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やがて世界は黒く染まる  作者: どこかの黒猫
第1章 異世界へと羽ばたく。
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第9話 人か魔物か


「そこだぁぁ!!」


「甘い。」


今は朝7時、まだ学生達もほとんど登校していない時間帯の第三訓練場を貸し切って、黒音とクロエは戦闘訓練を行っていた。

そして、ボコボコにされたクロエが訓練場の大地に転がっていた。


「相手を気を逸らしたり、思考を誘導したりするために叫ぶならともかく、なんの意味もないのに『そこだぁ』、とか叫ばないこと!自分に喝を入れるために叫ぶこともままあるが……戦闘中は基本的に喋らない事だな。」


「うぅ………どうしてこんな目に……。」


「どうしてもこうしても、自分から言ってきたんだろう?強くして欲しいと。」


そう、なんでこんな朝っぱらから戦闘訓練をしているのかと言うと、5日ほど前にクロエから頼まれたのだった。

空き時間でいいから、戦闘訓練をしてほしい、と。


クロエは泣き父と母の背中を追いかけて戦闘科に入ったものの、魔法と異能の才能が致命的になかった。

異能は持っているだけでそれはもはや才能なのだが、本人が使えないのなら意味は無い。


このままで自分はいいのか、と思っていた所に、魔法陣だけを使いこなして先生達を圧倒してみせた黒音が現れる。

更には黒音から魔法陣も自分の能力も使い方次第だ、と言われて考えに考え抜いたあげく、黒音に師事を乞うたのだった。


本人のやる気もいるようだし、感心感心と思って黒音はクロエを弟子にした。

思えば自身の戦闘技能を誰にも教えたことは無かったからだ。


クロエはどの属性にも適性が無いため、必然的に使用する魔力量が大きくなってしまう。

故に、黒音はクロエの戦闘スタイルを魔法陣を補助に使った近接戦闘に決めた。

その方が教えやすくもあったからだ。


黒音の戦闘スタイルはその再生能力と高い身体能力があってのものなので、普通の人間にはまず出来ないものだが、人間用に少しアレンジを加えれば参考にはなる。


アルやアリスも訓練に混じえつつ(無理やり巻き込んだとも言う)、クロエにこの5日間、みっちりとスパルタで教えこんだ。


「だが、動きは悪くなくなってきた。成果は出ているようだな。」


クロエの上達の速度は目を見張るものがあった。

もう既に、同じ学園の生徒ぐらいなら遅れは取らないだろうという領域には来ていた。


魔法陣を使わない練習も一応しているが、ここまで来ると近接戦闘科に転向した方が良さそうだな、と苦笑する。


「クロエはしばらく休憩してよし。次はアルとアリス、2人でかかってこい。」


アルは前衛と後衛の両方ができるオールラウンダーで、アリスは後衛が得意らしい。

さすがに後衛が得意というアリスを1人で戦わせる訳には行かないので、アリスは基本的にアルかクロエのどちらかと組んでの訓練となる。


アルはオールラウンダーと言ってはいるものの、どちらかと言えば後衛よりだ。

とはいえ、アルの役割は決めてある。

必要に応じて前衛と後衛をカバーできるスピード特化、それが恐らく適任だろう。


普通の魔道士は前衛3人の後衛2人が基本らしい。

それに対して自分達は4人しか居ないものの、黒音は1人で2人分以上の役割をこなせるし、アルがもっと成長すれば必要に応じて後衛と前衛を行き来できるから問題なしだ。


「アルもかなり成長してきたが……だがもっと速度は出るだろう?フルスロットルで常に戦えるようにしておくんだ。出し惜しみなどするなよ。」


そんな無茶な、とアルは言うがそうでなければならない。

本当ならもっと高みを目指さなければならない、その程度ではまだまだだ。


「……アリスはタイミングを見極めることだ、必要な時、必要な魔法を放つ。それは補助であったり、援護であったりと様々だ。素早い判断能力を身につけろ。」


黒音が3人に対する要求レベルはかなり高い。

というか、そこまで行けたなら大抵の敵では動じないだろうし、トップレベルでの強さを誇れるだろう。


だが、まだまだだ。

『タイプ・ウィデーレ』がいる事は分かっているのだし、いつか前線に立つからには、戦いは苛烈を極めていく。

世界と対峙しても我を通せる程になってもらわねば困る。


「ま、朝の訓練はこのくらいだな……夕方になったらまたやろうか。…………む?」


黒音が、辺りが不穏な空気に包まれるのを感じ取る。

吉兆、何かが起きる予感。


「………なるほど、今日か。」


「…………?どうしたの?」


「今のうちに体を休ませておけ。すぐにでも戦えるようにな。」


「どういうことですか?」


アリスが、黒音の言葉に戸惑う。


「敵だ。初の実戦にしてはいささかハードだが………生き残れはするだろう。」


未だに言われていることの実感がわかずにいる3人に対して黒音が肩をすくめると、懐の無線が鳴った。

この世界にも通信機器はあり、無属性魔法にも通信魔法なるものがあるらしい。


『クロネ君ですか?この妙な気配は、まさか?』


「あぁ、恐らくそうだ。ヤツは今始めるつもりらしい。軍の配置は?」


『言われた通りにすんでいます。』


「では、俺は元凶を叩きに行かせてもらう。国を守るのはお前らの役目だ。俺は関与しない。」


『それは当然です。そうでなければ、我々も面目がたたない。』


そして、3人に対してついてこいと言いながら黒音はどこかへと向かう。

未だに状況は掴めないものの、クロエ達は黒音の後ろについて行く。


「これは、魔法陣?」


「至る所に………!」


学園中の至る所に光り輝く魔法陣が描かれ始めていた。

ひとつの魔法陣に周囲に同じ魔法陣を描く機能が着いているようで、連鎖的に大量の魔法陣が自動で描かれていく。


「ねぇ、黒音、あんた何か知ってるんでしょ?この魔法陣は何?」


「転移魔法陣だ。」


「……転移?」「魔法陣??」「ですか?」


3人が首を傾げる。

たしか、転移魔法陣は未完成の代物のはずだ。

もし完成したなら、一躍有名人のはずだ。


「そうだ。これが戦争なら、つくづく恐ろしい代物だがな。」


そう、いつでも好きな場所に一瞬で移動できる、というのはとても恐ろしい。

簡単に敵の内部に潜り込めるだけでは無い。

この転移魔法陣の本当の怖さは、兵站と補給の問題を一気に解決してしまうであろう所にある。

物資の補給に時間を要さないというのは恐怖だ。

いつでも、必要な場所に物資を届けることが出来る。

もちろん国力の問題はあるだろうが、鉄道をいちいち使わなくていいと言うのは凄まじい。


「しかし、今回は補給なんて地味な使い方では無いな。そうだろう?リザ先生?」


「え、あの、これは一体………?」


黒音が向かっていた先、魔法陣研究室内にいたリザに黒音は話しかける。


「この魔法陣はあなたが研究していたものだ。違いますか?」


「は、はい。それはそうですけど………でも、これをやったのは私じゃなくて………」


「白々しい真似はもうよしましょうよ。ねぇ?『人間型(タイプ・ヒューマン)』。」


「タイプ……ヒューマン………?」


クロエが首を傾げる。

アリスも困惑顔だが、アルは何かに気づいたようだ。


「お前の計画は分かってんだよ。街中にマモノ共を解き放つつもりだろう?転移魔法陣で。」


「………なんだ、そこまでバレていたんですか?でも、なら何故」


「さっさと止めなかったのか、か?そんなことをする目的が分からないからな。実際に計画は動かさせる。本人ですら、途中で止められない状態まで持ってこさせる。そのうえでお前の目的を暴かせてもらう。」


「その為だけに、ですか?必要以上の犠牲を出してまで。」


「いいことを教えてやろうか?俺は自分の目的のために70億の人類を犠牲にしようとした男だ。この国ひとつが消えようと、そんな犠牲は無いに等しい。」


あの世界では、結果的に死んだ人間は蘇った。

人の願いが、祈りがみせた一夜限りの奇跡によって。

とはいえ、それは結果論だ。

結果的に蘇ったとはいえ、黒音が数多の人間を犠牲にしたのには変わりはない。


「で、聞かせてもらおうか?お前の目的を。」


「聞かせるわけがないでしょう?あなたにはここで死んでもらいます。」


「今のお前の事を人はなんというか知っているか?『無謀』と言うんだ。ひとつ賢くなれたな?」


一触即発の雰囲気、しかしクロエは相変わらず状況が理解出来ていない。


「え、先生がなんで……?どうなって…………。」


「落ち着け、状況を冷静にしっかりと把握しろ。今ある情報を元に自分がすべきことをなせ。」


この調子じゃまだまだだな、と黒音はため息を吐く。

大きく状況が動いている時に自身の立場と周囲を把握出来ないというのははっきり言ってダメダメだ。

クロエとアリスの反応を見てみる限り、2人のそれは論外だ。

その点でいえば、ある程度周囲の把握に務めているアルは優秀と言っていい。

すぐに切り替えが出来てないのはアレだが。


「……なぁクロネ。リザ先生は裏切った、という認識でいいのかい?」


「それはちょっと違うな。」


クロネが不敵に笑いながら首を横に振る。

それに対して、「えぇ」とリザが肯定の意を示す。


「元々からして魔物側なのだから、裏切るもなにもないでしょう?」


「そうだろうな。」


「しかし、なぜバレたのです?もしやあなたが異世界出身であるということと、何か関係が?」


「まぁ、あるな。しかしそれだけじゃない。お前は少し俺の事を過小評価しすぎていたようだ。」


「と、言いますと?」


「お前が見せた魔法陣。俺がこの世界の魔法陣を知らないだろうとタカをくくって見せたはいいが、生憎と俺はお前の魔法陣に転移以外に余計な陣がついてんのは全部把握出来ていた。その内容もな?」


「なるほど、では先程の『私が街中に魔物を転移させる』などという推測も嘘ですか?」


「当然だ。お前の本当の目論見までは分からなかったが、ただ街中に転移させるだけではあるまい?そもそも、今街中に張り巡らされているこれは転移魔法陣では無いしな。」


そう言いつつ、黒音はどこからともなく剣を取り出し、構えようとして……


「でも残念、あなたが準備している暇を与えてやる義理も無いわ。」


一瞬にして、黒音の首が切り落とされた。

悲鳴が、轟いた。



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