サンサの光
鳥居の前に着いて、二人がトラックから降りると、作務衣姿の男が社務所の方から小走りにやって来た。
「ご苦労様です」と男は声をかけながら手を差し伸べ、ショウイチロウは「本殿の中に」と促すように言った。神殿に明かりが灯され、浮かび上がった大きな神鏡の反対側の壁の辺りに三人は移動する。彫り物はショウイチロウの声に従って、ちょうど神鏡と向き合うようにそっと置かれた。
「まあこんなもんじゃろ」
ショウイチロウの声が通る。やがて、新たに置かれた彫り物は、元々そこにあった神鏡と同じように輝き始めた。
「これは鏡だったのか。でも、なんか光が出ているぞ。あっちの神鏡に向かって真っすぐに。いったい何が起きている?」
「そうそう、こんなもんですわい。さあて、しっかり見ていてくださいよ」
ショウイチロウらが持ってきた〝鏡〟が発する光は神殿を一直線に横切り、対の神鏡へと向かい、お互い反射し合うようにしてだんだんと光の強さを増していく。
「まぶしくて見ていられない」
目を覆おうとするチャンに、ショウイチロウは「もう少し、もう少し見といてくださいよ」と声を強める。
さらに目を細める三人。すると、真っ白な帯となっていた光は、次第に両端が切れて中心に向かって集約し、輝きを増しながら光る玉となって神殿の中に浮かんだ。
「できたぞ!」
「ヨコタ、これはなんなんだ?」
さすがの大男も、たじろいでいる。
「これは、サンサの光ですわい」
「サンサの光?」
「太陽と同じように、さまざまな力をこの世に与えてくれている」
ショウイチロウは、そう言いながら、作業場から積んできた巨木の〝玉〟を、大急ぎで持ってくるようチャンに頼んだ。
「そんな光なんて聞いたことないぞ」
「まあ、その話は後じゃ」
大きな玉を鬼のような形相で一人担いで戻ってくるチャン。彼は、ショウイチロウに指示された通り、木玉の穴が光の玉の真下にくるように置き、次いでショウイチロウは、自分で掘った木の皿(鏡)を運んできて、それを光の玉の上からかぶせるようにして巨大木玉の中に押し込んだ。皿は、そのまま蓋となり、隙間なく木玉と同化した。
「これで、光を収めることができた」
「それで何だったんだ今のは?」
まだ重い荷物を持った疲れが抜けず、息遣いの荒いチャンに、ショウイチロウは、木の玉を摩りながら、
「あれは、光の粒子の集まりですわい。おそらくこの木玉の中に入って、さっき見たのと同じように丸く光っているはずじゃ。こうすれば、力を保ったまま保管できるはずじゃ」
「そうなのか? それでどうする」
興味深々のチャン。
「すぐ金になるとかじゃないから、欲しがらないでくださいよ。この木玉を壊した時点で中の光はどこかに飛び散ってしまうだろうし、使うことは難しい。これは、来年の神木をいただくときのために、後日、山で放つ。このホクイの地が、まだ木芸品で生きられるように。それまではここに置いておく」
チャンの煮え切らない表情を知ってか知らずか、ショウイチロウは先を急ぐように猫背はくるっと回転させ、一方の男に軽く頷くと、「こちらは神主の刀場さんです」と紹介した。そして、
「さあ次はニシノ病院に行ってもらいましょうか」と歩き出した。