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第5章―【2】夕食

 ボクの家は驚くほど大きくは無いけれど、そう小さくも無い。

 一階は半分がお店で、もう半分は茶の間と台所、風呂とトイレが在る。

 二階部分はお店の上も含むから、意外に広いかもしれない。

 ボクには兄の他に目立たないが姉がいる。

 三人がそれぞれ部屋を貰って、両親の部屋も在る。そして、婆ちゃんが来た時に泊まる和室も在るんだ。

 そんな二階のボクの部屋に、ユミをこっそり連れ込むのは意外に簡単だった。

「なんかちょっとワクワクするよね」

 声を潜めてユミが笑う。

「ご飯はどうする?」

 ユミは小さなリュックに手を突っ込むと

「菓子パン買ってきたから、大丈夫」

 準備がいい。

 ボクたちは陽が暮れるまで外をブラブラして、夕暮れ時になってから家の中に戻った。

 土曜の夕方には観たいテレビがある。

 でも、ユミを置いて一人で茶の間でテレビを観るわけにもいかないし、仕方ない。

 ボクはユミと自分の部屋にいることにした。

「ねぇ、これ何?」

 ユミがガンプラを指差す。

「知らないの?」

「どこかで見た事在る」

 女同士の姉妹は、さすがにロボットアニメなど観ないようだ。

「トモが造ったの?」

「そうさ。全塗装だぜ」

 彼女は「ふぅん」と唸るように頷いて、フル塗装されたガンプラを眺めていた。

 ボクは暇つぶしに、そのアニメの内容やうんちくを語って聞かせる。

 ユミはいかにも興味ありげにふんふんと頷いていた。

 彼女の聞きの上手さが、ボクに心地よさをもたらす。

 ……だから昔は何時も一緒だったのかな。

 久しぶりに長い時間彼女といても、ぜんぜん気が置けなくて、胸の中がほんのりと、ふわりと暖かい。



 夕飯の時間、ユミはボクの部屋でアラレちゃんの原作漫画を読んでいた。

 声を潜めて笑うのが大変だったらしい。


「ユミちゃんのお母さん、最近男の人連れてるって」

 味噌汁をすすりながら、母さんが言った。

 ボクはチラリと視線をくべて、直ぐにご飯を頬張る。

「トモ、何か知ってる? ユミちゃんところ、しばらくお父さんいないしさ」

「新しいお父さんが出来ても、おかしくないからな」

 母に応えるように、上着を脱いでランニング姿になった父さんが言う。

 ボクは再びご飯を頬張って

「知らない……」と一言。

 何も言いたくは無かった。

 その男がユミの身体を触ることとかはもちろん、新しい父親になるかどうかとか……。

 ……そんなの知らないよ。


 夕飯が終わると、ボクはプラモを造るからと、早々に茶の間を後にする。

 兄貴も何か自分の事で直ぐに部屋へ帰るから、ウチの場合はそれが自然なのだ。

 台所からバナナとリンゴとポテトチップスを持ち出して、ボクは階段を上がった。

 ユミはアラレちゃんの漫画を胸の上に置いたまま、スヤスヤと寝息をたてていた。

 ボクはまるで大人のように肩をすくめる。

 開け放たれた網戸からは、涼しげな夜風が入り込んでいた。

 ボクはそっと窓を閉めると、ベッドの上に腰掛けた。

 傍らには菓子パンの空き袋が二つふわりと転がっている。

 両親に適当なウソでもついて、ユミも一緒に食卓を囲めばよかった……。

 何だかボクは、悲壮感に苛まれる。

 別に彼女の寝顔が悲しみに満ちているわけでもないのに。


「あぁ、もうご飯終わったの?」

 ユミがぱちりと目を開けた。

 まるで催眠術から目覚めたように。

「うん」

 ボクは持って来たバナナを彼女に差し出す。

「うわ、ありがと」

 ユミはバナナを頬張り、艶のあるリンゴを齧った。

 隣の兄貴の部屋からは、何も聞こえない。きっとヘッドホンで音楽かラジオでも聴いているんだろう。

 ボクたちは二人でベッドに寄りかかり、声を潜めて他愛無い話しを続けた。

 会話の合間には、パリパリとポテトチップスを齧る音が響く。

「トモ、お風呂入ったら?」

 階下から母さんの声がした。

 末っ子のボクには、何時も最初に声がかかる。

 兄貴は何時も夜更かししているし、姉さんは何時の間にか入っている。

 ボクは部屋のドアを少し開けて

「後でいいよ。いま、忙しいから」

 土曜日という事もあり、催促の声はなかった。

「入ってくれば?」

 ユミが言う。

「うん……いいよ、別に」

 ボクは勉強机の椅子に腰掛ける。

「ユミは? お風呂どうする?」

「あたしこそいいよ。プチ家出の身だし」

 彼女はそう言って肩をすくめると、弱々しく笑った。

「じゃあ、夜中に入ればいいよ。みんなが寝てからさ」

 父さんは十一時には寝るし、母さんも十二時前には寝室へ行ってテレビを点けながら寝るから、その後なら平気だと思った。

「じゃあ、夜中に入ろうかな」

 ユミはボクを下から覗き込んで

「一緒に入る?」

 ドキッと心臓が高鳴る。

 顔が熱で犯された。

「そんな事できるか」

 ボクは顔を赤くして、ぶっきら棒に応えた。





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