いつも真面目な霞君が怪しい動きを見せた時
1998年の7月。俺は夏休み前の気だるい授業を受けていた。俺は中学3年生だ。中学生の夏休みは色々と忙しい。受験勉強に資源回収、アニメ、テレビゲームと。
ふと俺は横の席の霞が気になった。霞は牛乳瓶の底のような分厚いメガネを掛け、先生の授業を必死にノートに写していた。霞の取り柄と言ったら真面目。それだけの奴。生徒会にも所属している。さすがに真面目だけでは生徒会長になれなかったようだが。女子に話し掛けられると顔が真っ赤になるような免疫のないガリ勉だ。
下校中、俺はちょうど霞の後ろを歩く。変わった様子はない。
「マサヒトー」
後ろから声を掛けられた。隣のクラスの和田だ。仲の良い友達。
「よう和田。明日から夏休みだな。何して遊ぶ?」
「そりゃもちろん、受験勉強だよ」
「受験勉強は遊びか!?」
「まっさか~。危機感持てよ、マサヒト。進学できなかったらハズいぜ」
「大丈夫。バカでも入れる隣街の高校に行くから。五教科で180点以上取れば入れる。楽勝さ」
「それで良いのか?」
「いい。それより明日はFF7とゼノギアスのどっちから手を着けよう。あっ、グランツーリスモもやりたいな」
「おいおい。明日は資源回収の当番だぜ? 忘れてないよな?」
「ふっ。どうせエロ本回収だろ。カピカピの春画等には興味ない! 今は動画の時代だ。エムペグで一発だぜ」
「とにかく明日、校庭に来いよ? 3年生は回収は資源ゴミを振り分けるのが仕事なんだからな」
「子供の仕事は遊ぶことだ」
「屁理屈だな」
1キロメートルほど歩くと俺の家だ。和田はそこから坂道を300メートル行くと家がある。
「じゃあな。明日、来いよ?」
「あいよ」
俺は家に着くなり、自室に籠り、FF7をプレーする。寝落ちするまでやり込み、気が付くと6時半。腹が減ったからリビングへ行き、冷蔵庫を漁る。コーンフレークを皿に入れて牛乳をぶっかける。
「最後の晩餐はコーンフレークで間違いなし」
すると母が起きてきた。
「マサヒト、おはよ」
「母さん、おはよー」
「今日は資源回収の日よね。宿題は後回しでいいから行ってきなさい」
「めんどくさい」
「何言ってんの。霞君なんてもう歩いて学校の方へ行ったわ」
「へ?」
霞って資源回収の当番だっけ? しかもこんな早くに。まだ校庭にゴミがあまり集まってないだろうに何故? 怪しい…………怪しいぞ! まさか付け火? 真面目キャラが崩壊して、たまにやらかす事件だ。
「マサヒトも今すぐっ……」
「行ってきまーす!」
俺は家から飛び出て、霞を追う。
俺は走って学校の校庭に着く。霞は!?
「マサヒト君、おはよう」
「霞! お、おはよー」
「息が上がってるね。走ってきた?」
「おおう。資源回収は中学生の仕事だ」
鉄棒の端にセカンドバッグが吊るされていた。霞のか? 中に何か入ってる。ライター? 灯油? しかし、膨らみ方からして、薄い柔らかい物だ。
「セカンドバッグの中には何が入ってる?」
その一言で霞の顔が曇った。怪しい!
「何だっていいじゃないか! 触らないでよ」
「放火か?」
「そんな事するわけないでしょ」
「おーい! マサヒトー! 置いてくなよー!」
「和田! 霞がおかしいんだ。放火しようとしている。真面目キャラ崩壊だ」
「放火だって~?」
霞がセカンドバッグを取って走り出しだが、俺は足を引っ掛けて転ばせた。バサッとセカンドバッグの中身が飛び散る。〝熟女に骨抜き〟や〝熟女は蜜の味〟など熟女モノのエロ本だった。
「霞…………お前」
「こ、これは誰かに入れられたんだ! 僕のじゃない!」
「「…………………………クスクスクスクス。霞君、大人になったねえ」」