第2話 戦いへ向けて。
「では、イズモ君と君は違う時間から来た、と?」
「そうだ。これで疑問が生まれるわけなんだが………召喚システムによって呼び出される存在は過去あるいは未来の存在も呼び出せるのか?」
「………分からない、と言うのが実際のところだ。」
「………まぁ、そうだろうな。」
召喚システムは未知の技術、まずもって使用されること自体が少ない。
更に、違う時間軸から召喚された人物がいたとしても、この世界の人間には確かめようがない。
細かい検証などするだけの技術も人も費用も何もかもが無い。
「しかし、違う時間軸からも呼び出せるとなると、それは面白い発見だ。召喚システムというのは、僕らが思っているよりも制限の幅が広いのかもしれない。」
「とはいえなぁ………仕組みがブラックボックスってのはどうかと思うんだが………そもそも誰が作ったんだ?」
「それすら分からないんだよ。召喚システムの、別の空間同士を繋げてこちら側に強制的に呼び出すという仕組み……まぁ転移に関するところだね、そこはまだ分かるんだ。だけどそれ以外はさっぱりで、神霊召喚の応用って言われてるわけだけどもその神霊召喚とやらも分からないことだらけだしね。」
わからないことをいつまでも議論していても詮無きこと。
とりあえず今回呼びだされた内容を話し合うことにする。
「で、結界外実習についてだが。」
「……うん、大統領からも正式に許可が降りたよ。とはいえ、危険は大きい。リスクは極力減らしたい。」
「だが、ある程度危険を感じてもらうのも大切だ。今は学生で新兵以下も同然だからここまで過保護にして貰えているが、いつまでもおんぶにだっこという訳にはいかない。とくに英雄的願望なんぞはそうそうに打ち砕いてもらわねばならない。」
敵をバッタバッタなぎ倒す英雄的存在になると言うのは夢物語もいい所だ。
新兵ごときにそんな力があるわけは無いし、いくら力があってもその力を適切に使うだけの経験がないのであればすぐに死んでしまうだろう。
どれだけチートみたいな能力を持っていても、必ずどこかしらに弱点はある。
そこを突かれればおしまいだし、何よりいくらチートみたいな強さを持っていても、敵が自分より強くない保証なんてどこにもない。
だから、自身の力量をきちんとわきまえ、状況を素早く理解し、判断する能力が必要になる。
その片鱗を掴ませるための今回の実習だ。
「Cあたりはベテラン連中に任せて、Dレートの……そうだな、毒かなんかで弱らせたやつと戦わせて様子を見るか?……いや、最初からDレートとはある程度戦えるやつを選別しよう。」
初陣ということもあり、思うようには行かないだろうが、元々戦えるだけの実力があるやつらならそこまで心配はいらないだろう。
前線の兵士達がある程度補佐してやれば充分なはずだ。
「あとはCレートと戦わせるかどうかは様子見だな。BやAとかがいたら俺が間引こう。後、実習生達に戦闘させる区画はある程度決めておこうか。」
「……ふむ、実習についてはそれで問題無いようですね。では、奪還作戦の方ですが、街にたどり着いたら、結界起動の魔力は彼らから補うんですよね?」
「そうだ。足りない魔力は全て生徒たちから補い、ベテランの魔法士が結界をはる。魔法士以外はその間、防衛になるな。」
「…………これが、私たちの初めての攻勢計画になります。今までも幾つか攻勢に出る案はありましたが、どれにおいても……」
「戦い続ければいつかこの争いは終わる、という確証がなかったんだな?」
「……えぇ、ですが、『管理者』なるものを見つければ良いと、あなたは言いました。我々はそれを信じるに足ると思った……いや、思いたい。」
「自分で言うのもなんだが、国の命運を分けるようなことを俺みたいな信用のないやつの言うことで決めるもんじゃないぞ?」
「いえいえ、我々は信じることにしたのですよ。どうせこのままで居ても、我々がすり潰されるだけだということはわかっていましたからね。」
いつまでも戦い続けることなんか出来ない。
攻撃側の3分の1でいいとはいえ、防御側も物資や兵士の損耗は激しい。
このまま防戦一方で戦いが終わるわけはないし、いつか物資が底尽きる日は来る。
なら、唯一の情報を元に、攻撃に打って出ようと考えたのだ。
「まぁ、俺がとやかく言うことでは無いか……。実習計画は1ヶ月後だ。それまでに、俺は俺で出来ることをやらせて貰う。」
「わかった。今日はこれで。」
―――――――――――――
校長室から出ると、クロエ達が出迎えに来てくれた。
「また今日も校長と話してたの?」
「あぁ。」
「今日はなにを話されていたんですか?」
「お前らにも関係あることだ………っと?」
歩いていた黒音たちの目の前に、誰かが立ち塞がる。
見たことはない、が何やらイラついているような雰囲気だ。
「お前………確か、編入生だったな?」
「そうだが……どちら様で?」
「ハッ、俺の名前も知らんとはな。俺はグリスと言う。」
聞き覚えが全くない黒音は首を傾げる。
本当に誰かわからない。
「誰だ?」
「上級生だよ。かなり有名で、結構強かったはず。」
「ふーん………興味無いな。」
黒音が無視して立ち去ろうとすると、グリスが怒りの表情で目の前に割り込んできた。
どうやら、通す気はないらしい。
「お前……ちょっばかり強いからって調子乗っているようだがな。2年ごときがいきがるな。」
2年?
………あぁ、なるほど、確かに普通の2年生なら年下だ。
だから、こんなに強い態度をとっているのだろうか?
ほとほと不思議だ。
相手が年下だからと言って、自分の方が偉いわけでも、強い訳でもないのに。
それに、相手が見た目通りの年齢だとは限らない。
「ハッ、そうやって弱いものいじめをするのが先輩とやらのやることなのか?」
「俺だって不本意ではない。」
「ねぇ、ダリス。やめようよ。」
何やら横から知らない女が割ってはいるが、ダリスはそれを無視して再度こちらを睨みつける。
「出る杭は打たねばならん。使い物にならなくされる前にな。だから、俺が教育をしてやると言っているのだ。」
「はーん?なるほど?」
だいたいこいつが言いたいことはわかった。
ただ単に突っかかってきただけでは無いようだ。
「自ら悪役を買ってでると?」
「なんのことだか分からんな。」
とぼけたようにダリスは言うが、なるほどよく分かった。
要は、沢山いるのだ、黒音に嫉妬してる馬鹿な連中が。
黒音を目障りに思っている連中がそれはそれは沢山いるのだろう。
確かに、目立ちすぎた節はある。
遠からず、黒音を狙って誰かが何かをやらかすのは目に見えている。
だから、ダリスが自らその悪役を買ってでる事で、他の連中の不満を押さえつけようという腹のようだ。
正直言って誰がどれだけ来ようが黒音にとっては関係ないが、このお節介な先輩はどうやら自分をそれなりには心配してくれている……ようだ。
どうでもいい話だが。
「ふむ、とはいえ、そこで俺がボコボコにされる必要は特に感じないのでな。余計なお世話というものだよ先輩。」
黒音が殺気を放つ。
ダリスにそんな事をしなくても問題ないという意思表示であると共に、先程からチラチラと物陰からこちらの様子を伺っている破廉恥な連中に対する圧力も兼ねている。
「ほう……これはこれで、試してみたくなった!」
今度は好奇心からか、ダリスが少し笑いながら構えをとる。
手に持っているのは魔法を補助するための短杖、仕込み杖になっているのか、鋭い刃が光る。
「ふっ!」
一瞬だった。
黒音がダリスのふところに潜り込み、掌底を叩き込むとダリスが吹き飛ばされる。
思い切り壁に叩きつけられ、グリスが気絶する。
ホコリを払うかのようにパンパンと手のひらで自分の服をはたいてから、黒音はクロエたちの視線に気づく。
「………ん?どうした?」
きょとんとした黒音の様子に、アリスは少し脅え、クロエは呆れたようにため息を吐く。
ダリスの後ろにいた女はあわあわと顔を真っ青にして慌てている。
「はぁー、あんたもうちょい手加減とか出来なかったの?」
「手加減は充分やっただろ?殺してないしな。気絶させただけだ。派手にやったが見た目ほどダメージは負ってない。」
「それよりも。」と黒音は背後の物陰から見ている連中の方を見る。
「お前らも、やるのか?」
「ヒッ!?」
一目散に逃げていく連中を見ながら、黒音はため息を吐く。
今回はこれでなんとかなった訳だが、今後もこういった輩は増えるだろう。
ダリスのやろうとしていた方法をやった所で、一時的なものに過ぎないわけだし、今回のこれも根本的解決にはなっていない。
「面倒だな……何か良い手はないものか。」
「感情を分け与えても良かったな。」と黒音は言うがクロエ達にはなんの事か分からない。
ただ、黒音のことを又聞きてばあるものの少し知っている出雲はその言葉を聞いてゾッとする。
聞いた話によると、こうだ。
曰く、黒音は負の感情をエネルギーに変えて能力を発動している。
曰く、その負の感情は黒音以外にも分け与えることが出来、適合すれば黒音程とは言わないものの、強力な力を得る事が出来る。
曰く、適合出来なければ負の感情に心を飲み込まれ、人の姿を保てなくなったあと、死に至る。
黒音自身は相手が適合するかどうか見極められるらしいので、今の言葉から察するに先程の連中は適合しないのだろう。
適合しない人間がどんな末路を送ることになるのか、想像すらしたくない。
「それじゃあ、今日も訓練を始めるか。」