決心
「分かった。協力する」
本気には本気で返そう。
「本当ですか⁈」
「ああ。途中で投げ出さないことを約束する」
リリーはほっとしたのか、体から力が抜けていくのが分かった。
「よかったです」
まだ、事の全てを把握したわけではないが、心は決まった。やってやろうじゃないか。
「じゃあ、早速行きましょう」
「ん?行くって、どこに?」
「もちろん、妖精界です」
「は?」
思考が一瞬止まる。
「い、いやいや、ちょっと待て。いきなりすぎるんじゃ…」
「さ、行きましょう」
こいつ、人の話聞く気ねえな。ってか、行くっつってもどうやって行くんだ?まさか、次元を飛び越えるワープてきな?
「ワープ!」
俺が思った通りの言葉を発したリリーの前に、黒い渦が現れた。
「さ、入ってください」
「おい、だからちょっと待てって。まだ、その、心の準備が…」
さっき心は決まったはずだが、さすがにこれは急すぎる。ここは、少し時間をおいて…
「そんな時間、ないんです!」
リリーが声を荒げる。どうやら待ってる余裕はないらしい。
「隼人様の気持ちも分かります。けど、こうしてる間にも悪魔は……」
「行こう」
「え?」
涙目のリリーが目を丸くしてこっちを向く。
「この渦の中に入ればいいんだな?」
「はい!」
渦の前に立つ。かなり不気味だ。だが、語り継がれるであろう、俺の伝説の一歩目としてはちょうどいい。そう、これから俺は、妖精を、そして人類を救った男になるのだ。
「待ってろよ、悪魔どもめ」
そうして、一歩目を踏み出そうとした俺の頭の中に、ふと疑問が生まれた。妖精界に行ったらここの生活はどうなるんだ?行方不明者になるのか?また、この場所に帰ってこれるんだよな?……
「行きましょー!」
そんな疑問を吹き飛ばすように、リリーは俺の背中を押してくる。
「わ、ちょっ、あああああああああ!」
かっこわるい一歩目となった。
「へぶっ」
頭から落ちた俺は、そのまま地面に倒れこむ。少し目が回っている。気持ちが悪い。
辺りを見渡すとそこは、アニメで見るような異世界の雰囲気となんら変わりはなかった。
「大丈夫ですか⁈」
リリーが飛んでくる。よほど心配なのか、少し目がうるうるしている。どんだけ泣き虫なんだこいつは。
「ああ、なんとか。ここが妖精界…か?」
「はい!どうですか?いいところでしょう!」
そんなこと急に言われても困る。まだ来て1分も経ってないぞ。そこで俺はあることに気づく。
「なあ、おい。妖精ってここに住んでるのか?」
周りの建物を見ると、どれも人間に合わせたかのような大きさで、妖精が住むには大きすぎる。というか、周りに全く妖精がいないんだが。
「それは、ここが人間エリアだからです」
「人間エリア?」
「はい、今回、隼人様のような魔力を持った方々をお招きするにあたって、生活しやすいようにみんなで作りました!」
リリーはそう言って胸を張る。そいつは気がきくな。どうやら妖精にも良心があるらしい。
「………ん?生活?」
今一瞬スルーするところだったが、よく考えてみるとおかしい。生活ということはまさか…
「そうです。隼人様にはここで生活していただきます」
「な、んだと…」
やはり、来る前に確認しておくべきだった。このまま帰れないとなってはまずい。まずすぎる。
いや、いっそ考え方を変えて、あの面倒くさい学校から解放された。これから楽しい生活が待っているかも、と考えれば…
いやいや、だめだ。逃げるな隼人。正気を保つんだ隼人。とにかく今はこいつに聞いてみないと。
「なあ、帰らしてくれるんだよな?さすがにずっとここにいるのは家族にも心配かけるし…」
「そのことなら問題ありません。ここにいる間は、人間界での時間は止まっていることになりますので」
そいつはすごい。って待てよ。時間が止まってるってなんだ?それっていろいろと矛盾が生じるんじゃないのか?
「あり得なくないか?それ」
「いえ、そんなことありませんよ。今人間界には、大規模な凍結魔法を使っているので」
「は?」
二度目の思考停止。こいつは何を言っているんだろうか。理解不能である。
「凍結魔法?」
「はい、なので隼人様が人間界に戻っても、来たときのままなので心配ありません」
いやいや、心配おおありだろ。今ごろ地球はどうなって……
「そんなことより、行きましょう」
「そんなことって、おまえなー。って、行くってどこに?」
「王様のところです」
そう言ってリリーは、羽を羽ばたかせて飛んでいった。
「はー、ったく」
ため息をつき、俺は妖精のあとを追った。