ヘンリーとグレース。(三十と一夜の短篇第32回)
兄の名はヘンリー、妹の名はグレース。
ごく普通の兄妹はごく普通の両親の許に生まれ、ごく普通に成長しました。
でもただひとつ違っていたのは――
彼らの名前を漢字で書くと『編李』と『灰珠』――そう、彼らはいわゆるキラキラネームだったのです。
それはともかくとして、彼らはそれなりに仲のいい家族でした。どこかの昔話のように継母が子殺しをしようとしたり、子棄てを考えたりすることもなく、彼らの父親の職業は王や木こりではありません。
ただ、両親ともに登山やキャンプが大好きだったので、彼らは雪のない季節には月に一、二回――夏場になるとほぼ毎週のように――野や山へ家族で出掛けていたのでした。
しかし子どもたちは現代っ子。ゲームも好きだし、子ども用のスマートフォン型端末で動画を観たり友だちとメッセージのやりとりをするのも頻繁です。
だから本当は、電波状況の悪い山の中で週末を過ごすより、家でのんびり過ごす方が好きでした。
とはいえ兄妹はもう小学生。四年生と三年生です。子どもなりの分別だってあります。両親をがっかりさせるようなワガママは、なるべくなら言いたくありません。
そしてキャンプも楽しくないわけではなく――要するに、端末やゲームを持って行けるなら、キャンプに付き合わされるのも悪くはないという、ハイブリッドな現代っ子でした。
* * *
ある夏の日の午後のこと。
ヘンリーとグレースの兄妹は、湖のほとりに設えた彼らのキャンプを離れて森の中を散策することにしました。
森は少し傾斜を帯びて丘のようになっていたため、上から自分たちのキャンプを眺めるのも面白いかも知れないと、兄のヘンリーが妹に持ち掛けたのです。両親は釣りや燻製を楽しみつつ、湖に向けたデッキチェアでくつろいでいます。
まだ太陽は充分に高い位置にあり、ほんの少しだけその辺をぐるっと廻って、すぐ戻って来るつもりでした。だから彼らは携帯も持たず、丁度その時手にしていたおもちゃのみを持って、湖に背を向けました。
細かな枯れ枝や病葉を踏みしめつつ傾斜を五分ほど上ったところで、唐突に平地が拓けました。下から眺めていた時、一部だけぽっかりと緑の窪みができているように見えていた場所だろう、と子どもたちは思いました。
「ここでキャンプしてもよかったんじゃないかなぁ」などと言いながらヘンリーは周囲を見回します。
「ここからテントが見えないかな?」
妹のグレースが来た道を振り返り……途端に、「お兄ちゃん、大変!」と叫びました。
更に奥へ進んでいたヘンリーは足を留め、「なんだよ?」と訝しげな表情で戻って来ました。
妹はちょっとしたことでもキャーキャー騒ぎ立てる年頃なのです。どうせ、カブト虫やてんとう虫を見つけたとか、見たことのない花が咲いているとか、その程度のことだろうと考えましたが、それにしてはあまりに茫然としています。
「なんだよ?」
ヘンリーはもう一度訊ねます。しかし妹は言葉にならない様子で、キャンプの方を指さしていました。
「だから何が――」とその指の先の方を眺めたヘンリーも、言葉を失いました。
何故なら、眼下に広がるのはどこまでも緑色。子どもの脚でたった五分かそこらの距離にあるはずのテントも、その先にあるはずのキラキラ光っていた湖面も、何も見当たりません。
まるで最初からそこに森しかなかったようでした。
ヘンリーは蒼白になりましたが、グレースの方がショックが大きそうです。
いつも両親から「お兄ちゃんなんだから、妹を守ってあげてね」と言い聞かされていたのもあり、彼は自分を奮い立たせました。
「多分、光の反射で緑色ばかりに見えるんだ……だから、もう少し陽が傾いたら、なんでもない風景に戻るさ」
笑顔で妹にそう言うと、踵を返し、「それよか、もう少しこの辺を探検しようぜ」と、平地の奥へ歩を進めました。
「そうなの? あ、待ってよ」
後から妹が慌ててついて来ます。ヘンリーはこれ以上奥に進むのは危険な気もしていましたが、でもあの風景を眺め続ける勇気もありませんでした。
そして少しだけ――ほんの少しだけでしたが――ひょっとしたら自分たちは、ゲームやアニメのようにどこか違う世界へ転移してしまったのではないか、とも考えていたのです。
平地は小学校のグラウンドの半分ほどの広さで、柔らかな下草に覆われていました。人が踏み荒らした様子もなく、クローバーやオオバコといった彼らがよく知る草が伸びやかに葉を広げています。
その中に、誰かが歩いた後のように軽く踏みつけられた草の道ができていました。細いその道は平地を緩く右へ曲り、森の中へ消えています。
ヘンリーとグレースは緑色の細い道を視線で追い、それから互いに目を合わせました。あの先には誰かがいるはず。そう思ったのです。
もしも誰もいなかったとしたら、反対側の――彼らが上って来た場所よりももう少し左手の方向に伸びている――緑の道を辿ってみればいいのです。
「行ってみよう」
ヘンリーが声に出すとグレースは無言でうなずきました。
そして彼らは手を繋ぎ、森の中へ延びる緑の小径を進みました。
森の樹々や丈の高い下草に視界を阻まれましたが、一分も進まないうちにまた開けた場所に出ました。
そして彼らは、今度はぽかんと口を開けてしまいました。
「お兄ちゃん……」
「なんだよ」
「これ、なに?」
ヘンリーは答えられませんでした。考えていることはグレースと同じだという確信がありましたが、それを口にできなかったのです。
何故なら、目の前にはどう見てもお菓子でできているようにしか見えない、小ぢんまりとした一軒家が出現したからです。
「本物……?」
グレースは誰にともなく問い掛けました。
本物、とはどちらの意味でだろう、とヘンリーはぼんやり考えます。
家として本物なのか、お菓子としての本物なのか、いや、もしかしたらその両方の意味で?
「甘ったるい匂いがするよ」
グレースが小さく顔をしかめました。
でも次の瞬間、「誰かいないか、見に行こうよ」と言うと、今度は妹が兄の手を引いて駆け出そうとします。
「いざという時、男より女の方が度胸がある」とは彼らの父がヘンリーにしみじみ言い聞かせた言葉のひとつでしたが、まったくその通りだ、と妹に引きずられるように家に辿り着いたヘンリーは考えていました。
堅焼きのクッキーのようなドアに、べっ甲飴みたいな色の小さな覗き窓が四つ、四角くはめ込まれています。
呼び鈴はなさそうですが、ドアの中央に木でできた大きめの輪がふたつ、ぶら下っていました。
「これでコンコンってするの?」
妹が木の輪を指さして兄を振り返ります。
「うん……多分……」
自信なさげにヘンリーが答えると同時に、もうグレースはその輪を手に取り、思い切りよくドアに叩きつけました。
乾いた音が響き、ヘンリーはドアが割れてしまうのではないかとハラハラしました。
「留守なんじゃないかな?」
そんな願いも虚しく、中から足音が近付いて来ます。少し足を引きずるような、ゆっくりした足音――多分お年寄りの足音だろう、とヘンリーにも想像がつきました。
「誰だね? こんなところに珍しい……」
少ししわがれた声がドア越しに聞こえます。
「あの、ごめんなさい。道に迷っちゃって」と、グレースが説明すると、ほう……とため息が聞こえました。
「子どもが来るのは久し振りだねぇ……」
笑いを含んだようなその呟きは、ヘンリーの背中を粟立てます。しかしグレースは物怖じせず、ゆっくりと軋みながら開かれるドアを見つめていました。
中から現われたのは、黒いローブを被った魔女――ではなく、夏向きの薄手のワンピースを着た上品な老婆でした。
ワンピースの色も黒ではなく、上品なライラック色。ふんわりした白髪はゆるくカールがかっており、きれいにまとめられていました。
ヘンリーはほっと肩の力を抜き、下の湖でキャンプしていたこと、森の道を上ったら帰り道がわからなくなったことを説明し、電話があったら借りられないか、と頼んでみました。
「それはそれは……」と、老婆は目を丸くしていましたが、ふぅ……とため息をついて言いました。
「申し訳ないけどね、電話は今故障していて、週明けにならないと修理ができないんだよ」
「じゃあ携帯、ないですか?」
ヘンリーが食い下がると、老婆は不思議そうな表情になり、見つめ返しました。
「こんな、滅多に出掛けないようなおばあちゃんに、携帯電話なんて必要だと思うかねぇ?」
確かに老婆の言う通りです。ヘンリーたちも家にいる間は勝手に携帯を使うことはありません。どこかへ出掛ける時に、両親に手渡してもらうのです。
しかし電話が使えないとなると、両親への連絡手段がありません。兄妹は困ってしまいました。
老婆は「立ち話じゃ疲れるでしょう」と、ふたりを家の中へ招き入れ、ソファへ座らせました。
「折角ここまで来たんだから、休んでおいで。今おやつを出してあげようね」
「おきづかいなく」
ヘンリーは両親がよそのお宅へ訪問した時の言葉を真似ましたが、老婆は片手を振って笑いました。
老婆が部屋を出て行くと、グレースはソファに腰掛けたまま足をパタパタしながら言いました。
「ソファとかはお菓子じゃないんだね?」
そう言われてヘンリーもようやく気が付きます。調度品は普通の物で――とはいえ、彼らの家とは違ってどこか外国の家の中のようでしたが――童話のようにソファやテーブルがお菓子でできている、というわけではないようです。
「お菓子でできてるわけないだろ、常識的に考えて」とヘンリーは口を尖らせますが、自分と同じことを妹も考えていたのだと改めて思いました。
あの老婆は、本当は魔女なんじゃないのか。お菓子の家で子どもたちを誘い、捕まえて食べてしまうのではないか。
見た目が魔女らしくないのは、魔法で化けているからじゃないのか……
一度そう思ってしまうと、怖い考えがどんどん頭の中に湧いて来ます。
――ひょっとしたらこのソファも、座ると二度と立てなくなる魔法のソファだったりして……
そんなことを考えていると、ガチャリと音を立ててドアが開き、ヘンリーはソファから飛び上がりそうになりました。
「……何やってるの? お兄ちゃん」
グレースの呆れたような声が下の方から聞こえて、ヘンリーは自分が思わず立ち上がっていたことにようやく気付きました。開け放したドアのところでは、老婆が目を丸くしてヘンリーを見ています。
「あ、あの……お手伝いを、しようかな、って」
ヘンリーは、老婆が抱えている銀色の大きなお盆を見て咄嗟に言い訳をしました。グレースが小さく「あぁ……」と納得したように呟きます。
ふたりは老婆を手伝い、テーブルにお茶とお菓子を並べました。
「ジュースじゃなくて悪いんだけどね」と老婆は言いましたが、いい香りのする紅茶はちょっと贅沢な気分になります。
お菓子作りが趣味だという老婆は、彼らの前に手作りのクッキーや小さなケーキを山盛りにしました。
「時々、町内会のバザーにも出すんだよ」
こんな場所に『町内会』なんてあるんだろうか、とヘンリーは思いましたが、失礼になるので口には出しません。
グレースはおいしいおいしいと言いながら、花の形のクッキーやチョコチップの入ったケーキを次々食べています。
しかし実は、ヘンリーは甘いものが苦手だったのです。
子どもといえば甘いお菓子が好きだろうと大人たちは考えがちですが、彼はどちらかというと煎餅やポテトチップス、そして両親がつまみで食べるようなするめやナッツが好物なのです。
何も食べないのも失礼になるだろう、と、甘くなさそうなクッキーを手に取って齧りましたが、歯に染みるほどの甘みが、一瞬で口の中に広がりました。
一体どれだけ砂糖を入れたんだろう……と思いながら口直しに紅茶を一口飲むと、これもまた市販の紅茶よりもずっと甘くて舌がしびれそうになります。
「こんなにおいしいお菓子が食べられるなら、おばあちゃん家の子になりたいなぁ」とグレースはにこにこしていますが、これは彼女の口癖で、美味しいものや楽しいものがある家にお邪魔すると必ず言う台詞でした。
そう言われて嫌な気分になる大人など滅多にいないからです。
老婆もグレースの言葉に目を細め、うんうんとうなずいています。
「そうかいそうかい。おばあちゃん家の子になってくれるかい?」
その時、老婆の眼の奥に、怪しい光を見た気がして、ヘンリーはぞっとしました。妹に忠告をしようと口を開き掛けた時、グレースはまた喋り始めました。
「ほんとに、毎日おいしいおやつが食べられたら幸せだと思う。でもあたし、ゲームができなくなるのはおやつが食べられなくなるよりつらいかなぁ……おばあちゃん、充電器とか、ある?」
グレースの言葉に、老婆はポカンと口を開けました。
「充電器……? なんの?」
「なんの、って。今時、たいていは同じやつが使えるでしょ? あ、あとお兄ちゃんのゲーム機もあるから、できれば二本あるといいんだけど」
そう言って、グレースはポケットから小さなスマートフォン型の機械を取り出しました。動画を観たり音楽を聴いたり、たまにゲームをしたりするので、いつも肌身離さず持ち歩いているのです。
ヘンリーも、パーカーの大きなポケットの中には二画面が特徴のゲーム機が入っています。
「ゲーム……それがないと駄目なのかい?」
老婆は何故かうろたえたようにグレースに訊きます。
「お菓子だけじゃ、駄目なのかい……?」
グレースはきょとんとして老婆を見つめ返し、「おばあちゃん。今時、ゲームができない環境には子どもはいられないよ、常識的に考えて」
「あんたも……あんたもそうなのかい?」
哀れな老婆は、すがるような目でヘンリーを見ました。
ヘンリーは老婆の態度が急変したことに驚きながらも、「うん、ちなみに僕のゲームはこれ――あと、僕はどっちかっていうと、クッキーやケーキより、煎餅とかするめとかの方が好きなんだ。だからあまり食べられなくてごめんなさい」
「なんてこと……!」
よほどショックだったのでしょうか。老婆はしわがれた声で叫びました。
その途端、突風――いえ、暴風と言った方がいいような風が吹き荒れました。部屋の中だというのに、まるで台風のようです。
部屋のドアも窓も一斉にバタンバタンと音を立てて開いたり閉じたりを繰り返し、飾ってあった花や、レース編みのタペストリーや、飾り棚に並んでいた小さな人形や本などがものすごい勢いで飛び廻ります。
「なにっ? どうしちゃったのっ?」
グレースは悲鳴を上げて耳を塞ぎましたが、ヘンリーはしっかり目を開いて――暴風で目が乾くので、しょっちゅうまばたきを繰り返さなければいけませんでしたが――それを見ていました。
竜巻のような風の中心にいる老婆が、空気の抜けた風船のようにしぼんでいくのです。でも小さくなるのではなく、優しげにカールしていた髪も、柔らかそうなワンピースも、まるで花がしおれるのを早回しにしたようにくすんで行き、それが剥がれ落ちた中から黒くてモヤモヤした塊が現れて来ました。
「魔女だ……やっぱり黒いローブを着た、悪い魔女だったんだ!」
ヘンリーは立ち上ってそう叫ぶと、隣のソファで身を縮めているグレースの手をしっかり握って立たせました。
ヘンリーの目の前を小さな指人形が飛んで行きました。
身を守るように曲げた右腕を、本がかすめて薄い傷ができました。
今やすっかり黒い塊となった老婆――魔女のようなそれ――が、兄妹に向かって手を伸ばします。その爪は長く、鉤爪になっています。
あれに引っ掛けられたら、自分たちは捕まってしまう、とヘンリーは咄嗟に持っていたゲーム機で老婆の手を払います。固い物に当たった感触と、痛そうな呻き声が聞こえたのを合図にして、兄妹は暴れている部屋の暴れているドアを走って通り抜け、逃げ出しました。
* * *
どれくらい走ったのでしょう。
廊下に出たと思ったのにそこは暗闇で、でもとにかくどこかへ逃げなければと、ヘンリーはグレースの手を掴んだままやみくもに駆け抜けて、もう息が切れて動けないというところでようやく立ち止まりました。
「おにいちゃん……」という、苦しげなささやきが後ろから聞こえ、ヘンリーはようやく、妹の手を掴んだままだったことを思い出します。でも、振り返るのが怖くなりました。
自分は本当に妹を連れて来たんだろうか……もしかしたら、あの部屋の人形を間違えて持って来てしまい、妹はあの魔女に捕まったんじゃないだろうか。
「もう! お兄ちゃんってば!」
咳込みながら、でも今度はさっきよりしっかりした声で、妹のグレースが怒っています。反射的に振り返ったヘンリーの目には確かに、グレースが髪の毛をくしゃくしゃにしたまま、息を切らせている様子が映りました。
「あいつは?」
ヘンリーも肩で息をしながら来た方向を窺います。
だいぶ長い距離を走ったと思ったのに、彼らが立っている場所は、あの突然拓けていた平地の真ん中辺りでした。
兄妹の髪や服をくしゃくしゃにした暴風は目に映る風景のどこにも吹いておらず、夏の午後の気だるく重たい暑さの中、時々樹々をそよがせる程度の風しかありません。
老婆が追い掛けて来る様子もありません。
あまりにも平和で拍子抜けしたヘンリーは、自分がひとりで夢を見ていたのかと思い、グレースをじっと見つめました。
グレースも無言のまま、兄を見返します。
「あのさ……」
「なによ?」
「僕たち、さっきからここにいた?」
我ながら間抜けな問い掛けだと思いながら、ヘンリーは妹に確認しました。
「はぁ? なに言ってるのお兄ちゃん」
グレースは小莫迦にしたような表情で、両手を腰に当てて胸を張りました。ヘンリーが変なことや間違ってることを言うと、可愛げのない妹はこうやって兄に言い返すのです。
やっぱり自分だけが夢を見たのか――ヘンリーがそう思った時、グレースはまた口を開きました。
「あの変な家から、ようやく逃げて来たところじゃないの」
「えっ……」
「なんのために走ってたのか、走ってる間に忘れちゃったとか言うんじゃないよね? やだよあたし、小学生ですでにボケが始まってるお兄ちゃんの世話をしなきゃいけないとかさぁ」
グレースは口を尖らせ、ぐるっと周囲を見回しました。
「あー……結構時間が経ってるみたい。湖がまぶしいよ。あ、テントが見える。ほら、お兄ちゃん、こっちに行けば帰れるんじゃない?」
妹の指さす方を見たヘンリーは、光に目が眩みました。
ここに上って来た時よりだいぶ傾いた陽の光が湖面に反射して一斉にこちらを照らしているようです。あの時は一面の緑にしか見えなかった景色には、今は大きな湖と湖畔の地面と、彼らのテント――そしてくつろいでいる両親の姿も、確かにそこに見えるのでした。
「帰ろう、グレース」
「うん、お兄ちゃん」
兄妹は改めて手を繋ぎ、今度こそ、帰るために歩き始めました。