第1話 そして黒は次へ羽ばたく
とある世界の会議室。
そこで、4人の男女が会議を行っていた。
「近年の魔物の進化は凄まじい勢いを見せている。このままではジリ貧だ。」
「1部では知能を持ったものまで現れているとの報告も上がっている。軍部はその対応に必死だよ。」
「対策は?喚くだけなら猿でもできるわ。」
「使うしかあるまい。召喚システムを。」
「仮称『勇者』を呼び出す召喚システムか?しかし、あれは成功確率がかなり低いのでは?」
「失敗してもリスクは無い。ならば、やれることはなんでもやらねばなるまいよ。」
「では、召喚を行うのはどこの国だ?我々帝国は無理だ。魔法使いがそもそも居ないからな。」
「そう考えると、魔法使いのいる王国と共和国になるな。連合はどうだ?エルフが行えば、成功確率も上がるのでは?」
「私たちはその召喚システムという技術を知らないわ。エルフは確かに魔法に秀でているけれど、知らない技術をぶっつけ本番で行使することは不可能よ。」
「では、王国と共和国が行うということで。」
「「「異議なし。」」」
――――――――2036年、新東京都市。
「ねぇ、黒音〜。新婚旅行、どこ行くか決めた?」
「ん、あぁ、はいはい?どうした枝音さんや。」
「………ちゃんと聞いてた?」
「聞いてるって。」
2人の男女が、執務室のようなところでくつろぎながら談笑する。
男の方の名前は黒音、女の方の名前は枝音というらしい。
「新婚旅行だけどさ、どこ行くのよ。やっぱ熱海とか?」
「ん?熱海って、結界の中だったか?」
結界の中、それは人類の安全が確約されている場所だ。
現状、地球はケモノと呼ばれる人に害をなす幻想生物が闊歩しており、人の安全が確約できる場所はそう多くはない。
とはいえ、その安全圏も近年はかなり拡大化されている訳だが。
「私たちなら別に安全圏外でも関係ないでしょ。」
「そりゃそうだが………旅館とかないだろ?」
「旅館は作ればいいじゃない。」
「あのなぁ、女将とか、旅館を経営する人が居ないだろ?」
「それもそっか………。」
目に見えるように枝音が落ち込む。
よほど、熱海に行きたかったのだろうか。
普通に旅行する分には連れて行くことは出来るんだが、さすがに新婚旅行で旅行先で自炊する人達はほとんど居ないだろう。
「ま、心配するな。ちゃんと考えてはあるさ。」
「ほんと!?どこどこ?」
「ずばり、異世界だ………!」
「………は?」
枝音が、は?何言ってんだこいつ。マジで頭イカれたか?というような目で黒音を見る。視線が痛い。
「そんな痛いやつを見るような視線をやめろ。異世界に行くこと自体は可能だし、その存在が明らかなのは知ってるだろ?現に水姫とか夢羽は異世界の人間なんだし。」
「そりゃあ、そうだけど。異世界からこちらに呼び出すことは出来ても、向こうに行くことは出来ないんじゃなかったの?」
「そりゃあ技術の進歩よ。殺雪とかの協力もあったしな。そのうち技術として確立できる。」
まぁ来たまえ、と言ったように黒音が部屋を出てどこかに行くようなので、枝音はその後ろをトコトコとついて行く。
「異世界召喚ねぇ………私が小学生くらいの頃に流行った記憶があるけど。」
「10年以上前の話だな。まぁ、あれは人々の願いの表れだと俺は考えている。現代版の天国というか、神話みたいなもんだな。」
黒音の言葉に、枝音は首を傾げる。
その様子を黒音は横目で見つつ、詳しく説明する事にした。
「現実に翻弄され、社会に囚われ、未来に不安があり、人間関係に疲れ、………と、現実の様々な問題に直面した人間が望んだ、ある種の楽園だよ。異世界ってのはな。」
その世界では人は全ての願望が叶う。
人は気ままに自由にすごせ、現実社会のあらゆる問題から解放されるのだ。
特に、チートハーレムものなどはある種の男性の願望を表しているだろう。
あらゆる問題を解決でき、あらゆる障害を打払えるほどの力を持っていて、尚且つモテる。
現実社会は制約ばかりで、さらにあらゆる物事が単純に解決できない。だからこそ、そういうあらゆる問題を簡単に力で解決出来るチート能力みたいなのが流行ったのだろう。
まるで神話みたいだろ?と黒音は笑う。
「その異世界では自分が主人公になれる。ハーレムものも多かったようだが、そういうのも願望の表れだな、モテたい、とか慕われたい、とか。ここでは無い何処かに行きたい。現実にはほとほと疲れた、ここでは無い何処かで羽をのばし、自由気ままに過ごしたい。そういう願いを小説に書きしたためたのが異世界ものの小説だろうと、少なくとも俺はそう考えてる。」
「随分詳しいんだ?」
「本は片っ端から目に付いたものを読んでたからな。基本的に暇なんだ。クロノフィリア迷宮図書館だって、2億冊以上の本が収納されてるだろ?」
一時期、日本の小説で異世界ものが爆発的に流行ったから少し考察してみた事があったんだ、と黒音は言う。
それに関するレポートのようなものもあるらしいが、正直見たいとはあまり思わない。
地下通路を通ってしばらくすると、研究施設のような所に着いた。
そして、厳重に管理された警備を解除していきながら奥の部屋へ進むと、その部屋の床下に魔法陣のようなものが描かれていた。
「で、旅行のための装置がこれだ。」
「魔法陣?」
「のように見えるだろ?」
そう言いながら、黒音は地面の床の1部をパカッと開く。
そこには、ごちゃごちゃと訳の分からない配線や、意味不明な機械が大量にあった。
「これぞまさしく科学と魔法の融合だな。」
「これ魔法陣関係あんの?」
枝音が突っ込むものの、黒音は無視してさらに説明を続ける。
「今回の異世界転移システムは、異世界召喚システムを応用したものだ。異世界召喚ってのは元はウロしか使えない技術でな、虚無化して存在が消えた空間に、別の空間を補填することで起こる現象のことを指す。」
その補填する空間はどこから持ってくるのか?
この世界にそんな余分はない、ならば持ってくるのは他の世界からだ。
世界は、空間が消滅しても自分で修復する機能を持っている訳だが、それを無視して無理やり別の空間をねじこむ。
その際にそこにいた人物やもの、果ては神や天使に至るまでをこの世界に呼び出すことができるのだ。
「虚無化はウロにしか使えないが、その、別の空間を持ってくる、というのは誰にでもできる。殺雪の並行世界操作魔法の応用だ、俺のもつ空間制御魔術を次元制御に無理矢理置き換えて行使するもので…………」
「………???何を言ってるのかさっぱりわかんないんだけど?」
説明が長い。
しかも何を言っているのかさっぱり分からない。
「問題はその虚無空間と近い空間を擬似的に作り出す手段がないと言うことで………更にはこの世界に干渉するのは簡単なんだが、向こうの世界に干渉するとなると…………そこで用いたのがエナジードレインの技術を応用したこの機械で…………」
「はぁ、まぁ説明はどうでもいいけどさ。」
意味わからんことを永遠と言われ続けても困るだけだ。
なので、要点だけまとめることにした。
「とりあえず、これを使えば異世界に行けるのね?」
「そうだ。まだ未完成の代物だが、完成すれば確実に行ける。」
「転移先はどんな世界なの?」
「水姫や夢羽を元にして作ったから、水姫たちが元いた世界になるな。」
なるほど、あの子たちのいた世界なら、興味がある。
そう思いながら、マジマジと床下の機械を見つめる。
「まぁ、まだ調整段階だから何がどうなるかわからんものでもある。それに、この状態では1度使えばエネルギーの流れに耐えきれずに壊れてしまうだろうしな。」
そう言いつつ、黒音が開けっぱなしになった床を閉じて、設備の点検をしていく。
意外と繊細な装置なので、安全装置などの動作確認等は定期点検時以外も気が向いたらしておいた方がいい。
何らかの事故で、宇宙のはるか彼方まで飛ばされたらたまったものではない。
「ふーん………ん?なにこれ?」
枝音が妙な魔法陣を見つける。
それはとても小さなもので、しかも通常の視界には映らない。
枝音の持つ特殊な眼で見て、初めて気がついた。
しかも……何やら見覚えのある効果も付与されているようだ。
それが何かは思い出せないが。
(…………ちょっとだけ。)
興味が沸いた枝音は、その魔法陣にエネルギーを送ってみた。
すると、何かしらのパスが繋がったのか、通常の視界でも捉えられるようになる………ばかりか、その魔法陣から次々と別の魔法陣が連鎖的に生み出され、巨大な魔法陣を作っていく。
「え、ちょっ!?まって!!?」
さらに、黒音の床下の魔法陣も輝きだし、転移装置が起動していく。
部屋のスピーカーから緊急を知らせる警報が鳴り響き、そうこうしている間にも魔法陣はさらに複雑怪奇なものへ変化していく。
「ちょ!?枝音お前何やらかした!?」
「え!これ私のせいなの!?」
「お前しか居ないだろーが!」
そう言いつつも、黒音は状況の対処にあたる。
今確認できるのは、異世界転移システムの暴走と、謎の魔法陣だ。
謎の魔法陣が現れてから転移システムが暴走し始めた所から、2つとも関連性があるように見える。
黒音の『右眼の力』を使えば魔法陣をぶっ壊したりするのとはできるが、それをしたとしてその後どうなるか分からない。
何も起こらないかもしれないし、宇宙の彼方まで飛ばされるかもしれないし、あるいはもっとヤバい何かが起こる可能性もある。
(一応、このまま放置すれば転移システムの魔法陣で異世界には行ける。宇宙の彼方とか次元の狭間だとか、そんな訳の分からないところに飛ばされるよりかはそっちの方がマシだが………)
もうひとつの謎の魔法陣の効果が分からない。
これが放置していいものなのかどうか分からないのだ。
しかも、この魔法陣は対象を自分だけに絞ってきている。
転移システムの魔法陣の外に出ようとしても、この魔法陣は常に黒音を囲う形で展開されている。
枝音に危害が無いのなら、余計なことをせずに大人しく魔法陣に従うか、と黒音は腹を括る。
「ち、効果範囲外には出れそうにないか。枝音!あとは任せた!!」
「えっ!?マジで言ってるのそれ!?ズルい!私も異世界行く!」
枝音が転移システムの効果範囲内に入ってくる。
「なっ!?お前っ!?」
光が収まり、魔法陣が消える。
あとに残ったのは、変な煙を出してる床下の壊れた装置と、部屋中にびっしりと刻まれた魔法陣と、枝音だけだった。
「えっ!?私置いてかれたの!?」
――――――――――共和国
光が収まり、黒音が目を開けると目の前には16歳程度の少女がいた。
やっぱ変なところに召喚されたか、と思ってまずは周囲を確認する。
『右目』を使おうとしたが……何故か使えない。
(………?能力が使えない。弱体化したか?)
黒音が不思議に思って首を傾げていると、目のまえの少女に動きがあった。
「Suqcwe、sqxarw…………?」
(何語やねん。)
思わず関西弁で突っ込んでしまったが、黒音はとりあえず落ち着くことにする。
自分の知らない言語といえば………ほとんどない事に気づく。
何万年も前から生きて、しかも長年世界中を旅してきたのだ。
言語の習得はそれはそれは意味不明な言語から有名どころなものまで全て習得している。
と、そこで能力が使えないのではなく、制限されているのだということに気づく。
とりあえず今使える能力の確認のためにも、まずは影の力を発動させて周囲数百メートルに結界をはる。
その中から言語をかき集め、その言語の特徴や法則性を見出す。
(…………意外と簡単な言語だな。アルファベットを文字ったものか。)
アルファベットなんて概念があるのが不思議だが、いや、そもそもどうやってこの言語を発音しているのか意味不明だ。
恐らく、アルファベットなんてものでは無いのだろう。
自分の知識に照らし合わせた結果、アルファベットを文字ったような言語だと認識が変換されたようだ。
とりあえず、相手の言語を翻訳し、自分もこの言語を話せるようにする。
「………まず、状況を教えてくれないか?」
目の前の少女は第1村人だ。
周囲の状況や空気からしてここが地球な訳が無いのは間違いない。
ならば、あれこれ詮索しても所詮は予想の域を出ない。
どうせなら、目の前の少女に詳しい事を聞いた方が手っ取り早い。
「えっと……私はクロエ・フィーニスって言います。あなたは?」
「黒音だ。」
ミルだとか雅音だとか他にも色々名前は持っているし、偽名を名乗ることも考えたが、とりあえず黒音と名乗ることにした。
そんなことより、きちんと会話が成立したことに黒音はほっとする。
「えっと、じゃあクロネさん。話があるので、とりあえず着いてきて貰えますか?」
どーもどーも、どこ黒です。
異世界ものは初めて書くので実質これが初投稿です。
最初のうちは更新頻度早めにします。
んー、特に書くことがないですね。
それでは、今回はこれにて。
また次回お会いしましょう。
PS.ブクマや評価お願いしますね。作者のモチベが爆上がりするので。