ホクイの作業場で その₍1₎
ホクイの国のホーリエという町の一角、古い作業場の中。木材の匂いが充満するその床に、大男の背ほどもある流木が横たえてある。
「どこから来たのかね、あの海を渡ってくるのは大変だったろうに」
横田ショウイチロウが、猫背の下から腕を伸ばし、その流木の胴に触れてみた。
「いい肌だ。色白で密度も申し分ない。大変な美人さんだわい」
彼は工具箱からノミを取り出し、幹の胴体に最初の刃を入れてみた。樹皮は長い航海によってすみずみまで剥ぎ取られ、こげ茶のシミのようなものが樹体のところどころに残されているだけで、あとは白い木肌があらわになっている。
コツコツ、スゥー。
表面を均すように、優しいリズムが繰り返される。次第にノミは、生き物のように必要な凹凸に入り込み、さまざまな角度から歳月の跡を削り取っていく。そして、木肌から現れる鏡面のような輝きに、目を見張った。
「やはりきておるぞ。いいぞぉ、いいやつらが入ってくれとるわい」
外回りをひとしきり削り終えると、今度は角を切り落とすように大胆にノミをあてていく。木肌に滴り落ちた汗が、床へと流れていく。その様子は、まるで蝋の上を丸い粒の形を保ったまま流れ落ちる水滴のようだ。
作業場の窓から西日が入り込むようになり、片手を伸ばして裸電球のスイッチをひねった。その時でさえ、彼はノミを手離すことはない。一つのノミを使い、もくもくと削り続ける。やがて日も暮れ、電球の周りを、何匹かの虫が飛び回る姿に手を止めた。ときどきコツンと音を立ててよろよろと空中を漂い、すぐにまた力強く電球に向かっていく。その様子にちらりと目をやり、「日が変わるまであと4時間だな」とつぶやいた。
シャカ、シャカ、コツ、コツ、シャカ、シャカ、コツ、コツ…。
丁寧に丁寧に、彼は掘り進める。流木はすっかり、大きな〝玉〟になってきた。さらに中身をくり抜くために、彼は玉の一か所に穴を開け、頭から中に入り込んでいく。そのうち、
ゴロという音がした。彼は体をねじりながら〝玉〟から抜け出し、天井に吊り下げてあるウインチを使ってガラガラと鎖を回しながら浮かせた。
「ひとまず、うまくできたようじゃわい」。彼は、壁際の椅子に腰を下ろした。