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ブレイブ・ファンタジー・オンライン 〜ゲームの世界に最弱職の女性冒険者として転移しました〜

作者: 星川佑太郎

薄暗い部屋の中ではパソコンの画面の光のみが部屋を照らし、カタカタとキーボードを叩く音だけが響いていた。

不意に、部屋の主が口を開く。


「あぁ……死ぬ死ぬ。おい、早くスイッチしろよ……あ、死んだ」


一人の男だ。年の頃は二十歳程度で中肉中背。顔の造形は可もなく不可もなくと言ったところか。

バサバサと長い髪を短く切り、無精髭を綺麗に剃ったらもっと見てくれも良くなるだろう。

男はマウスを放り出し、実に一週間ぶりにパソコンのスイッチを切り、画面を落とした。


「あー、もうどうでもいいや……。あぁ……眠い……寝よ」


男はゴソゴソと布団に潜り込む。

この男が自主的に睡眠をとろうとするのは実に数ヶ月ぶりのことだった。


---


目が覚めた。

目が覚めると同時に俺はすぐにパソコンのスイッチを入れる。

こうしなければ落ち着かないのだ。

パソコンが立ち上がるまでの間に俺はぼーっと布団に座り込んで意識をゆっくりと覚醒させる。

昨日は久方振りに寝落ちではなく普通に布団で眠った。

体の関節のあちこちが痛むが、普段よりも体調が良い。

俺はグーッと伸びをしながらパソコンの画面が立ち上がるのを待つ。

そして、パソコンが使えるようになったらすぐにいつものネトゲの画面までレッツゴーだ。


ブレイブ・ファンタジー・オンライン

通称BFO。

国内でも有数の有名ネットゲームだ。ジャンルはMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)だ。

このゲームは簡単に言うと剣と魔法のファンタジー世界のフィールドをプレイヤーがメイキングしたキャラを使い、縦横無尽に駆け巡り、クエストをこなしながらキャラを強くしていき、最終的には高難易度ダンジョンを踏破していくというゲームだ。

勿論、ダンジョンの最奥にはレア度激高の武器や防具、アイテムなどが眠っている。


このゲームのキャラには多くの職業(ジョブ)というものがあり、職業(ジョブ)によって使える攻撃行動、魔法などが差別化されている。

多くのネトゲにありがちな、ナイトとか、ウィザードとかのアレだ。


しかし、どのゲームにもやはり定石(セオリー)というものが存在する。

このゲームの定石(セオリー)とは……


物理火力職によるゴリ押しだ。


既にどう考えても糞ゲー臭がするのだが、これは事実だ。

何故なら、現在最高ランクの難易度を誇るというダンジョンの最奥にまちかまえるボスが、なんと魔法耐性MAXというぶっ飛んだステータスをしており、魔法職による攻撃の一切を無効化するのだ。

この重大な初見殺しによって運営への批判が殺到した。しかし、ボスのステータスは変更されることは終ぞなかった。

これによって満足に攻撃が可能なのが物理職に限定されたのだが、このボスの攻撃、一撃食らうとどんな職業(ジョブ)でも即死するのだ。しかもボスとの戦闘ステージは蘇生禁止空間ときた。

つまり、ここで治療職(ヒーラー)が完全に死んだ。

確かに、物理火力職のみでも踏破は難しい。しかし、それ以外の職業(ジョブ)の奴が来ても邪魔なだけなのだ。

そして俺はこのゲームの最初期から魔法火力職であるメイジ系統の職業(ジョブ)を使い続けていたため、このゲームに対するやる気を完全に失ってしまったということだ。

だからいつもの様にネトゲの画面に入ってもやることがない。


「はぁ……どうすっかなぁ……」


俺は手持ち無沙汰になって適当にゲームの職業(ジョブ)紹介ページに飛んだ。

そこには初期から選択可能な職業(ジョブ)の説明が書いてある。


俺はこの説明欄の何に惹かれてメイジなんて選んだんだ?

ここで俺がソードファイターを選んでいれば……。

ああ、クソッ!思い出しただけでムカムカしてきた……!あのクソ運営め!今までいくらつぎ込んだと思ってやがるんだ……!


俺はやり場のない怒りに苛まれた。勿論キーボードに当たるという選択肢もあったが、替えのキーボードがないし、何より勿体無い。


「はぁ……。サブ垢でもやるか……」


俺はサブ垢のキャラを使用してゲームをすることにした。

しかし俺のサブ垢キャラの職業(ジョブ)治療職(ヒーラー)であるビショップなのだ。

治療職(ヒーラー)はこのゲームでも最大のオワコンとされる職業(ジョブ)だ。

初期職のノービスから転職し、一次職のクレリック、そして、ビショップ、プリースト、カーディナルと職業(ジョブ)ランクが上がっていく。


昔は「最弱職極める俺かっけ〜」とか思ってたんだよ。しかし、ビショップまで上げたところで辞めた。なんだよ、文句あるんのか?程度の違いはあれネトゲプレイヤーなんてこんなもんだろ。

モンハ○でどう考えても双剣使ったほうが効率良いのに笛使っちゃう奴と同じだよ。で、あまりに扱いが難しくて双剣に戻る、と。


要するに治療職(ヒーラー)は玄人向けの職業(ジョブ)なのだ。

状況把握能力に長けている必要があるので、必然的に地雷プレイヤーの多い職業(ジョブ)となる。だからわざわざこの職業(ジョブ)を使う奴は少ないのだ。

まぁ、俺は効率度外視で遊ぶためだけにこのキャラ作ったんだけどな。笛使う奴もそんな感じだろ?


「はぁ……。本当もうマジ最悪……。治療職(ヒーラー)が最強職になれば良いのに……」


その時、画面が光り輝いた。


「うおおっ⁉︎な、なんだ⁉︎」


画面から発生した光はゆっくりと俺を包み込んだ。


不意に身体を襲う謎の浮遊感。


「うおおおおおああああ‼︎」


絶叫系の苦手な俺はそれはそれはデカイ声を上げた。


そして気が付いたら俺は見たこともない街に立っていた。


「なっ……⁉︎ここは……⁉︎」


いや、正確には見たことがある。それどころか自分の家の近所よりも馴染みが深い場所だった。


そこはなんとBFOにおいて自分のキャラが拠点にしている街そのものだったのだ。


「嘘……だろ……?」


俺は周囲を見渡した。もしかしたらネット上で知り合った友人がいるかもしれない。しかし、知り合いっぽい奴はいない。

当然だ。俺は今サブ垢なのだ。知り合いは専ら高難易度ダンジョンに潜って中々出てこないしな。

取り敢えず状況を把握する必要がある。俺は適当な通行人を見繕って話しかけた。


「あの……、コレってどういうことですかね?運営が何かしたんでしょうか?」


俺が声を出そうとしたら別の奴が俺の聞きたかったことをそっくりそのまま代弁してくれた。そうそう、それが聞きたかったんだよ。

しかし、男は訳が分からないと言った雰囲気(フルフェイスの兜を被っているので表情が読めない)で肩をすくめるように言った。


「運営?何言ってんの?何かあったのかい?」


え……?


運営という言葉を知らないなんてありえないだろ。

初心者ならあるかも知れないが、俺が話しかけたのは重厚な鎧に身を包んだパラディンナイトの男性だ。このゲームで4次職業なんてどう考えても廃課金厨だ。

一体どういうことなんだ……?


「ところで、君もしかして駆け出し?何だったら手伝ってあげようか?どうせ俺は暇だし」


男は俺に感じた違和感を意に介していないようでそんなことを言い始めた。

何言ってんだこいつ……?

初心者を助けるなんて時間の無駄だろ……。そんなことしてる時間があったらどっかダンジョン行けよ。てかアンタはこんなとこで何してんだよ。


「キミ、可愛いし。一人じゃ危ないよ?」


鎧で顔が見えないが、何だか照れたようにそんな事を言ってくる。

コイツ……ガチホモか……。

確かに俺は細身で線の細い顔立ちをしているが、本当のゲイと遭遇したのは生まれて初めてだ。マジで怖い。

男は更に俺に近づいてくる。


「君、名前は?俺と一緒に行けば安全に狩りが出来るし……あ、ちょっと⁉︎」


俺はダッシュで逃げた。


---


「はぁっはぁっ!何だ……アレ……アレがガチホモか……怖えぇ……」


俺は息を切らして裏路地にもたれかかった。


って、ちょっと待て。

俺の声……何だか高くないか……?

走ってて気がついたが、何だか妙にひらひらした服着てるし……。


いや、まさかな……。


多分俺は疲れてるんだ。こんなに走ったのは本当に久しぶりだったしな。うん。


その時、俺は見てしまった。

そばにあった水たまりに映った自分の姿を。


「な……、こ、コレが……俺なのか……?」


そこに映っていたのは俺の顔ではなく、全く知らない美少女の顔だったのだ。

いや、全く知らないわけでは無い。寧ろよく知っているとも言える。

俺がペタペタと顔を触ると、水たまりに映った女の子も同じ様に驚いた表情で顔をペタペタと触る。


「コレって……、まさか……《マリ》か……?」


《マリ》とは俺のサブ垢キャラのCN(キャラネーム)だ。

俺はサブ垢でネカマをやっていたのだ。何だよ、ネトゲプレイヤーなんて誰だってやってるだろ。


やっと違和感の正体に気がついた。

自分の着ているフリフリの服。高い透き通るような声。そして、流れるような黒髪に、澄んだ青い瞳。スッと通った鼻筋。

全てにおいて俺の好みな見た目をしている。俺の顔が。


コレは俺自身がメイキングしたキャラなのだ。俺好みで当然だ。


さっき俺の代わりに喋ってくれたと思っていたが、アレは俺か!


「おいおい……マジかよ……」


これが現実に起こってていいのか?いや、起こってていい訳が無い(反語)。

夢だと言われたら信じてしまいそうだが、本当に現実に起こってしまっている。

俺の息切れした心肺機能が、ガクガク震える足が、そして今俺の出した声が、現実であることを如実に伝えている。

俺はどうやら……BFOの世界に最弱職(ヒーラー)女性冒険者マリとして転移してきてしまったらしい。


「は、はは……」


俺は半分絶望して地面にへたり込んだ。

楽しんで頂けたでしょうか。

本当は結構前に連載するつもりで書いていたのですが、連載とかマジ無理な状態なので短編として載せました。

連載するのなら主人公はこのゲームのガチ勢という事で、知識チートな状態です。と言う訳で、そういう路線でやっていく事になるでしょう。やるのなら、の話ですが。

あと、主人公は精神が男で見た目が美少女なので恋愛話書くのが難しそうですね。

あと、タイトルで内容を端的に書いてしまってるんですよね。まぁ、連載するつもりでつけた題名ですし、仕方ないですよね。

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