表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

18 エピローグ

 アパートの入り口を、掃除している女性はふと誰かに気付いて声をかけた。


「横溝さん」


 最近娘を病気で亡くし、ふさぎ込んでいた彼女は大家に気付くと笑みを浮かべた。


「大家さん、おはようございます」

「おはよう。少し痩せたかい? ちゃんと食べてる?」


 仲の良い母娘を見ていただけに心配だった。けれども大家の言葉に、いつになく朗らかに彼女は返した。


「大丈夫、元気ですよ。昨日、娘が夢に出てきて」


 痛ましげに大家が眉をひそめると、彼女は首を振った。


「あら、やだ。そんなんじゃないんですよ。あの子ったらいつものように馬鹿みたいなことばっか言ってて」

「咲ちゃん、未来型変形ロボになるって言ってたもんねぇ」

「あはは、そうなんです」


 抱きしめた感覚を思い出すかのように、彼女は手を開いた。


「100年の人生なんてほんの一瞬だから、死んだら会いに来てよって言われちゃいました」

「……そうねぇ、あの子は、お母さん孝行な子だったから」


 大家は彼女の言葉に頷いた。きっと彼女の会いたい気持ちが、娘を夢に見たのだろうと思った。それで前向きになれるのならとても良いことだ、と大家は彼女に微笑んだ。

 彼女もまた、大家がただの夢と受け止めて聞いているのは分かっていた。娘が別人の姿だったことも、異世界と言っていたことも言おうとは思わなかった。

 ただの夢じゃないことは、彼女だけが知っていればいいことだ。そう思って笑う。


「だから、元気に暮らさなきゃ。あの子に申し訳ないですもんね」


 じゃあ、と笑顔で去る彼女を見送った大家は、ふと空を見上げた。


「……あれ?」


 緑の眩しい夏。日差しは強く、アスファルトに照りつけていた。

 そんな中、空からひらりと、薄いピンクの花びらが落ちてきたのだ。


「……どこか、花でも咲いていたかしら?」


 ところが周囲の木々は青々として、花の咲いているようなものはなかった。その花びらは、捕まえようとする大家の手を避けるようにふわりと地面に落ちて。

 夢か、幻かのように消えてしまった。


「見間違い、かしら」


 箒を持った大家が首を傾げて、掃除を再開するときに。

 誰にも見つからずに、空からまた小さな花が風に舞って落ちてきた。

 薄いピンクの、桜の花が。


 ――どこかから、ひらりと。











<クマ執事と魔法の使えない少女 完>



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ