2話目
突然目の前の机上に現れた兎に驚いて、慌てて立ち上がり、後ろに下がる。
立ち上がるときに、勢いよく立ち上がりすぎて椅子を倒してしまったけど、草原での体当たりを考えれば、まずは距離を取った方がいいだろう。
「なっ、なんで。どこから……?」
兎から目を離さないようにしながら、ドアに向かって少しずつ後ずさる。
同じ種類というだけでなく、大きさや角の形など、どう見ても草原で襲ってきた兎に見える。
今のところ大人しく座っているようだが、怖い、怖すぎる。早く居なくなって……!
などと考えていると、階段を上がる足音が聞こえてくる。
続けて私の部屋のドアをノックする音。
「お客様、どうかなさいましたか?」
「――っ!」
ヤバイ。
いきなり魔物が出てきた、と言って信じてもらえるのだろうか。
下手をすると、私が魔物を部屋に持ち込んだように見られるのではないだろうか。大慌てで部屋から出て、扉を守るようにナユさんの前に立つ。
「い、いえ! 少し寝ぼけて、椅子を倒してしまっただけです! すみません」
急に出てきたことに驚いたのか、ナユさんは一歩後ろに下がりながらも私の顔をじーっと見てくる。美人に見つめられると照れる。……違う、そうじゃない。
「だから、大丈夫、ですよ?」
若干のテヘペロ感を出しながらそう告げると、ナユさんは表情を和らげ、微笑む。
「……そうですか、よかったです。でも、寝惚けて怪我したりしないように気を付けてくださいね?」
天使かこの子。中に居る兎に怪我させられないように気をつけます。
その後、一言二言交わすと、ナユさんは一階に戻っていった。
さあ、次は兎だ。
意気込んで部屋に戻る。……おかしい、兎が居ない。
ベッドの下。いない。
クローゼットの中。いない。
鞄の中。いない。
机の下。いない。
「兎ちゃーん、出ておいでー」
部屋から居なくなっているならよいが、まだどこかに隠れているのだろうか。寝ている最中に襲われたら堪らない。
そう思いつつ、覗いていた机の下から顔を出す。
「うわっ――!」
居た。机の上に、先程と同じように座っている。
あんまり急に出てきたから、心臓がバクバクいっている。
いやいや、ついさっきまで、机の上にはスケブしかなかったでしょ……。やっぱり居なくなってくれないかな。
しかし、なんとなく草原であったときと様子が違う。なんだかこちらの行動を待っているような。
とか考えていたら、今度は目の前で兎が小さな光に包まれて消える。
「え? 消えた?」
今度こそ、消えるところを目の前で目撃した。なんであの兎は出たり消えたりしているんだろうか。嫌がらせか。
「……あ」
一つ思い浮かんでしまった。
それを確かめるように、「出てきて」と小さく呟く。
するとその考えを肯定するかのように、机の上に小さな光が集まり――。
兎が机の上に現れた。
間違いない。私だ。完全に私が魔物を連れ込んでました。
でも何故だろう。
私がやったことといえば、この兎の絵を描いたくらいで……。
「あ、ああああああ!?」
もしかしてだが。
もしかして、この絵を描いたことが原因で兎は部屋に現れたのだろうか。召喚魔法みたいなものだったりするのだろうか。
しかし魔法とか無縁のはずの私に、ホントにそんな魔法 が使えるのか。
創作心が疼く。
これは検証しなければ。
1話目長すぎた