その者はかく語りき~やっちゃった令息令嬢の話~
最近よくある婚約破棄ものを無関係な人が見ていたらどんな感じかな、と書き始めたのではないんです。連載の方で上手い言葉が出てこなく展開も決まらなくて適当に何か書こうとしたら勝手にこの誰かさんが語り出したんです。(何故か弁解を始める)
こんなのりで書き出したこともあり、試験的な意味合いが強いので少し読みにくい部分があるかと思いますが、よろしくお願いします。
突然のことだが、私の話を聞いてくれるだろうか。いや、別に強制ではない。むしろあなたには何の特にもならないことだし少々時間もかかる、今すぐ何処かへ立ち去って行ってしまっても構わない。ただ、私がこのことを誰かに話したかっただけなんだ。その相手にあなたを選んだのは、ただ単にこの先二度と会うことはないだろうと思ったからだ。なに、こういう事は後腐れのない相手に言うのが一番なんだよ。それなら、もしあなたがこの話を誰か知り合いに人に話したところで私には何の影響もないだろう?もともと全く接点がなかったのだから。もっとも、よっぽどのことがなければ、の話だが。
まあ、そんな訳で改めて訊くが話を聞いてくれるか?そうか、ありがとう。ああ、一応これから話す人物はその人の名誉云々のためにも偽名を使ったりぼかしたりして出来るだけ特定できないようにする。そうしても分かるときは分かるがな。分かったとしても言いふらさないでくれよ?流石にそれは問題があるから。
じゃあ、心して聞いてくれ、……ってそこまで気負う必要はない。吟遊詩人ほど話は上手くないしつまらないかもしれない、って意味だよ。内容自体に気負う必要なんかない。外から冷静に見たらただただ滑稽な話だからな。……そう、笑い話だよ、実際にあった、な。当事者やその周辺の人物にとっては笑い話なんかではなかったのだろうがなあ。
始まりは……、ああそうだ、初夏だった。春の花が終わり、新芽が出てきた新緑の季節。どうでもいいが、私はこの季節が一番好きなんだ。夏が始まるほんの少し前の萌黄の季節。風も爽やかで。……はは、同じだな。秋もいい。夏の暑さから解放されて、恐ろしい冬が来るまでの儚い季節。鮮やかな紅や黄が舞い踊る季節。過ごしやすくもあるしな。
ええと、話を戻そうか。始まってもいなかったか。とにかく始まりはその初夏だった。大体どこの国にも教育機関が王都にあるだろう?そう、貴族の子弟や特別優秀な平民の子が通う。その学校にな初夏という奇妙な時期に編入してきた者がいたんだ。ほんの少し早く入れば比較的目立たずに編入できたのに、変な話だろう?何でかって?これが傑作なんだ。その者は何とさるお方の落とし胤だったのだと。その時点でいろいろあり得ないんだがその先もいろいろ突っ込みどころが満載なんだ、これが。十四歳にもなってようやく見つかったと思ったら、最低限の身の振り方も教えずに貴族社会の縮図だとも言われるアカデミーにそのまま放り込んだんだ。まったく有り得ない話だと思うだろう。そのようなことをしてその者が何か問題でも起こしたら責任を問われ醜聞となって他家からそのように見られるのはその家だというのに。正気の沙汰ではない。第一そこまで放っておいたならば後五年くらい捨て置けばよかったのに。
……性別?御令嬢だよ。はたしてアレを御令嬢などと呼んでいいものなのかは判断がつかないが。ああ、本当に酷かった。いくら平民として育ったからと言ってもあれはない。そこらの平民の方がよほど上品なのではないかと思うほどだった。立ち居振る舞いではないぞ?その性根だ。一言で言うと醜い。外見がそこそこ見られるものだったからこそなおさら目立って見えたな。厚かましいし出来ない事を解消しようともせずに妬む。言い掛かりをつける。そのくせ色目を使うのは玄人はだし。何処の娼婦かと思うほどの手腕だった。あれは中身が腐っていたのだと私は思っているよ。
ふふ、今更気付いたのか?私は結構性格が悪いぞ?こんな風に人にべらべら醜聞を話しているしな。別に警邏隊に捕まるようなことはしないぞ、ただ単に性格が悪いだけだ。無性にむしゃくしゃして話したくなって、……ってそれはどうでもいいな。
ああ、また話がそれてしまったな。すまない。で、さすがにこれは、と言うことで成人した歴とした貴族が慣例に背いてまで介入しようとしたんだが、それがまた誑かされた者たちを刺激してなあ、あれよあれよという間に王侯貴族とアカデミーとの間に大きな壁ができてしまっていたのだ。これを実行できたのはこれまた面倒なことに誑かされた者の中に未来の国の中心人物が含まれていて、妙なところでその才能を惜しむことなく発揮したと言うわけだ。まさに手に負えないと言う奴だ。
そもそも、なんでそこまで中心人物らが入れ込んだのかというのは割愛する。そこまで話し始めるといつまで経っても終わらなくなってしまうから。とりあえずその先の話をしよう。……結末?先に話してしまったら面白くないじゃないか。後のお楽しみだよ。そんな顔をしても話さないぞ。待てば聞けるんだ、今話さなくたっていいだろう。最初っから時間は少しかかると言っているのだし。はいはい、いいぞ。もともとこんなところで話しているんだ飲みながら食べながら聞いていたって怒りゃしない。……すみませーん!…………はい、これとこれと、ああ、あとおすすめメニューの、……そうです。あとこれを、で……。ということでお願いします。
中断してしまったな。すまない。続けようか。
まず、あの国のアカデミーのことを説明しておこう。基本は十二歳から十七歳までの者たちのための機関で、平民も通えるとはいえ殆どは貴族のためかつての貴族院とあまり変わっていない。十七になる前でも卒業要件を満たせば卒業は可能で、殆どの学生は最後の歳までいない。最後まで止まるのはよっぽど性に合ったかお馬鹿さんだったのか、だな。そもそも貴族であれば殆どの学習をすでに済ませているから最後まで残る者はまずいない。平民もあのアホみたいに厳しい入学試験を通ってきているから落ちこぼれる事はないな。だから、その中で最後まで残った者はいろんな意味で重用されない。残ったうちのアカデミーが性に合った者は研究所の方に行くか、卒業しても残るかして研究や教育の道に進むからそもそも表舞台に出てこない。当然落ちこぼれた者は問題外というわけだ。
あの令嬢?ああ、あれはコネだよ。令嬢――面倒くさいな、うん、仮にコーデリアとしよう。貴族らしくない名前とか言うなよ。私は名前をつけるのが苦手なんだ。とにかく、コーデリアの取り巻きは若い教師も含まれていてな。……そう、その通り。しかも、そうでない古参や女性の教師はあの次期中心――こっちも面倒だ、ええとグレンたちと言うことにしよう。グレンは中心のなかの中心ってことで。覚えておいてくれよ?きっと忘れるから。で、グレンたちはそのコーデリアに優しくない教師たちを脅したんだ。その時すでに治外法権ができあがっていたから、教師たちにあのお願いという名の脅しを退けることはできなかった。本来彼ら教師は生徒が間違った方向に進もうとしたらそれを諫める役目があったんだがその時にはその機能は働いていなかった。有名無実というやつだよ。生徒も男子生徒は皆コーデリアの虜で、女子生徒も半分は取り巻きと化していた。ああ、男子生徒の中には胡散臭いと言っている者もいたんだが。まあ、重要なのはアカデミーの空気が彼らにやさしいものとなっていたことだ。反対意見を述べようものなら袋だたきに遭うから誰も諫言しないし、異常な場所となっていたよ、あの当時のアカデミーは。
陛下も何も考えていなかった訳ではなかった。グレンたちを廃嫡にしようと動かれていた。彼らのほとんどは嫡子であったが、スペア――弟や養子として迎え入れられそうな子が親戚にいたりしたから、彼らの父親も苦渋の決断をした。
外部と隔絶されていたアカデミーにいた者たちは知らなかったが、事態の収束までは秒読みだった。いくら元々優秀だとしても、海千山千の大人たちには敵わないということだ。
それを知らぬコーデリアたちは楽しく『学生生活』を謳歌していた。端から見ればなんとも馬鹿らしい日常だったが。例えば、ある日の庭園で、
「グレン様!見てくださいこの花。きれいでしょう」
「ああ、まるでコーデリアのように美しい」
「ふふふっ。ありがとう!うれしい」
「コーデリア、こちらにも貴女にふさわしい花がありますよ。華麗でありながら儚げでもあり可憐でもある。貴女にぴったりだ」
「え~?どれのこと?ウィリアム様」
「これだ」
「わあっ。可愛い!ありがとうウィリアム様!」
「おい、ウィリアム。抜け駆けは禁止だと言っただろう」
「そうだ。第一どの花もコーデリアに似合うし、コーデリア以上のものはない」
いきなり男たちの取り合いに発展しそうになったところで、
「みんな、けんかしないで?みんなの気持ちはちゃんと受け取ったから、ね?」
コーデリアはその持ち前の誑し込み技術でその場を納める。上目遣いの少し潤んだ瞳。男たちをコロリと落とす計算された格好。一部の者が毛嫌いする理由の一端である仕草だ。しかし、
「う、すまない」
「気をつけます」
「悪かったな」
等々、愚かな男たちは簡単に落ちた。次代を負う者が情けない限りだ。とにかく彼らはこういう女性であること弱いことを前面に出してくる者に耐性がなかったのだ。アカデミーという限られた社会の中に身を置き、それ以前はほとんどを家の敷地内だけで生きてきたのだ。そのような者と出会う機会はなかった。そして、彼らの不幸は保護者の目の届かぬところで彼女に出会ってしまったことだろう。判断力がまだ未熟な彼らには太刀打ちできなかったのだ。
そうして、彼らが庭園で花を愛でていると、コーデリア悲鳴をあげた。
「いやっ!」
「コーデリア?!」
「虫が!きゃあっ。こっちに!」
「コーデリアっ」
当然のことだがこの花壇は屋外にある。虫も当然いる。実際その虫は花から飛び出てきたのだし、そもそもコーデリアが花を揺らしたのに驚いただけだった。確かに刺されると問題だが、基本的に何もしなければ襲ってこない。しかし、
「まったく。誰だ、コーデリアに危険な虫を近づかせたのは」
理不尽に怒ったのは、取り巻きの一人のディランだ。誰かが虫を近づけたのではない、コーデリアが不用意に虫に近づいたのだ。しかし、恋に目がくらんで判断力が鈍っている彼は花の世話をしていた庭師を非難する。
「おい、ここの世話をしていた者を連れてこい。処罰してくれる」
「そうだぞ、何を突っ立っているんだ。さっさと行け」
そばに控えていた護衛たちに尊大に命令をする。護衛たちは彼らに仕えているのだから命令に従う義務がある。かといって、このくらいのことで処断していけば、必要なところに人がいなくなってしまう。特に今のアカデミーでは。
どうすればいいのかと当惑して動けずにいると、
「あたしは、大丈夫だよ!ほら、何もされなかったもん。ディラン様が守ってくれたんだもの。だから、お庭の世話をしていた人を叱らないで?」
「コーデリア……」
「わかったよ。本当にコーデリアは優しいなあ」
全くもってチョロい男たちだ。完全にコーデリアに転がされている。
逆に護衛や側仕えは一歩引いているだけあって冷静な者が多く、若干の不信感を主やその主が入れ込んでいる少女に向けていた。もともと治外法権をグレンたちが手に入れた当時はコーデリアに心酔していた者たちがほとんどであった。しかし、彼らの利己的で独裁的な命令に辟易して心が離れていったのだった。
彼らが作り上げた幻想も崩壊の兆しが確かに見えていた。
さて、この国の貴族の結婚事情はどうだったのか。幼少期から結婚の約束をしている者はごく少数だった。残りの大多数はアカデミーで相手を見つけるものだった。もちろん当主が最終判断をし、国王陛下から許可をいただかなければならないのだが。また、基本的に一夫一妻だが、愛妾も認められていた。ただし、これは夫婦間で子を得ることができないと医師から診断され、なおかつ親族から養子を迎えられない場合のみに限られた。
そのことから考えると、コーデリアが取り巻きの中から誰か一人を選んでいればまだよかった。身分違いという誹りは受けただろうし他にも問題は山積していたが、結婚も不可能ではなかった。しかし、彼女は誰かを選ぶのではなく側に寄ってくる全員に対して思わせぶりな態度を取った。男たちは当然拒否されないために諦めずに側に居続ける。
彼女の選択は明らかに糾弾されるものだ。必要に迫られてもいないのに彼女は秋波を送りまくっていたから。
実際、あの儚い理想郷は庭の虫事件から三月後に失われた。手回しを終えた国の上層部がついにアカデミーの体制を解体、できあがっていた支配体系を壊したんだ。これに伴ってコーデリアは国を混乱に陥れた元凶として、アカデミーでの支配者だったグレンたちは国の一部である教育機関を自分たちの都合により私物化したとしてそれぞれ蟄居が命じられた。コーデリアが入学してちょうど二年経ったある日のことだった。
かなりの騒動だったようだ。乱闘が起きたそうだから。死人が出たかは定かではないが、そのように強硬手段を執らなければならないほど目に余ったようだった。また、頭自体はとても良かったグレンたちは比較的早くに下ったが、コーデリアは最後まで醜くあらがったそうだ。その場にいた兵士が顔をしかめるほどだったとか。
こうして、騒ぎの中心人物は社会的に抹殺されたのだが、その損失も大きかったのだろう。コーデリアはともかくとしてそのほかのものは能力は申し分なかったのだから。
まあ、残った次男だとか――今は嫡子扱いだな――も優秀だそうだからそこまでの心配はいらないか。
そうそう、陰の立て役者がいたとかでそれが廃嫡になった者の一人と婚約していた人だったとか。ただの噂だがな、信憑性はあると思うぞ。その令嬢はその後すぐかなりいい身分の方と婚約し直したようだし。
あと、おまけの話だが廃嫡された男たちは今更ながら後悔しておとなしくしているらしいが、女の方は醜聞沙汰を起こしたとか起こしていないだかだとか。反省なんかかけらもしていなかったみたいだ。はじめは恨み言をブツブツと永遠つぶやいていたそうだし。そのうち『病死』となるかもな。世話係も暇を出されたり、申し出たりする者が多いとかで、人が居着かないそうだよ。
全く恐ろしい話だよ。滑稽で面白くもあるけど。何しろこれは誰かが筋書きを書いて彼らはその通りに踊らされただけみたいだからねえ。
なんて顔をしているんだ。冗談だよ。だいたい全部が全部思惑通りに行くわけがないだろう、いくらその人物が優秀だからって。ただ、陰謀くさい話だからってどこかで尾ひれははひれがついたんだろうよ。
で、結局何が言いたかったかというと、今回は国家転覆ではなかったがある意味一つの『国』が滅んだわけだ。過去には実際色に現を抜かして斃された王や国もあるんだ。この国がどうなっているのかは知らないがな、気をつけておいた方がいいぞ、と言う話だ。
あれ、なんだか説教くさくなってしまった。まあ、何というかたった一人の女によって人生どころか数十年後の国の未来まで変わってしまった、ああおかしい、って話だ。ここまでくるとどこかの小説のような話だろう?
こんな話に付き合ってくれてありがとうな。面白かったか?そうでもない?……うーむ、はしょりすぎたか?期待に添えず悪かったね。まあ、また会ったらその時はよろしく頼むよ。今度こそ腹抱えて笑うような話を用意しておくからさ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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