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やがて世界は黒く染まる  作者: どこかの黒猫
第1章 異世界へと羽ばたく。
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第5話 異世界の戦い


「前回に引き続き、2人1組のペアを組み、1体1の模擬戦だ!前回の授業を踏まえて、今日も励めよ!」


ガタイのいい男性教師が、大声を張り上げる。

いかにも体育系教師といった感じだ。

今回の授業の説明を大雑把にした後、男性教師は黒音に近づいてくる。


「えぇと、君は確か編入生、だったか。」


「えぇ、自分は何をすれば?」


「本当ならクロエと組んでもらいたいんだが………。」


なんでも人数の都合上、2人1組のペアだと1人は余ってしまうらしい。

それで、普段はクロエは先生と模擬戦をしているという。


「俺はアンディ・ウォルドという。とりあえず、君のある程度の実力が測りたいから、1戦交えようか。」


「分かりました。形式はどのように?」


「とりあえず魔法を使った戦闘をしてもらいたい。魔法は苦手という話は聞いてはいるが、どの程度のものか分からないんでな。」


「それは……魔術陣などを使っても?」


「もちろん構わない。魔法を使うのならなんでもいい。剣を主体として魔法を身体強化に使う、という形でも構わない。攻撃手段であれ補助であれ、とりあえずどれだけ魔法を使いこなせるかが見たい訳だからな。」


「なるほど、では剣を貸してください。」


一応影空間の中に剣ならいくらでも入っているが、使うのならこの学園のものがいいだろう。

それに、確か『影』の説明とかはしてなかったはずだ。

今それをするのは非常に面倒だ。そういうのは後で時間が取れた時にまとめて説明すればいい。


「ふむ、これは。」


貸してもらった剣を持ち、調子を確かめる。

模擬戦用なのか、刃はついてないものの、なかなかいい剣ではある。無難なロングソードだが、これなら少々無茶をしても壊れたりはしないだろう。

黒音が普段使うのは刀や大鎌等だが、基本的には武器は一通りなんでも使える。


「他にルールは?」


黒音が言うと、アンディもまた剣を構えていた。

恐らく、魔法はあくまで戦闘の補助で、剣を主体として戦うのだろう。

魔法使いという柄ではないと思ったらそういう事か、と黒音は考える。


(異世界の剣技、どれほどのものか見させて貰うとするか。)


「相手を殺すか、重症を追わせるような攻撃はもちろんナシだ。参ったと相手に言わせればそれでいい。それ以外は……特にないな。ではクロエくん。合図を頼む。」


「あっ、はい。では、よーい………はじめ!」


アンディの身体中に赤い模様が浮かび上がり、筋肉量などが一気に飛躍する。

肉体の強度も跳ね上がった様子だ。


だが、さすがにそこまで本気で強化はしていない。

相手の能力を推し量るのが目的だからだろう。


(それでは一瞬で決着がついてしまうぞ?)


対する黒音はなんの強化も施さない。

というか、身体強化なんかしてしまったら貸してもらった剣が粉々になる。

しかし、相手にこれだけ手加減されると興醒めというもの、少しは本気を出してもらうために、こちらもある程度手加減はしつつ力を見せる。


「起動。」


黒音が大きめの魔法陣を左手の掌に浮かび上がらせる。

最初に起動した術式の内容は単純な爆破。

これだけなら簡単に対処されてしまうのだが、黒音はそれにひと工夫加えていく。


「なんだそれは……?」


アンディが驚きに目を見開く。


(………?あぁ、そういえばここは異世界だったか。)


極単純なことを黒音は思い出す。

簡単な魔術陣ではあるものの、この世界と元の世界が同じ技術なはずもなし、陣の内容が分からなかったのだろう、と黒音は考える。


しかし、それは違った。


確かにアンディはその未知の魔法陣に驚いてはいたが、それよりももっと驚いている事があった。

内容は分からずとも、明らかに魔法陣の内容がリアルタイムで切り替わっているからだ。


そこに書かれている文字は読めないが、次々と変化していくばかりか、魔法陣の色、形、大きさ、それら全てが刻一刻と変化していく。


「魔法陣を、切り替えて……?」


「あぁ、その事か。」


黒音がアンディの驚きの理由に気づき、納得する。

なんのことは無い。これは何をしているのかと言うと、普通に起動している魔術陣の種類を変えているのだ。

1個の魔術陣をだすだけでは、発動するまでに簡単に対処されてしまう。


だから、魔術陣の式の内容を常に書き変え続け、いつどのタイミングで、どのような魔術が発動するか分かりづらくしているのだ。


「まさかこれほどとはなっ!」


アンディは身体強化の、特に防御に関する魔法をいくつも発動させつつ、黒音に接近する。

実戦ならばそれはあまりいい選択とは言えないが、相手の使う魔術の内容が分からない以上とれる選択肢はすくないか、と黒音は考える。

それにこれは模擬戦、殺傷能力の強い魔術は使えないため、この選択はとれる選択肢の中ではいい方とも言えなくはない。


「起爆。」


単純な爆破が巻き起こるが、威力はそれほどない。

その変わり、爆風と粉塵が大きく舞い上がり、爆煙が視界を隠す。

巧みに煙の流れに隠れながら黒音は剣を振るう。

地味だが、実戦的だ。

こちらがどれほどできるかを相手に知ってもらう意図も込めている。


これでやられてもらっては興醒めも甚だしいな、と思ったがそうはならなかった。

アンディは魔法で風を起こし、爆煙をかき消しつつ、しっかりと黒音の剣を受け止める。


「ぐっ!」


予想以上に受け止めた際の衝撃が強かったのか、アンディの顔が苦悶に歪む。

しかし、アンディも中々の手練のようで、魔法で摩擦を減らし、剣を滑らせて黒音の体勢を崩す。


「ふんっ!!」


姿勢が崩れた所から一気に黒音の剣を崩しにかかり、たまらす黒音の手から剣が離れ、弾きとばされる。

そして、剣の切っ先を黒音の喉の直前に突きつけようとし………


「まだ終わりではないぞ?」


黒音がニヤリと笑うと、空中に弾き飛ばされた剣の刀身を掴み取り、ハンマーのように思い切り振り下ろす。


「なんだとっ!?」


咄嗟に後ろに避けつつ剣で防御の姿勢を取るが、アンディの剣がへし折れ、粉々になった刀身が飛び散る。


「……参った。」


黒音が剣の切っ先をアンディの喉元に突きつける。


「ふむ、あまり魔法を使わなかったな………。」


「いや、それはすまない。君の実力を見誤っていたこちらの落ち度だ。とはいえ、あれだけ実践的な使い方ができるのなら充分だとは思うがね。」


黒音は強い。それはもう圧倒的だった。少なくとも、剣の腕は到底かないそうに無い。

しかし、魔法に関してはそこまで実力が測れなかったのも確か。

実戦的ではあるし、かなり使いこなしているのは分かったので充分ではあるものの、もっと実力の底が見たい、とアンディは考えてしまっている。

仕切り直すか否か、とアンディが迷っていると、


「では、私が相手しましょうか?」


1人の若い男が、声をかけてきた。


「これは校長先生。」


「いやなに、編入生くんを見てみたくてね。見物かせてもらっていたのだが……なかなかどうして、彼は強そうじゃないか。」


かなり胡散臭い喋り方と声だ。

まるでウロを見ているみたいだ、と黒音は顔を顰める。


「どうだい?クロネくん。私と一戦交えて貰えないだろうか?」


「別に構わない……構いませんが、やるならば本気で頼みます。」


この世界の人間の強さにはとても興味がある。

さらに、これ程自信があるのだからその実力は相当のものだろう。

その上、校長先生が世界で何本かの指に入るくらいの強者というのはある種のお約束だ。

期待が高まる。


……まぁ、そもそもの話、こいつの目的が何なのか気になるところだが。


「ふむ、そちらも本気で来てもらって構わないよ。殺したり、過剰な攻撃でなければ何をしても問題ないよ。ではクロエくん、合図を頼む。」


「あっ、はい。それでは………はじめ!」


いきなりのことにとまどいながらも、クロエが試合開始の合図をだす。


「風よ、炎よ、水よ、土よ。」


「いきなりか!」


いくつもの種類の魔法が同時に行使され、黒音が歓喜に声を上げる。

期待を裏切らない強大さだ。

こちらも少々本気で行かせてもらう。


「起動!」


黒音の周囲に幾つもの魔術陣が描かれる。

その数20以上。

それらから放たれる魔弾が火や風といったオーソドックスな魔法の弾丸を相殺していく。


「なかなかやりますね。単純な面での制圧は意味がありませんか。」


そういう校長は、いつの間にか空に飛んでいる。

風魔法の応用か、生憎とそんな高等な魔術は黒音には使えない。


(少々本気でいかせてもらう。)


ドンッ、と地面を勢いよく踏みしめて飛び上がる。

明らかに人間の範疇を超えた身体能力。

それっぽい魔法陣を足と地面に描いといたから問題ないはずだ。


「落ちろ。」


呪術札を大量にばら撒き、それらに指向性を与える。

校長を取り囲んで一気に爆破するが、ダメージは無い様子。


「そんな攻撃では意味がありませんよ?」


「そうか。」


爆煙が晴れる頃には、黒音は校長の真後ろに陣取っていた。


「なっ!?」


魔法を使われた気配は無かった。

ならば普通は空中で軌道を変えるなんて出来ないはず。


(少々ズルさせてもらったがな。)


爆煙に紛れて、『影』を使わせて貰った。

『影』で空中に無理くり足場を作り、それで校長の背後に忍び寄ったのだ。


つくづく便利な力だ、と思いながら校長の腕を掴んでそのまま引きづりおろす。


「ぐっ!?地上戦ですか、いいでしょう!」


校長が剣のようなものをどこからともなく取り出し、構える。

そして、数度剣を打ち合って、気づいた。


「むっ?お主、足が……?」


「あぁ、これはお恥ずかしい。私が校長という役職にいるひとつのきっかけですよ。」


ということは、戦いの中で足に傷を負い、1戦を退いたという訳だ。

しかしこれだけ戦えるのならば後衛としても十分やって行けるとは思うのだが……そこには何らかの事情があるのだろう。


とはいえ、そんな話は今は関係ない。


校長とやらは単純な火力と物量による攻撃を繰り出している。

恐らくもっと巧みに使うこともできるのだろうが、これは死合では無い、試合なのだ。

あくまでも技の競い合い。殺し合いではない。

とはいえ、黒音の方はそんな試合のような素直な魔術は使えないため、風変わりな使い方をする。


例えば水の魔術。

地面に水の魔術陣を描き、土を柔らかくして相手の足場を崩す。

こういうのは普通は土の魔術を使うのだが、そんな素直なやり方ではすぐに敵に気づかれ対応されてしまう。

他にも、相手の爆発を風で吹き散らたり、水の魔法を火で蒸発させたりなど、様々な使い方をみせる。


「凄いですね!このような使い方、想像もできませんでした。私もまだまだですね……!」


そうはいうが、魔法の腕はもちろんのこと、剣の腕もかなりのものだ。

足を痛めていないのならば、元の世界でもある程度は通用しそうなくらいだ。


(………あの戦いはむしろこれくらいの強さがないと生き残れないような苛烈なものだったがな。)


そんなことを考えながらも、校長に生まれた一瞬の隙を逃さない。

魔術陣で閃光を放ち、相手の目を眩ませる。

その隙に剣線をかいくぐり、喉元に剣をつきつけようとして……


「ふっ、私にこれを使わせるとはっ!」


何かが、起きた。

見えない『何か』が四方から迫る気配。

魔法ではない、それらしい兆候は一切無かった。

だとすれば異能、しかしなんの能力か分からない。


見えないということは概念的な何か………いや違う、地面に()()()()

それに、よくよく見れば空気が歪んでいて、光が歪になっている。

光学迷彩、そのような魔法があるのか、異能か、はたまたこの攻撃の特性なのか。


咄嗟に黒音が影を使おうとして、やめる。

だいたいこの世界における自分の強さは把握したし、この世界のレベルも把握出来た。

これ以上戦う理由はないし、力を見せる理由もない。


「ふむ、ここまで、かな?」


異様な空気が霧散した。

最後に何をしようとしたのかは分からなかったが、なるほど、この男、かなりの強者だ。


(しかし、これなら地球の方がファンタジーしてるな…………。)


正直に言って、弱すぎる。

最後のアレや、こいつのまだ隠してる力を推測しても、弱い。

恐らくこいつの炎では街を一瞬にして灰にすることは出来ないだろう。

恐らくこいつの水は街を全て沈めることは出来ないだろう。

恐らくこいつの雷は天を焼き焦がすことは出来ない。

恐らくこいつの風は、街を宙に浮かべることは出来ないだろう。


それが当たり前のようにできるのが、元の世界だ。

そう考えると、この世界は大したことないというのがわかる。

とはいえ、それは個々の強さにおいてだ。

個人の火力の高さが直接イコールで強さに繋がる訳では無いし、連携を巧みに使えば能力なんてなくても人は強い。


能力の強さを過信してはいけない。

自分の強さを適切に理解していなければならないのは当然だ。

本当は弱いのに強いと思ってるのは論外だし、強いのに弱いと思い込んでいるのも論外だ。

そして、強いからと言ってその強さを信じすぎてはいけない。


強いからと言って勝てる訳では無いし、弱いからと言って負ける訳では無い。


そんなことを考えて、ふと気づけば、生徒達は真剣に自分たちを見ている。

これは面倒なことになりそうだな、と思い黒音は嘆息する。

自分のこの世界における強さを確かめるためとはいえ、少々目立ちすぎたのは自覚している。


(はしゃぎすぎたな……。)


強敵と戦える、未知の戦いを味わえるという事に少し興奮しすぎたかもしれない。

とはいえ、強いのは隠してもしょうがない。

というか、隠す意味が分からない。


目立つことで面倒事が増えるのは厄介だが、そもそもの話、異世界から来たという時点で目立つことに関しては手遅れだ。

なので、これはこれでありだと黒音は考えることにした。


それよりも問題は校長とやらだ。

間違いなく何か目的がある。

当たり前だ。突然授業にでてきて、黒音と戦う?意味がわからない。

そこに意味が無いなんてことはありえない、明らかに何かしらの目的を持って接触してきている。


とりあえず、1限目、異世界に来て最初の授業はこれにて閉幕だ。



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