゃない人ばかり入学していて……変なシステムが導入されているってところは知ってます」


「変なとか言うな、追い出すぞ?」


 どうやら、このワードも琴線に触れる部分だったらしい。

 ここからは少し大人しくなろうと、夜月は少し頭を搔く。


「話を戻す────我が学園は各国のこれからの未来ある若者ばかりを集めた名門校中の名門校だ。何処ぞのちっさな企業や財閥の子供が多く入学している。その者達を、優秀な人間として輩出する事が我が学園の目的だ」


「要はボンボンしかいないって事?」


「お前からしてみればそういう解釈でいいだろうよ。まぁ、私に比べたら塵芥同然だが」


 それはもちろん、八大貴族からしてみれば、大手の大企業でもありんこ同然に見えてしまうだろう。


「我が学園では教育の一環として『アルカナ』というシステムを導入している」


「……アルカナ、ですか?」


「あぁ、お前の胸の紋章もそうだろう?」


 青葉は胸を何回か小突く。

 夜月の胸につけられている紋章────三角帽子を被った男の絵柄。


「なるほど……薄々は思っていましたが、これって『愚者』ですか」


「その通り。それがお前がこれから在籍するクラスである────よかったよ、愚者にピッタリな人間が愚者のクラスに入れる事ができて」


 どういう意味だゴラ? という文句を寸前で堪える夜月。

 これ以上言えば話が進まなくなるなと感じたからだ。


「我が学園はアルカナの総数────各学年七クラス、計二十一クラスが存在している。その中の一つが、お前の愚者だ」


「アルカナって二十二ありませんでしたっけ? 小アルカナを含めたらもっとありますけど……」


「そこは単純にシステムの都合だ。言っておくが、このアルカナのシステムは調整が難しい……二十一しか分けられなかったのも、そう言った側面が大きいんだ」


 致し方ないと肩を竦める青葉。

 その様子が「一体どれほどのシステムなのか?」と夜月に興味を抱かせる。


「そのアルカナのシステムって一体どういうもの何ですか? クラス分けしただけじゃシステムなんて構築する必要もないですし」


「それが最低限の説明だ、平民」


 そして、青葉は一つ間を置いて口を開く。


「このアルカナのシステムは『集める』事を主軸に作られたシステムだ。各クラスに一つのアルカナ————それを、クラス同士の《《奪い合い》》によって集めていく」


「奪い合い、ねぇ……? 武力行使とかですか?」


「馬鹿を言え。そんなものを使って何になる? 言っただろう————優秀な若者を輩出する教育機関だと。もちろん、《《頭を使うのさ》》」


 若葉はこめかみに指を当て、不敵に笑った。


「頭を使うなら何をしても構わない。じゃんけんなどというチープなものでもいいし、囲碁やチェスでも問題ない————それこそ、お前のお得意な賭博に使われるカードゲームでも可、だ」


「じゃあ、そのままの意味で頭を使う————そういう意味で考えればいいのか……」


「古今東西、どんな事であれ……優秀な人材は頭が回る。それを養うには遊戯を持って他ならない。加えて、競争心を煽る事で生徒の向上心も上がる————我が学園は、そこに注力しているのさ」


 世に言う偉人————アインシュタインやノイマン、ガリレオもIQが高く頭が回ったそうだ。

 その根底にあるのは、溢れる向上心と資質、才能————それを遊戯によって養おうと言っている。


 その為に、作られたシステムなのだと。


「ちなみに、この界隈では『アルカナ』を使ったシステムは評判が良くてね————アルカナを所持しているだけで、そいつの評価は爆上がりだ。それこそ、何処からでも引っ張りだこになるくらいにな」


 そう言って、青葉は一息つくと大雑把に話をまとめた。


「私達はこのようなシステムを使った奪い合いを『アルカナゲーム』と称している。詳しい説明やルールは、担任でも同じクラスのやつらからにでも聞いてみてくれ」


 話は終わったと言わんばかりに、青葉は席を立つ。

 しかし、夜月はその話を聞いて少しだけ考え込み、青葉が立つ瞬間に口を開く。


「……一つだけ聞きたい」


「言ってみろ」


「そのアルカナは集める物だと聞いた————そして、全てのアルカナを集めれば『八大貴族に迎えられる』というのも……それは事実か?」


 真剣な眼差しで、夜月は青葉を見据える。

 だが、青葉はそんな真剣な眼差しを向けられても飄々とした様子で答えた。


「そんなルールはない」


「……マジか」


 その回答を聞いて、夜月はあからさまな落胆を見せた。

 ポーカーフェイスが得意だと豪語していた夜月の様子が、一変にして読み取れるようになる。


 だが————


「まぁ、本当に全て集めれたとすれば……そいつは間違いなくこの時代における最も優秀な人材と呼べるだろう。そんなルールこそはないが、八大貴族がそのような人材を逃がさない訳がない。もちろん、私だったらどんな手でも使ってそいつを我が一家に迎い入れるよ」


 その最後の言葉が、夜月に希望を持たせた。

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