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やがて世界は黒く染まる  作者: どこかの黒猫
第2章 旧共和国領解放作戦
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第5話 外の世界


――――――――結界外実習当日



「大尉殿、今日はよろしくお願いします。」


「お前らが今日俺らにおんぶにだっこされに来たガキンチョどもだな?」


結界外実習当日。

一応、学生となっている黒音達の手助けするという建前の元、1つの中隊が付けられていた。

本当なら黒音達に手助けも何もいらないが、一応実習のルールとして1部隊付けるというものだし、一応、黒音達は高校生である。

普通は小隊が付けられるのだが、1番危険な立ち回りをする黒音達は中隊を付けられていた。

大隊をあてがっては?という意見もあるにはあったが、あまり人数が多くても動きづらくなるだけだ、と黒音が却下。

そしてなるべく変わった部隊がいい、との注文だったので、試験的に作られた中隊である異能持ち、魔法士、一般兵の3種類混合の部隊が黒音達に付けられた。


なので、黒音は今日1日世話になる部隊の隊長に挨拶をしていた。

しかも、珍しく敬語で。


「おんぶにだっこさせるつもりはありませんが。我々を引き当てるとは、どうやら大尉殿は運が良いようだ。」


「ふむ、お前さんのことは聞いてるさ。何でも、元大佐殿が化物だと言ったらしいからな、腕も相当のもんなんだろ。だが、後ろの嬢ちゃんらは違うだろう?」


元大佐殿、というのは校長の事だ。

本当なら大佐などという枠組みでは収まらないほどの戦果を上げていたのだが、准将とかになると前線に出れなくなるから嫌だ、と言って自ら昇進を辞退していたらしい。


そして黒音の背後には、初めての結界の外の世界ということで緊張してガッチガチに固まっているアリスやクロエ達がいる。

出雲は外見上は取り繕っていても内心緊張しているアルなどの緊張を解すのに必死だ。


適度の緊張は必要だが、あまり緊張しすぎてもダメだからだ。


「足でまといになるようなら、前に放り投げれば良いのです。肉壁ぐらいにはなるでしょう?」


「随分と厳しいんだな?」


「少なくとも、Cレートごときに遅れをとるような育て方をした覚えはないので。挙句、D如きにやられたとなればそいつは戦闘科にいる必要が無いのでは?使い道としては、良くて肉壁、悪ければ魔物の餌です。」


魔物は戦闘時の緊急でエネルギーを補填する時以外は別段食事をとる訳では無いので、人間を積極的に食う、という事は無いものの、ああ言った化物が人を食う、というイメージは強い。


「はは、俺らも後ろから撃たれかねませんな、こりゃ。」


大尉以外の他の部隊員も会話に参加してくる。

かつては自分も大尉として小隊長を拝命していた身だ。

懐かしく思えて、ついつい黒音の会話も弾む。

まぁ、その世界はなくなってしまったわけだが。


「流れ弾には気をつけてくださいよ?射線上に入ってきても問答無用で撃ちますので。」


そう言って手で銃を撃つジェスチャーを黒音がすると、隊の1人が首を傾げる。


「おや、確か魔法陣を使うと聞いていたのですが、銃も?」


「銃、魔法陣、異能、どれも使えますよ。必要に応じて使い分けます。まあ、大抵気分ですが。」


「ほぉ、異能持ちか。ならば伍長とは気が合うんじゃないか?」


そう言ってワイワイと談笑しあう黒音を見て、クロエ達は素直に感心する。


「あいつ……よくあんな風に笑えるわよね………今から出撃だってのに。」


「黒音さん、凄いです。私はもう緊張でどうにかなってしまいそうで………。」


「僕もだよ。そういう出雲はどうなんだい?」


「俺は別にそこまでかな。とはいえ、あそこまで気楽に居られるか、と言えばそうじゃないけど。」


出雲も一介の魔術師として、化物の討伐に駆り出された事は何回かある。

2017年頃は黒音の言っていたように常日頃から化物のが跳梁跋扈するような事はなかったが、それでもたまに出現していた。


出雲は正確には何処かの組織に所属していた訳では無いが、一応イギリスに本部がある魔術組織とは良い関係だったので、人手が足りない時などに招集がかかったりしていた。


そういった戦いの前にあるのは、死への恐怖だ。

どの戦いも被害がゼロ、という訳には行かなかった。

死者は居ずとも、重症を負うものは必ず現れる。


それもそうだ。被害ゼロで倒せるような相手ならばわざわざ組織の人間では無い出雲を呼ぶ必要は無い。

必ず被害は出る。1歩ミスをすれば誰かが死ぬ。

出雲が戦ってきたのは常にそういう戦場だ。


だが、だからこそ、出雲は戦いの前に死ぬかもしれないと心構えをしておく。

それが、多少なりとも緊張という形で現れているのは自覚している。だが、適度の緊張は必要だ。


でも、黒音達からはそれが感じられない。

死への心構えがない訳では無い。むしろあの様子は………


「…………本当にいつ死んでも構わないって訳か。」


あの兵隊達も、黒音も、常に死が付きまとうのが日常なのだ。

出雲も魔術師という立場上、死に近い生活を送っているが、日常と非日常は区別されている。

だが、彼らにはその区別が無いのだろう。


常に死が付きまとう日々を過ごしているから、死のない日常というのが考えられないのだ。

あぁいう精神でなければやってられないのだろう。


「おい、お前ら。そろそろ出発だ。」


黒音がクロエ達に話しかけてくる。

しかし、今の時刻はまだ予定よりだいぶ前だ。


「随分と早くないか?」


「俺達は魔物を間引くのが仕事だ。他の連中と同じ時間に出発してたらダメだろうが。」


そう言って、クロエ達は行きたくない気持ちを抑えながら渋々ついて行く。

良い経験になりそうだから、参加出来て良かったとは思っている。

だが、だからといって戦いへの緊張が消える訳では無い。

これはこれ、それはそれと言うやつだ。


「さて、この門を潜ればお前らは結界の外って訳だ。」


そう言って大尉が外に出る。それに、黒音達が続き、後ろから隊員達もついてくる。


結界の外。

自分の父が死んだ場所。

クロエが初めて見るその光景は、一面の荒野だった。

いや、奥の方には森があり、草木が生い茂っている。

結界に近い場所が荒野なのは、時折集団で進行してくる魔物に大して大規模な火力の攻撃を行うからだ。


それに、見晴らしが良い方がいいというのもある。


「ここら辺は大した魔物も出ない。出たとしても、すぐさま処理される。問題はあの森だ。」


大尉がそう言って、一行は荒野を歩いて森の中に入る。


「街までは出会い頭の戦闘がほとんどになるだろうが、大した魔物はいないから大丈夫だ。」


この森は魔物が嫌う植物が生えるようで、レートの高い魔物ほどこの森には近づかないらしい。

『マモノ』は苦手な植物など無く、自分の生態関係なしに人を襲いに来るだけだが元々の『魔物』はそうではない。

恐らく、魔物がマモノに変化する際に魔物の性質も引き継いでしまっているのだろう。

しかし、過去にSSSレートの魔物が来ていることから、埒外の強さを持った魔物ならば苦手も何も関係なしにこの森を踏破できる可能性は高い。


「問題は森を抜けて街に入るまでだ、街に入るまでの道にいる魔物を間引く。お前らの仕事は街に入るまでは魔物の処理、街に入った後の仕事は魔法士の補助だ。」


これからの流れを大尉が説明しているうちに、森を抜けた。

その瞬間、魔物が襲いかかってきた。


瞬時に剣を引き抜き、大尉がバッサリと切り捨てる。


「……とまぁ、こんな感じだが、頑張ってくれ。補助はする。」


そう言って隊員たちは後ろに下がり、クロエ達を前に出す。

そこまで来てクロエ達も意識を切り替え、戦いに集中し始める。

出雲、クロエ、アリス、アルバートの4人の連携は大したもので、既にCレートの魔物も倒しているようだ。


「ふむ、頑張っているようだな。」


「ん?アンタは参加しないのか?」



自分達が担当する区域……つまりは実習用の区域はそこまで広くなく、尚且つたいして魔物のいない区間だ。

わざわざ黒音がやらなくてもクロエ達だけで何とかするだろう。


「自分はちょっとあちらを見てきます。臆病でね。とてもあの戦闘に参加しようとは思えませんよ。要するに逃げです。」


「ハハ、面白い冗談だ。しかし、1人で行かせる訳には行かんのだがな。」


「なら、大尉が着いてきてください。」


隊長である自分に着いてこいと言うのか、と大尉は少し戸惑う。指揮系統的に自分が離れるのはどうかと思ったからだ。

だが、この場の戦闘を見ている限り、ここは大丈夫そうだ。

なにかあったら伝えるようにと副隊長に行ってから、黒音達は少し離れた森のなかに入っていく。


「それで?どこに行くんだ?」


「こちらです。……着きました。」


結構な距離を歩いた気がする。

あまり離れすぎるのもどうか、と隊長は考えるが、着いたと言うからには何かあるのだろうか。


しかし、ここは森の中だ。

大した魔物も居ないだろうに、と思って大尉が黒音の指さした場所を見ると…………


「なん、だこれは……?」


「凄いですよね。」


森のなかにある少し大きめの池。

その見晴らしの良い開けた土地にある恐ろしい数の赤い眼。

濁っていてよく見えない池の水の中からも赤い光がいくつか見えている。

その数、ざっと50以上。


そして、問題なのは数だけではない。

それらの魔物のレートは、人目見ただけでわかる。

その大きさ、形状の複雑さから大半がレートA、レートSも十数匹混ざっている。


いうなればここは、高レートの魔物の溜まり場。


「森のなかを抜けようとした時、ここから凄い殺気が放たれまして。遠距離攻撃が出来るやつでもいるんですかね?」


骨だけで出来たような化け物が、背中にある鋭い骨をこちらに向けつつ、ギチギチと鳴らしながら照準を合わせていく。

勢いよく放たれた骨は、しかし難なく黒音に避けられて背後の木に突き刺さる。


「あれが遠距離型か。戦車型が生き物になればあんなふうになるのかな?」


ギチギチとなおも骨を鳴らしてこちらに殺意を向ける『戦車型(タイプ・チャリオット)』が5匹。


劣化ウラン弾とか訳の分からんものを撃ってこないだけマシかな?と思いつつ黒音は戦闘に入った。





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