第七話 謝るのは誤り
「フライング目潰し!」
ミトはジャンプしてつけたしのハンドサインで、シューケルを攻撃するが、翼もないのに安易に飛ぶな、という格闘の鉄則は守られていない。
「ゆーるー、せーなー、いーよー、ゆーるー」
往年のアントニオさんのテーマを思い出しそうなテンポで、そう口にするが、そんなもん知らないシューケルは適当にスルーする。
「さっきからどうした?」
さすがの構って攻撃の猟奇さに面倒になってきたシューケル。
「シューケルは許さない! 許されない! 処刑確定!」
「まあ、落ち着け」
「これ以上落ち着いたら、シューケルを殺してしまう!」
なんだか、もの凄く興奮しているようだ。
しゅっしゅと、ハンドサインを繰り出す。
これ、相手が熟練の戦士だからいいけど、普通の人だったら、姫の腕力でも視力失わせられるからね?
「どうしたんだよ? 先んじて答えを言っておくと、お前の自業自得だからな?」
「さっきの店で最初から私のパンツ脱がせた! お店の人の鼻を穴に当てさせた!」
「ほら、自業自得だろ? 他の店にしろと言ったのにあの店を選んだのはお前、さっさと何とかしようと思ったのに払えとか言い出したのもお前だ」
「そんなの知らないっ! とにかく、シューケルは処刑! 嫌なら泣きながらさっきのお店の人にお尻の穴の匂いを嗅いで貰うこと!」
「嫌だよそんなもん。ていうか、逮捕されたからもういねえよ」
「はい確定! 処刑確定!」
シューケルも面倒癖えなあと思っているが、ミトの粘着にはもう慣れていた。
先ほどの店は、摘発したので、帰りは遅くなった。
その間、ミトはずっと怒ってた。
シューケルが何度説明しても、自分のせいだと納得しなかった。
まあ、別にほっといてもいい。
別に危害もないし、雇用の心配もない。
彼女がどれだけひどいことを言っても国王は信じないから。
とはいえ、ここまでしつこいとそろそろ面倒になる。
ていうか、それよりも、何で俺だけ? という思いがシューケルには強かった。
「トリプル目潰しっ!」
「三つも目なんてねえよ。なんで俺だけなんだよ? カルクだっていただろ? あいつが担いでたんだよ」
「カルクは……なんか、責めると変なことを言われるから、やだ」
分かる。
分かるが納得が行かない。
「……おい、カルクも一言言ってやれ」
ミトがうっとおしいので、シューケルはミトが嫌がることをしてやった、子供か。
「私は言葉攻めでは感じませんが、肉体攻めに言葉攻めを併用されるとより感じると思うのです」
「はい、そうだね、ごめんなさい」
さっきまで駄々をこねていたミトが、一瞬で納得した。
「けど、シューケルは許さない!」
納得していなかった。
超面倒くさい。
「あのな? 最初から整理するぞ?」
「整理しても許さない」
「まず、俺たちはどうして旅をしているんだ?」
「世直しをしたいから!」
「違うわ! お前が歩いて帰りたいとか言うからだろ」
「そんな気がしないでもない!」
「はっきり覚えとけ。で、この街に来て、俺たちがここにしようと決めたレストランを拒否してあそこに行ったのは誰だ?」
「忘れた!」
「お前だ! 忘れるな! お前だ!」
「風の噂でそうとも聞いた!」
「自分の目と耳と脳で覚えておけ! それで、あの店が犯罪を犯していると分かった時、俺たちを妨害したのは誰だ?」
「お店の人!」
「お前だぁぁっ!」
「そんなのはただの事実!」
「認めたな! 事実って認めたな? そうだよ、この件に関して言えば、お前が全面的に悪いんだよ!」
「そんな正論、聞きたくはないっ!」
「聞けよ! 責めるなら聞けよ!」
もう最終手段しかないのか?
ちなみに最終手段は無視。
構ってちゃんには一番効く。効きすぎて泣く。
「分かったわ。ここはお互い妥協しましょう」
「妥協? 何をだ?」
ちなみに、一方的に責められてるシューケル側は妥協すべき事はない。
「私も、まあ、悪いところが全くないって言えば嘘になるかなって思ってるから、そこは認めるわ」
「おお、まあ、もう、それでいいや」
本当は全面的にミトが悪いのだが、もう面倒なのでそれでいい。
「だから、さ、シューケルも妥協して、ね?」
「何をだよ?」
「私にしたこと、謝って? ごめんなさいって」
「はあ? 何でだよ!」
「だって! 私に恥ずかしいことさせた! 恥ずかしかった!」
うん、まあ、恥ずかしいであろう事は分かる。
「にしても、それはお前の自業自得だろ?」
「どうしてシューケルは妥協しないのよっ!?」
「いや、それは俺の妥協じゃねえだろ」
「謝れぇぇぇぇっ!」
ミトのハンドサイン。
確かにこれは面倒だ。
正直これ以上絡まれるのもうっとおしい。
「分かったよ、ごめんな? お前の尻穴、みんなに公開して」
「反省した? じゃあ、許す!」
にっこりと笑うミト。
一件落着、だが、どうにも納得がいかない。
何とかしてこいつを、自分のせいと思われないように泣きながら絶叫させられないかなあ、と、シューケルは思っていた。
そして、その機会は案外早く訪れた。