バレンタイン惨劇記
「来週はバレンタインか…」
少女はそう呟いた。少女の名前は高田美香といった。
突然だが彼女には好きな人がいた、その男の名前は遊佐獅子。成績優秀、スポーツ万能、さらに容姿端麗という『お前二次元から飛び出してきたんじゃね?』という程のハイスペック男子なのである。
当然彼を狙う女子は少なくはない、美香も可愛くはあるのだが如何しても勝てない相手がいる。その相手は3人。
1人目は、同級生の松山南。陸上部に所属しており、スポーツ万能で容姿も整っている。髪は耳元で切り揃えられており、健康的に焼けた肌が眩しいスポーツ女子だ。更に面倒見が良く。その爽やかな性格は先輩後輩男女問わずに人気であり、一部熱狂的なファンからは「お姉様」と呼ばれ崇められている。
2人目は、先輩の鳳凰寺花蓮。彼女は生徒会に所属しており、美香の通う高校の生徒会長を務めていた。さらに実家は有名な財閥である【鳳凰寺財閥】、正真正銘の御令嬢である。さらに彼女は容姿も整っており、腰まで伸ばした艶やかなストレートの黒髪はとても美しく女性すらも魅了する。
しかし、彼女の人気はそれだけではない。特に男性陣から人気なのは…そう、彼女のとても豊かな双丘である。まず間違いなく美香にはないものであった。
最後の1人は、後輩の佐倉有美。彼女を一言で言い表すのであれば、童話のお姫様という言葉がしっくりくるであろう。彼女はハーフであり、母親譲りの金色の髪は肩の辺りまで伸びており艶やかである。青の瞳はくりくりと可愛らしく、小さな身体は男性の庇護欲をそそるものがあった。
このような3人がたった1人の男、遊佐獅子を狙っているのだ。並大抵の女子は皆遠慮して寄ってこないのだ。しかし、美香はチョコレートを渡すつもりである。
ちなみに美香の容姿は、髪は明るい茶色の少し癖の入ったショートで身長は150cm程。太ってもおらず痩せすぎてもいないという平々凡々なスタイルで、そこそこ可愛らしいという評価を受けるであろう。
しかしいくらそこそこ可愛らしい容姿とはいえ、普通の女子はそのようなライバルがいるのにそのようなことをしようとは思わないだろう。
しかし、美香は違った。なぜなら彼女は普通の人より頭のネジが吹き飛んでいたからである。
そんな彼女が導き出した解は__
「そうだ、3人を殺せば私だけを見てもらえるじゃん」
実にぶっ飛んだ解だった。
★★★★★★★
「本当にごめんね。松山さん」
「なに、気にすることはないさ!クラスメイトの頼みとなれば断ることもできまい」
そう言って笑う彼女の名前は松山ミナ。坂下高校三大女神と呼ばれる美少女の1人である。その彼女は今廃墟というとてもじゃないが似合わないようなところで美香と一緒に探し物をしていた。
「しかし本当にここにあるのかい?君の探し物…なんだっけ?ストラップだっけ?」
「う、うん。そうよ」
嘘である。美香が彼女を呼び出した理由は簡単である、この人目につかない場所で彼女を殺すためである。右の太腿に忍ばせているそれの感触を確かめて美香はゴクリと唾を飲む。いくら頭のネジが全て吹き飛んで海鼠で止めていると言われても過言ではないような頭のおかしさを誇る美香でも、人を殺すとなると緊張はするのだ。
そして、その瞬間は訪れた。
「最後はこの部屋か…なあ、高田さん…ぐあっ!」
そう言ったミナの頭を太腿に忍ばせておいた警棒で後ろから殴りつける。すると、ミナは大した抵抗もなく気絶する。
そして、美香は気絶したミナを部屋の中へと引き摺り込むのであった。
◆◆◆◆◆◆◆
数十分後
「う、うぅ…!あっ、ん?ここは、どこ?って!なにこれ!?」
ミナが目を覚ますと、何か違和感を感じる。見てみると両手を鎖で縛られているのであった。
すると扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてくる、それと共に部屋に入ってくる者がいた。
「あら?松山さん起きたんだ〜」
「高田さん!?なんで、どうしてこんなことを…!」
一瞬助けを求めようとしたが、この部屋に入る前にされた行為を思い出し。なぜこのようなことをしたのかと問う。
しかし、眼前の少女はただ笑うだけで答えない。
「なにが目的なんだ!」
「目的ね〜。簡単に言うと、あなたを殺すことかな」
ミナはなにを言っているのか一瞬理解できず、理解した時に激しい怒りがこみ上げてくるのと同時に疑問も浮かんできた。
「それならば、キーホルダーを探して欲しいというのは嘘だったのか!?」
「当たり前じゃん、なに言ってるの?馬鹿なの?死ぬの?ああ、死ぬんだったね〜」
そう言うと美香はケラケラと楽しそうに笑う。
しかし次の瞬間にはその顔から表情がすっと抜け落ちる。ミナはそんな美香に恐ろしいものを感じ、慌てて逃げようと鎖をガチャガチャと動かす。
「外れろっ…!外れろっ…!外れろっ!」
「外したいなら手伝ってあげるよ」
なぜか近くで声が聞こえる甘て手前を向くと目の前に美香の顔があった、その距離はまさにキス直前というくらいの距離である。
美香は無表情のまま更にもう一度言った。
「手伝ってあげるよ、外すんでしょ?こんな風に、ね!」
「あぁああああああ!」
絶叫。ミナが左腕を見るとその左腕の関節は曲がってはならない方向に曲がっていた。美香がミナの左腕の関節を棒アイスの要領でぽっきんしたのだった。
煩そうに美香が顔を顰めながら言う。
「うるさい、これでも咥えてて」
「むが!?ん、んんんー!!!」
そう言って美香が咥えさせたのは美香の足元に置いてあったバケツから取り出した汚いボロ雑巾だった。しかし、一つだけ普通とは違う点があった。その雑巾は非常に臭いのだった。
「さて、問題です。その雑巾にはなにを吸わせているでしょうか!ヒントは火をつけるとよく燃えま〜す♪」
「!!!!!」
「残念!時間切でーす。罰としてあなたの命をもらいます!」
そう言って美香は怯えて固まっているミナに更にバケツの中の液体を追加でを掛けるとポケットからマッチを取り出してこう言った。
「それじゃあさようなら」
そう言ってマッチを擦ってミナに投げる。すると、一気にミナは火達磨になる。ミナの身体が仰け反り逃げようとするが、鎖がそれを許さない。肉が焼ける嫌な臭いと灯油の臭いが混ざり合い、流石の美香も吐いてしまった。
しかしその表情に悲しみや、後悔、怯えは浮かんでおらず。むしろ、狂気的なまでの笑みを浮かべているのであった。
そして、しばらくするとミナだったものも動かなくなる。
そして、美香は1人こう呟いた。
「まずは、1人」
◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日、美香の通う坂下高校。通称坂高は朝からずっとある話題で持ちきりだった。昨夜、近くの廃墟で火事が起こり。更にその廃墟の中から遺体が見つかったという話である。その被害者が2年生の陸上部松山南であるという噂が流れていて、学校全体が落ち着かない雰囲気だった。
勿論それは美香のクラスも例外ではなく朝からずっとその話題がひそひそと囁かれていた。
美香がチラリと獅子を見ると、友人であろう男子生徒にその話を聞いて心配そうな表情をしているのを見て美香は死んだ人間であるミナに対して嫉妬の感情を覚えた。
(でも、もうあの子は死んだんだから関係ないか)
美香はそう考え少しだけ心がすっきりとした所でチャイムが鳴る。すると担任の加藤洋司が入ってきて、まだ騒がしいクラスメイトたちに注意をすると皆おとなしく席に座る。しかし、その身に待とう雰囲気は加藤が次に発するであろう連絡事項への好奇心を隠しきれずにいた。
「えー、今日松山さんは風邪でお休みとのことです。それと、近所の廃墟で火事があったそうだが絶対に近づかないように。以上」
勿論ミナが風邪で休みだというのは嘘である。流石に学校側としても生徒の死は易々と流せる情報ではなかったのだろう。皆それがわかっているようでひそひそと話し合っている。しかし加藤の「静かにしろ」の一言で皆黙る。
そうして、浮ついた雰囲気のまま1日が始まったのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
「ええ、お疲れ様。気をつけて帰ってね」
パタン、という扉が閉じる音がすると女子生徒は「ふー」と息を吐いて作業を続ける。
女子生徒の名は鳳凰寺花蓮といって、この学校の生徒会長であった。長いストレートの黒髪に整った顔、物腰柔らかな態度。さらに凶器とも言えるほどの胸により、坂下高校三大女神と呼ばれていた。
そんな彼女は今、先生に頼まれた資料の整理を行っていた。
「ふう、さてこんなものでいいでしょう」
チラリと花蓮が腕時計を見ると時計の針は8を指していた。
「もうこんな時間なのね。…先生には悪いのですが明日にしましょう」
そう言うと花蓮は部屋の電気を消して帰路につくのであった。自分に明日がこないなどと思わずに。
◆◆◆◆◆◆
花蓮はいつもと同じように電車を駅で待つ、なぜか今日は人が少ないようで駅内は閑散としていた。今日は座れるかもしれない、そう考えて少し嬉しくなる花蓮。そしてふと来週に迫ったバレンタインのことを思い出す。それと同時に、彼女の想い人である、レオのことを思い出すと顔が熱くなるのがわかった。
(そうですね、来週のチョコレートを作らなきゃいけませんね。うふふ、レオ君喜んでくれるといいですね)
クスリと笑うと電車が来るようで
『危ないので黄色い線の内側でお待ちください』
そんなアナウンスが駅に流れる。そうして、視界の端に電車を捉えた時に花蓮は唐突に背中を押されホームから落ちてしまう。世界がゆっくりと動いている、その中で最後に花蓮が見たのはフードを目深に被ったコートの人物のニヤリとした笑みだった。
べちゃり、そんな音がして隣の壁や自分の服に何かしらの肉片がつく。一瞬の静寂の後、ホームの上はパニックに変わる。そんな中煩わしそうにフードの人物、美香は服についた肉片を摘むと口の中に入れてくちゃりと噛む。そしてニヤリと笑ってこう呟いた。
「2人目」
そして、騒がしい駅からさっさと出て行くのであった。
◆◆◆◆◆◆◆
「はぁ…っ!はぁ…っ!」
夜の街に革靴の音が響く。少女は逃げていた、逃げている少女の名は佐倉有美といった。低身長で金髪、まさに童話のお姫様という出で立ちの少女の姿は今は見る影もない。額から血を流し、服は破れ泥と血液で汚れていた。
なぜこのようなことになったのかと、有美は思い返す。
その日は久しぶりに学校に登校したのだった。なぜ久しぶりだったのかというと続けて生徒が2名も殺されたため、緊急で休校となったのである。そして、しばらくの間動きがなかったためようやく登校できた、というわけである。
その日有美はスーパーへチョコレートを買いに行っていた。明日のバレンタインで憧れにして最愛の遊佐先輩にチョコレートを渡すためである。
そして、その帰り道いつも通っている人通りの少ない路地裏に入ったところで足元に落ちた小銭を拾おうとして突然背後から殴られたのである。運がいいことにたまたましゃがんだおかげでクリティカルヒットは免れたものを頭を切ってしまった。そして、後ろも振り向かずに走り続けたのである。
それからどのくらいこうして走っているのだろうか、そう考えていると。ついに有美の疲労も頂点に達したのだろう。転んでしまい膝を擦りむいてしまう。
「うぅっ…痛いよぉ…」
痛む身体を無理やり起こしすぐそばの空き地に置いてある角材の横に身を隠す。
(なんで!なんでこんな目に…!)
その時コツン、コツンと革靴の音が聞こえ、それと同時になにか硬いものを引きずるからんからんという音も聞こえてくる。そして、場に不釣り合いな明るい口調の女のこえが聞こえてくる。
「あれ〜?どこに隠れたのかな〜?」
そう言うと女は空き地に入ってきたようでからんからんという音が聞こえる、そしてある一点。つまり、有美が隠れている角材の前である。
「うふふ、さてお姫様鬼ごっこの時間は終わりです、よ!」
がらがらがら、と音がして角材が倒される。しかし、それは有美の横に置いてあった角材であった。
「あれ?おっかしーな〜、ここに隠れてないならどこに行ったのかな〜?」
そう言うとからんからんという音は段々と遠ざかっていく。
(はぁ…よかった…!助かったんだ…!)
そう思い、一刻も早く家に帰ろうと有美は角材の影から飛び出すとそこにはニヤリと笑っている美香が立っていて、手に持っている鉄パイプを地面についていた。
「え…?なん、なんで!?あ、あなた帰ったはずじゃ…」
有美が震える声でそう尋ねると美香は笑い始める。
「あはははは!最近のスピーカーってすごいよね!こんなに小さいのに音が元の音源より大きくなるなんて!」
そう言って美香がスマートフォンを操作すると、先ほど安堵を覚えた『からんからん』という音が遠ざかっていく音が聞こえてくる。
「録音だったんだ、それじゃばいばい」
美香はそう言って鉄パイプを振り下ろした。呆然としていた有美は当然避けられずとてつもない衝撃で意識を刈り取られ永遠に目覚めることはなかった。
◆◆◆◆◆◆
ばきっ、べちゃっ、ぐちゃっ。生々しいなにか湿ったものが砕ける音が聞こえる。その音を発しているのは佐倉有美だったものである。
「あはっ、あははっ、あははははっ」
笑う。この猟奇的な場に似合わない明るい声色で、少女は笑う、狂ったように。そして、殴る、殴る、殴る、何度も、何度も何度も執拗に殴り続ける殴っている有美だったものはもうすでに原型をとどめていない。頭は割れ、脳漿を散らし、目玉は飛び出しひしゃげている。
それでも少女、高田美香は殴る手を止めない。それは最早殴るというよりも挽肉を棒で練っているというような様だったが、美香は続ける、その顔を狂気と返り血に染めながら。
「あはっ!あはっ!あははっ!あはははははっ!終わった!間に合った!あはっ!あははははははははっ!!」
美香は笑う、敵は片付けた、これで彼は私の物だ!
美香の狂った笑い声が夜の街に響いていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌朝、美香はいつものように学校に行く準備をして出かける。その手に綺麗に包装された小さな箱を持って。
「おはよう、レオ君」
「あ、ああ…おはよう、高田さん」
美香が笑顔で挨拶をすると、少年は気の抜けた挨拶を返す。
少年の名は遊佐獅子といった。文武両道、聖人君子、超絶イケメンの三拍子を揃えた男子高校生である。しかし、その顔は今悲しみに染まっていた。何故ならば彼を慕ってくれていた女性が3人とも何者かによって殺されてしまったからである。
そんなレオに対して美香は手に持っていた小さな箱を手渡しながら言う。
「甘いものでも食べて元気出して。はい、バレンタインチョコ」
「…ごめん、ありがとう。高田さん」
そう言って受け取った箱の包装を開けたレオは「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。そして、手に持っていた箱を落としてしまう。
「あら〜?ダメだよー、食べ物を粗末にしちゃ」
「な、なあ、高田さん。コレなに?」
レオは箱を指差す、その中にあったものは赤黒い塊と赤褐色の布だった。
そんなレオの問いかけに対し美香はニヤリと笑っていった。
「ハッピーバレンタイン」