第三話 掲げられる紋
「なんか、こういう地味なのも可愛いわよね!」
くるん、と一回転する王女。
そこらで買った、街娘の服が気に入ったようだ。
「俺はこんな地味で防御もないのは駄目だ」
「えいっ!」
浮かれた王女が、シューケルの腹をパンする。
もちろんダメージはない。
「何をする?」
「防御出来ないって言ってたからチャンスだと思って!」
「ナイフとフォークと魔法杖しか持ったことのない腕力で俺に勝とうと思うな!」
「やっぱり目か! 目ね? 目! 目!」
王女はつけたしのハンドサインで構える。
何でこんなに好戦的なんだろうな?
王女マジ猟奇的。
ちなみに「つけたしのハンドサイン」って、人差し指一本立ててるやつね。
「ストライプフィンガー」でもいいよ。
地方によっては指二本の所もあるらしいけど、それでもいいよ。
「て言うか、なんだこの靴は?」
若干ハイになってる王女を、シューケルは適当にかわして、カルクが買ってきた靴に文句を付ける。
「それは旅人用の靴だ。長く歩くときに疲れにくいはずだ」
「そうか、分かった、それ以上言うな」
「シューケルのだけ、特別に、全裸にこれだけ履いていても光るデザインにしてある」
「だから、言うなって言ってるだろ!」
こうなることは分かっていたシューケルは、やっぱりこうなったことを嘆いた。
「なっちゃ駄目! なったら泣くからね? 私は一度泣いたらしつこいよ!?」
「知ってるしならねえよ」
「あと、目!」
「目はやめろ!」
なってもないのに、つけたしのハンドサインで襲いかかってくる王女。
そんな彼らの日常的なやりとりの最中、街道脇から数人の男が出て来て、彼らを取り囲む。
「なんだ、こいつら?」
「ま、強盗でしょう、もしくは私と殿下の身体目当てのレイプ集団か」
「両方だ!」
両方なんだ。
「男は身ぐるみを置いていけ!」
「早速靴だけになる時が来たな?」
「いや、靴も脱げって言われると思うぞ?」
「さっさとしろ!」
「脱いだら目!」
王女がつけたしのハンドサイン。
「いや、脱がないけどさ」
「だったら殺すしかねえな!」
「やってみろ」
「ああ、やってやるさ!」
盗賊がナイフを構える。
「………………?」
かかってくるのを待っているが、一向にかかって来ない。
「やってやるぞ! 行くからな!」
「おお……来い?」
それでも来る様子はない。
何だか、少し慌てている様子だ。
「来ないなら俺から行くぞ?」
「ちょっと待て! 今行く! 今行くから待ってろ! 行くからな? 行くぞ?」
「…………おう」
盗賊はシューケルと言うよりもその後ろのどこかに向かって叫んでいるように思える。
「いーくー──」
「待つんだ!」
盗賊が間抜けな声を上げていると、逆方向から稟、とした声が響く。
そこには、なんか武装した数人の男がいた。
「くっ! またお前らか!」
「俺たちは悪党を許さない正義の味方! この人たちを離せ!」
いや、捕まってもないんだけど。
「おい、お前らやっちまえ!」
「おう!」
「勝負だ!」
「くっ、こいつ強え!」
「覚えていやがれ!」
なんだか、剣を二、三回交わしただけで逃げて行った盗賊たち。
「なんだ?」
「危ないところだったね、君たち」
助けに来たっぽい男達が彼らに話しかけてきた。
「我々は正義の味方のマチポングという集団だ」
「我々は常に活動資金が不足している」
「ぜひとも全財産を我々に寄付を!」
マチポングと名乗る集団は、なんか寄付を求めてきた。
「なんて素晴らしい集団!。シューケル、さっそく全財産の寄付をするわよ!」
「お前が全財産寄付したら国がなくなるわ!」
まんまと騙されている王女。
「ま、こんな茶番で騙されるのはお前くらいだろうな」
「私は騙されないことで有名!」
王女の根拠のない自信はすげえ。
「さあ! 全財産を!」
「うん! シューケル!」
「アホか」
「ちょっと賢い目!」
「せめて有り金全部でもいいんだ」
「それならいいんじゃない?」
「こんな茶番に付き合う必要はねえって言ってんだよ」
ため息交じりでシューケルが答える。
「いいから身包み置いていけ」
「助けてやったんだから、それくらいすべきだろう!」
思う通りに行かないのでイライラ来たのかマチポングの数人の言葉が荒れ始めた。
「いや、俺ら、別にお前らの助けなくてもあいつら程度なら倒せたけどな」
「全く構えがなっていませんでしたからね。私の身体を満足させられたとも思えません」
「え? どういうこと?」
「こいつら、さっきのやつらと組んでるただの強盗だよ」
「え!? 本当?」
「そ、そんなことはない!」
「我々は正義の集団マチポング! 善意のみで生きている!」
善意のみで生きてる人間はそんなことを言わない。
「え? え?」
「いいから金置いてけ!」
「カルク、もういいだろ?」
「まあいいでしょう、殿下も欲求不満を解消されそうですし」
「身ぐるみを置いていけ!」
「控えろ下賤の民が」
シューケルは態度を一変させて王女の前に立つ。
「この方をどなただと思っている。その高貴はおまんこは白馬の王子しか見られないのだぞ?」
「……いや、お前ちょっと黙ってて?」
カルクの言葉に、カルク以外が全員引く。
「えー……俺が続けるよ?」
シューケルが言って全員が同意する。
「この方はツクーニ王国第一王女、ミト・ミ・ツクーニ殿下にあらせられる!」
「頭が高い! 亀頭だけを高めろ!」
「いや、だから、お前は喋んな!」
シューケルとカルクのやり取りを呆然と見ている盗賊のみなさん。
「えーっと……みんな動かないよ?」
「控えろ!」
「いや……俺たちが言うのもなんだが、そこまで大胆な嘘はさすがに引くよな……」
「嘘じゃないもん!」
「さすがに……なあ?」
盗賊たちは苦笑する。
「まあ、さ、全額とは言わないから、半額くらいでいいよ、それでもう帰りな、な?」
「な、なんか、同情されてない? ねえ、本当に私、王女なんだけど!」
「いや、もういいから、さ」
「どうしよう、シューケル! みんな信じてくれない!」
「だろうな? やっぱり、紋章を見せるしかないんじゃないか?」
「それはやだ!」
「我儘を言っている場合ではありません。さあ、皆さんにごらんいただくのです」
「カルク!? きゃっ!」
カルクはひょい、と王女の腰を抱えて持ち上げる。
「シューケル」
「俺か!?」
「私は手がふさがっている、あなたがやりなさい」
「しょうがねえなあ、姫様悪いな?」
「え? ちょっと! やめて、やめてったら!」
王女は暴れるが、近衛二人の力には全く敵わない。
スカートをまくり上げられ、パンツを下ろされた。
「ちょ……本気でやめてぇぇぇっ!」
くいっ
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
シューケルが王女のお尻を開くと、そこには──。
「この紋章──」
「この美しい菊紋が目に入らないか!」
「だからお前は黙ってろ!」
拡げられた王女の穴。
そこには地の精霊の祝福の紋章が刻まれていた。
「な……これは……!」
盗賊たちが王女のお尻のそばに寄りまじまじと穴を凝視する。
「やめてぇぇぇぇぇっ! 見ないでぇぇぇぇぇっ!」
「これは……王族の紋章!」
そのうちの何人かが、王の紋章に気づく。
それ以外は一心不乱に穴を見ていた。
「分かったか、これが殿下が王族である証拠! 者共、控えよ!」
「は……ははぁぁぁぁぁぁっ!」
盗賊たちは一斉にひれ伏した。
王女の尻の穴を掲げられて、ひれ伏した。
王女は、もうお嫁にいけないことを覚悟したという。