第4話 学園生活
「へぇ、これが学園とやらか。」
黒音が、門の前に立つ。
結構広めの施設で、何棟もの建物が敷地内に建設されている。
訓練場のようなものもちらりと見えるが、かなり広そうだ。
「そ、共和国最大の学園よ。魔法使いの育成を主軸としつつも、様々な方向での教育がなされているわ。」
「へぇ〜。」
共和国最大、というのがどれくらいかは分からないが、見た感じかなり広い。
建築様式とかは近代の西洋に似通ったものがあるな……と思いつつ、建築材料とかはどうなっているのだろうか、と疑問を感じる。
魔法のある世界なのだから少し素材に興味が湧くが、どう見てもコンクリートのようなものだ。
帝国は科学技術が発達していると言っていたから、帝国発祥のものだろうか?
だとすれば、魔法使いしかいないと言われる王国は違った素材、建築様式を使っているのだろうか?
黒音が思案していると、1人の少女がこちらに近づいてくる。
「おはよう、クロエ!」
「おはよう!」
クロエとその少女が何気ない挨拶を交わした後、その少女が黒音に興味を示す。
「そちらの男性は?」
「あー、編入生、というか……」
「あ、もしかして召喚された人?」
「まぁ、うん。そうなんだけど。というか、召喚のこと知ってたんだ?」
「噂はかなり広まってるよ。勇者ではないけど、クロエが召喚に成功したって。ホントだったんだね。」
少女はそういった後、黒音の前に立ってお辞儀する。
どこかの貴族のお嬢様かと思ってしまうくらいには優雅で、自然な動作だ。
共和国なのだから貴族などいないだろうけど。
「どうも、アリス・リジディアです。」
「どうも、黒音だ。」
黒音の苗字は天織ということになって入るが、本来黒音に姓は無い。
共和制なのだから貴族や上層階級じゃないと苗字を持っては行けないと言うことは無いだろうが、クロネ・アマオリは少し語感が悪い。
元々苗字が無いんだし、黒音だけで充分だろう。
「私は一旦クロネを連れて職員室にいかなきゃいけないから、また教室出会いましょ。」
「うん、それじゃあまた教室で。クロネさんもよろしくお願いしますね。」
「あぁ、またな。」
リリスはそのまま小走りにどこかへと行ってしまった。
「で、職員室とやらはどこなんだ?」
「こっちよ。ついてきて。」
そう言って、玄関口から入って廊下を進んでいく。階段を2つほど登っていき、三階の廊下をさらに歩いていく。
「失礼します。」
ドアをノックして入ったのは職員室だ。
今のところ、文化やマナーといったものはどの世界も変わらないんだな、と黒音は思った。
魔法とかいう技術が大っぴらにあるんだから、少しは違った独自の文化や文明がありそうなものだが。
「あぁクロエさん。話は聞いています。そちらがクロネさんですね?私は魔法戦闘科の担任をしているマリア・アイシスです、よろしくね。」
「クロネという。よろしく。」
「早速なのですけど、簡単な質問だけさせてくださいね。あ、クロエさんは自分の教室に戻っていて結構ですよ。」
マリア先生がそう促すと、「失礼しました」と言ってクロエが退室する。
「異世界からの来客ということなので、分からないことがあれば聞いてくださいね。文化とかの違いもあるでしょうし……。」
「ん、ならお言葉に甘えさせてもらう……貰います。」
随分と態度がでかい言葉遣いになってしまうな……と黒音は話してして早速困っていた。
基本的に組織を束ねる存在だったから敬語なんて使う機会は無かったし、性分に合わない。
とはいえ、今は学生という身分、タメ口は論外だ。
すると、自然とこんな感じの口調になってしまうのだが………。
(いい機会だ。敬語とかも使い慣れていくしかないか。)
「ふふ、慣れないなら敬語でなくとも結構ですよ。……それはともかく、質問なのですが魔法は何かしらの属性に適性がありますか?」
「適性のある属性、ですか………?」
「一応、クロエさんがいるのは魔法戦闘科なので、どうしても魔法に関する授業が主体となります。魔法に適正のない方は近接戦闘科や遠距離戦闘科、戦場支援科などがあるのですが……。」
この世界の言うところの魔法がどういうものかは分からないが、まぁファンタジーとかでよくあるものだと考えてしまってもいいのだろうか?
とはいえ、黒音はそもそもあらゆる魔導に適性がない。
魔術陣や魔法陣、あるいは何らかの魔道具を媒介としなければ魔術を行使できない。
ルーン魔術ならオーディンの特性を持っているときに使えたが、神格化するための神器グングニルはあの時の戦いで完全に壊れた。
例外としては、空間制御魔術、唯一これだけが黒音に補助無しで使用可能だが、長ったらしい詠唱がいる上に使いにくい。
この世界の魔法とやらがどんなものかは分からないが、どうせ使えはしないだろう。
「この世界の魔法がどんなにものかは知らないですが、残念ながら、魔法に関して適性は一切ないと思う。」
「適性がない、ですか?」
黒音に付与された属性は言うならば『終焉』だ。
元々持つ特性が強すぎて魔導を行使するだけの余白が魂に無いのだ。
それは枝音も同じだが、彼女の場合は魔術や魔法そのものをその場に『創造』することが出来る。
「無い。魔術陣や魔法陣、魔道具を媒介とすれば発動はできるが……向こうの世界でも俺に魔導行使の才能は無かった。この世界でもたぶん無理だ……無理でしょうね。」
「そうですか……ですが、全く使えない、という訳では無いのですね?」
「それはまぁ、そうですね。」
「なら、多少は窮屈でしょうが問題ないでしょう。そろそろホームルームの時間ですね。教室に行きましょうか。」
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「はい、静かに!今日は編入生を紹介します!」
マリア先生に促され、黒音がとりあえず挨拶する。
「クロネという、よろしく。」
黒音が簡素な挨拶をすると、ザワザワと教室が賑やかになる。
「質問時間を設けますが、一限目は実技だから質問は手短にね。そうね……10分ほどなら質問してよし。」
実技、となにやら嫌な予感のする単語が聞こえたが、黒音は聞かなかった事にした。
ワイワイと元気よく質問が飛び交うこの光景は、「あぁ、どうしようもなく学生だなぁ……。」という気分に黒音をさせる。
「違う世界から来たってほんと?」
「あぁ、本当だ。」
「好きな食べ物は!?」
「んー、メロンかな?」
ドラゴンを丸呑みするのが好きだ、等という訳にもいかないので無難な答えを返していく。
とはいえ、流石にメロンは適当すぎたか。
こういう面倒な質問をされた時ように用意してあったのだが……
「メロン?」
「何それ?」
「えっ?」
意外なその反応に、黒音はここが異世界だということを思い出す。なるほど、メロンは無いらしい。
いや、あるのかもしれないが名称がメロンとは限らない。
「今度機会があったら食べさせてあげようか?」
「ほんとか!?」「ほんとに!?」
一応、メロンとかの食物の類も黒音の『影』の中に収納してある。
なんなら栽培も可能なはずだ。……栽培できるだけの環境が整えられるかは別だが。
ワイワイとさらに教室が盛り上がる。
若いっていいなぁ……等と思いながら黒音はさらに投げかけられるいくつかの質問に答えていく。
どれも他愛のないものばかりだ。
すると、1人の男子生徒が興味深々で聞いてきた。
「得意な魔法は?」
「あぁ、残念ながら魔法は苦手でね。理論は得意なんだが、実践はからっきしだ。」
なにに期待していたのかは知らないが、何人かの生徒が落胆の声をあげる。
しかし、この言葉には語弊がある。
黒音の実践ではからっきし、というのは黒音レベルでの戦闘の話で、通常の戦闘では黒音は魔導具や魔術陣に頼って魔術を行使して戦ってもかなり強い。
ただ、黒音レベルの戦闘になると、コンマ数秒の無駄が死に繋がりかねない。
わざわざ使いづらいものを使ってまで戦ってやる道理はない。
故に、黒音は実践では使い物にならない、と言ったのだった。
「はい、それじゃあ質問時間は終わり!自己紹介とか他に質問があるなら休み時間にね。あと、一限目は第3訓練場だから遅れないように!」
連絡事項は特になし、と言ってマリア先生は教室から退室しようとする。
「あ、それとあなたの席はクロエさんの隣だから、なにが困ったことがあったら頼ってあげなさい。」
そう言い残してマリア先生は教室から退室する。
まだまだ黒音に質問したそうにしていた生徒達は、授業に遅れるわけにはいかないので名残惜しそうにしながらも生徒達も授業の準備をする。
「ふむ。どうしたものか。」
「クロネ、第3訓練場に行くわよ。」
学園内の構造がよく分からないので困っていた黒音に、クロエが声をかけてくる。
隣には今朝声をかけてきたアリスと、男子1名がいる。
「実技、と言うからには模擬戦か?」
「そうよ。あと、こいつはアル。」
クロエが適当にその少年を紹介すると、気さくそうな少年が握手の手を差し出してきた。
「アルバート・ツァディックだ。気軽にアルってよんでくれ。」
「こちらこそよろしく、だな。」
握手を交わしつつ、とりあえず第3訓練場とやらに赴くことにした。
18:00に投稿すると言ったな?あれは嘘だ。
はいどーも、どこ黒です。
18:00に投稿しようとして忘れ、19:00に投稿しようとしてまた忘れました。
チ───(´-ω-`)───ン
とりあえず次話はちょっとだけ戦闘シーンが含まれますという事を予告。
ではまた今度