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第九話 街を移動するけど特に何もない

 偽姫は捕まった。


 王族を名乗った罪は重い。

 王女ミトもかなり怒っていた。


「どうして楽をしようと思ったの!」

「すみません……」

「そんな太ももに落書きするだけで王族を名乗れると思わないで!」


「はい……」

「王族は楽に見えるかもしれないけど、大変なのよ! 例えば……色々大変なのよ!」


 言えなかった。


「すみません……」

「あ、思い出した! 紋章の位置が大変なのよ!」

「……はい?」


「人にそう簡単に見せられない位置にあるのよ! だから絶対に見せたくないのに!」

「…………」

「こいつらが無理やり見せさせるのよ! こいつがぁぁぁっ!」


 偽姫を叱ってるふりをして、シューケルにつけたしで襲いかかったが、あっさり避けられた。

 その涼しい表情が気に入らなかった。


「うがぁぁぁぁっ!」


 そのままデンプシーつけたしを繰り出すが、全て避けられた。


「あ、あのう……」

「あ、あんたはもういいわ! 二度としないなら、今回は許してあげるわ!」

「え……はい! ありがとうございました!」


 偽姫は頭を下げると、逃げるように去って行った。


「いいのかよ?」

「何がよ?」

「あいつ、犯罪者だぞ?」


「いいわよ、反省してたし、そこまで重い罪じゃないし!」

「いや、王族を名乗るのは、結構重罪だぞ?」

「そんなわけないでしょうが!」


「いや、マジだぞ?」

「何でよ!」


「もちろん、王族の威光ってのはある。それは絶対だ。だからこそ、罪が重いんだよ」

「私が偉いからって事?」


「そうだ。それに王族は基本的には何をやっても許されるものだからな」

「嘘ね。私はこの前おねしょしたら怒られたわ!」

「ああ、それは怒られるだろうな」


 ツッコミどころが多すぎるから、面倒で逆にツッコむのはやめた。

 もはや、その年でおねしょするな、というツッコミすらない。

 いや、だって、してそうだし。


「例えば王族が、こういう村に来て、『今日はこの家で寝たい』と言えば、その日一日その家の住人は出ていなかければならない。王族が言うんだからしょうがない」

「ひどい!」


「それどころか、王族がこいつ気に入らないと思ったら、そいつは処刑される」

「そんなひどい事!」

「そういうもんなんだよ、王族ってのはさ。だからさ、お前だってそういう教育受けてるだろ? 下手に人を嫌うな、嫌ってもそいつをどうにかしようとするなってさ」


「うん……あれ? 私が気に入らないって思ったら処刑されるのに、なんでシューケルは処刑されてないの?」

「国王陛下に気に入られているからな」

「うん……あれ?」


 よくわからなくなるミト。

 ぶっちゃけその気になれば、ミトはシューケルを処刑できるのだが、もちろんその気はないし、そうさせないように教育されてるから、そんなことをしようなんて今言われるまで考えたこともなかった。


「気に入らないっ! シューケルは気に入らない!」


 とりあえず、つけたしはするのだが。

 処刑は思いつかないがつけたしのハンドサインは欠かさない。


「でもさっきの子、逃げちゃったよ? どうしよう」

「まあ、しょうがねえな。あいつは無罪になったんだし」


「どうして?」

「言っただろ? 処刑されるのもそうだし、許されるのも、王族の一言なんだよ」




 昨日に続き今朝も王女騒ぎになったので、あまり長いことこの街にはいられないと、さっさと去ることにした三人。


「歩くのに飽きた」

「ふざけんな」


「飽きたものは飽きた」

「いいから歩け」


「疲れた」

「次の街までまだ遠いからわがまま言うな」


「つーかーれーたーーーーっ!」


 ミトはその場に寝転がり、大の字になった。


「うーごかーないーーーっ!」


 駄々っ子のように暴れるミト、十六歳、王女。


「いい加減にしろよ……カルク、お前も言ってくれ」

「そこに寝ていると、ここを通る盗賊や旅人、商人すら、さらってくれと言っているようなものです」


 カルクがまともなことを言い始めたので、シューケルも少し驚く。


「そして、漏れなく凌辱されますし、それをOKしたことになります。そして、まずシューケルが最初の相手になります」

「俺を巻き込むな!」


「シューケル……あなた……!」

「そんな目で俺を見るな! しねえよ! 誰が王族そんなことするかよ!」


「どうして、王族は駄目なのよ!?」

「対象として見ねえよ! 最初っから見ないように教育されてるんだよ!」

「見ろ!」


「命令なら見るが、それは襲うって事だぞ?」

「それはやだ」

「だったら見ねえよ」


「駄目! なんかこう、私の美しさに恋をしつつそれを心の中に押しと止めつつ、時々漏らす感じにして」

「そんな細かい事出来るかよ! しねえよ! お前は動物みたいなもんだ!」

「動物じゃない! 可愛い女の子!」


 寝転がっているミトはつけたしが出来ず立ち上がる。

 そして全て避けられる。


「立ったな? じゃあ行くか」

「行かない! おんぶ!」


 ミトは、シューケルに飛びかかって背中に背負われる。


「おい、降りろよ!」

「絶対に降りない! どんなことがあろうとも! お漏らししても!」

「漏らす前には降りろ! 絶対に降りろ!」


「絶対に降りない! どんなことがあろうとも!」

「おい、カルク、なんか言ってくれ!」

「姫様の胸と股間がシューケルに密着しております。これは痴女でしかありません」


 ミトは無言ですっと降りた。


「えいっ!」


 そして、そのままカルクに飛び乗った。


「痛っ!?」


 そして、背に背負っていた長剣に全身でぶつかった。


「これ退けて!」

「それは私の命なのです。退けることは難しいです」


「私が頼んでるのに!」

「姫様はお○んこを退けてと言われて退けますか?」


「無理だけど! え? そう言う事なの?」

「そう言う事です」


 堂々とそう宣言されると、何も言えない。

 退けてと言われても退けられないし、それを否定するほど長剣を知らないし。


 しょうがなく、乗るのを諦めた。

 しばらく黙って歩く。


「あれ? 私の疲れたは?」


 それをミトが思い出すまでは。

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