妖精の心
「ハァ、ハァ」
さすがに疲れた。こんなに全力で走ったのは久しぶりだ。
俺は、公園の壁を吹っ飛ばしたあと、周りの家から人がどんどん出てきたため、全力で家まで戻ってきた。
「どうなってんだよ…」
エクスプロージョン。その言葉を発したあと、確かに壁は吹っ飛んだ。けれど、未だに信じられない。これは現実か?夢でも見てるんじゃないのか?
「あのー、信じていただけましたか?」
「あ?」
「いやいや、あ?じゃないですよ。魔法ですよ、魔法」
「あー、あれはどうやったんだ?手品にしては派手すぎだが」
「手品なんかじゃないですよ。魔法です」
妖精は魔法といって引かない。まさか、本当に…。
「隼人様が証明するように言ったんじゃないですか。だから、その通り証明したんです」
フフフー、と自慢げに胸を張る妖精。これは、本当に…。
「なぁ、……俺って、魔法を使えるのか?」
「はい、実際に使えたでしょう?それでもまだ信じられないなら、もう一度やりますか?」
「いやいやいや、あんな爆発を2回も起こすのは…」
「じゃあ、ほかの魔法を使ってみますか?」
は?ほかの魔法?まさか、あの爆発以外にも俺は魔法を使えるとでも?
「そうですねー…、これはいかがでしょう?」
といって、妖精はまた、あの魔法書を俺に渡してくる。
「リードマインド?」
「はい、ほかの人の考えてることが、分かるようになるんです」
マジか。そんなことができたら、もう人生苦労しないんじゃね?ってか、これができるなら壁を吹っ飛ばす必要なかったんじゃ…
「さ、やってみてくださいっ」
俺は、妖精に言われるがままやってみる。
「リードマインド」
……ん?何も起きな……
『隼人様、聞こえますか?』
「んあっ」
突然頭の中で声がした。なんだか、普段声を聞くのとは違う。
「今、お前が…?」
「はい、届いたでしょう?私の声」
確かに声は聞こえた。だがまだ信じられない。
「もう1回やってみてくれ」
俺は妖精の口を凝視する。本当に心を読みとっているのだとしたら、口は動かないはずだ。
『どうです?聞こえますか?」
「……」
俺は言葉を失った。妖精の口は全く動いていなかった。つまり本当に、妖精の考えていることが分かったのだ。これはもう本当に…。
「俺は……、俺は……」
今まで馬鹿にしてきた妖精の方を見る。そう、こいつは、今、俺の目の前にいるのは妖精。今までこんなこと信じてこなかった。ありえないと思っていた。けど、これは現実。夢なんかじゃない。俺は、本当に…。
「魔法を……使える……」
「そうです!そうなんです!使えるんですよ!」
妖精は笑顔でそう言う。
「やっと信じていただけましたか。よかったです」
これはすごいぞ。この世に魔法は存在する。そして、俺はその魔法を使える。この妖精は最初から嘘なんて言ってなかった。ただ俺が信じなかっただけ。
悪いことをしたな、と思う。さんざん無視した挙句、話を一向に信じようとしなかった。ここは、一言謝っておくべきか…
『はー、よかった』
ん?今、何か聞こえ…。
『本当によかった」
「何がよかったんだ?」
今のはリリーの心の声。まだ魔法は継続されていたのか。
「え?……あ、いや、別に……」
妖精の動きが止まる。完全に固まっている。
「今、声が聞こえたんだよ。リードマインドだ」
「あ、あー、そうなんですか、声が。……いや、わたしじゃないですよ。わたしじゃないんです。わたしじゃ……」
目が泳ぎまくっている。
「そうだ、隣の家の人の心を読んでしまったんですよ。そうです。そうです」
「そうか、おまえじゃなかったのか。なんだ、勘違いしちまったよ」
「もー、隼人様ったらー。驚かさないでくださいよー」
どうやらこいつは、嘘をつき続けるつもりらしい。何がよかったのかは気になるが、これ以上聞くのはやめておこう。
「ごめん、ごめん」
そう言うと、リリーはほっとしたのか、安堵のため息をついた。