3 偉業を成し遂げた男の墓
人の一生は、重荷を負うて遠き道をゆくがごとし。急ぐべからず。
――――――徳川家康
「今回、私たちは東京調査部の研究グループと一緒に日光へ! お目当ては、家康くん、そして私たちのご先祖様のお墓参りでーす! なんとアリスと平香も加わっています!」
一人の女性がハンディカメラを片手に、まるで紀行番組のナレーションのように独り言を楽しく言ってカメラを回していた。彼女の名は結城秀美。胸が少し大きく、可愛い同い年ではあるが男勝り。こう見えても彼女は柔道十段を取得するパワフル。赤に近い茶髪で八重歯が彼女のチャームポイントだ。
「おいおい、カメラなんか回してないでお前も手伝え」
「なによ、せっかく学校の研究教材のために来たのに」
「俺たちの目的はご先祖様のご挨拶だ。お前も俺と同じご先祖様だろ? そんなことより、これは俺達を題材にした研究テーマだ。 とりあえず、そういう馬鹿げたレポートは何を書いても意味は残らないぞ。第一ゴールデンウィークの宿題はこれかよって言いたいぐらいだ」
「私も本当は宿題嫌だけど・・・」
秀美はムッとした顔をしてビデオカメラをしまい、東照宮の陽明門を通過した。
「お待ちしていました」
目線の先に一人の神主さんが陽明門の前で立って家康たちを挨拶した。
「本当に俺は、あの家康の先祖なのか?」
「あなたの父がよく言っていましたよ」
家康たちはムッとした顔で神主の話を聞いた。
「なるへそ。で、その末代なのが、俺ということか」
「そうなのです。では、ご案内いたしましょう」
「よし来た!」
「ワクワクするね!」
やけにテンションが高い秀美とアリス。特にアリスは日本文化に精通し、この東照宮のことをよく知っているものの、来るのは初めてで、現物を見るのがそれなりにウキウキしている気分だった。
「秀美とアリスはいつもあのテンション。大丈夫なのかな?」
奥宮の続く階段で、
「いてて、ちょっと待ってよ」
秀美の足が止まった。
「だから言わんこっちゃない」
「こういって私は、運動が得意ほうだよ」
秀美は反論した。
「ほら見ろ、階段の先に『人の一生は、重荷を負うて遠き道をゆくがごとし。急ぐべからず。』と書いてあるぞ。だからどんな時も急いではダメだということなんだからさあ」
「別に、私は急いでなんかないし」
「あれ、アリスと平香は?」
後ろを向くとずっと後ろにいた。
「まだあんなとこか・・・」
七人全員が階段を登ったところで、いよいよ家康公のお墓のおでましである。
「これがお墓か、俺のご先祖様の・・・」
「家康公は江戸、今の東京を作り出し、また海外貿易も大切になさったんですよ」
家康はただお墓を眺めていた。
ところで、そもそも彼が徳川家康と名付けたのは、無数にある代々徳川家の血を通ってある中の一人に過ぎないのだ。無論、その血は彼以外にも通っている。いわば家康二世であることを彼には認識していない。
続いて来たのは輪王寺。ここでも秀美はカメラを回していた。とっさに彼女は「輪王寺と言えば、正月の定番CMを思い出すな」と口を出すが、家康は無視していた。
「もう、せっかく楽しくいこうとおもったのに」
家康は、家光が眠る大猷院の前に立っていた。