表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/104

女優のサイン会

      女優のサイン会 


 二〇一五年の五月末、友人タカオとつぼみのサイン会へ行った。つぼみとはAV女優。女性は知らないだろうから簡単に説明すると、お嬢さまのような女優だ。セミロングの黒い髪、卵形の輪郭、緩い瞳は垂れていて、小鼻にアヒル系の口元の女性。このようなお嬢のようでも裸になってしまう。

 ぼくはファンというわけではなく、彼女の仕事歴が長いし、画像や動画で知っているだけだった。

 レンタル店では、いまだに上位クラスの人気女優だった。でも自分はお世話になっていなかった。あまりの人気女優では、なぜか敬遠してしまう傾向だった。

 タカオはかなりお世話になったため会いたいらしい。それでぼくに同行を求めたので、おもしろそうだから行くことにした。

 彼はゲームソフトや本体のせどり(転売)を趣味としている。

 古着やゲームなど中古ショップの鑑定団静岡店へ休日には必ず足を運び、そこのチラシで知ったようだった。

 でもサイン会の会場には、つぼみのDVDを買わないともらえない仕組みだった。一枚買うとサイン、二枚でツーショットシャメ、三枚でメイドの格好でツーショットシャメらしい。

 タカオはあらかじめ二枚購入していてサインとツーショットをもらえる。ぼくは買っておらず、姿を見れればそれでいいだけだった。

 ファミレスで食事し、静岡の鑑定団へタカオと向かった。サイン会は十三時から。

 早めに着き、ぼくらは店内を物色する。タカオは当然のようにゲーム値をジッと見ている。ぼくはゲームにはそれほど興味はなかった。

 うろうろしているとある女性とすれ違った。ぼくとタカオはそのまま振り向いた。

「いまのつぼみ?」

 とタカオは背を見ながらいう。

「おれもそう思ったよ。でも目が違うような……」

 ぼくも後ろ姿を目で追っている。通常ならマネージャーと一緒だろうから違うだろう。でも黒髪のセミロング、卵型、小鼻にアヒル口で白のフリルのミニだ。偽者ならわかるけど。

「タカオ、たぶんさそっくりさんで、追いかけているんじゃないか?」

「女がAVを?」

 タカオは首をかしげる。

「んー、レズかもしれん」

 ぼくは想像をすぐ口に出す。

「いや、本物かもしれん」

 それはないとぼくは思う。芸能人だし、ましてAVは危険をともないそうだ。

 そしてその子は本当にそっくりさんだった。

 時間の経過とともにタカオは時計を気にする。ぼくはプラモデルコーナーを見ていた。メーカーはタミヤやアオシマ? バンダイ、フジミ? と。そこでフジミってどこだろうとプラモを手にもとると目を見開いた。タミヤは静岡に本社があるのは知っている。そのフジミ模型はぼくのアパートの近くにある、あのフジミ模型だった。

 そこは工場も小さく(すいません)、よくアルバイトを募集している。まさかあそこがメーカーだったとは。フジミのプラモの数もたくさん並んでいる。帰りにタカオに工場を見せると伝えた。バンダイも静岡に工場がある。それも知っていたが、アオシマはどこだと手に持つと、これまた静岡だ。

「タカオ、もしかして静岡ってプラモで有名なのか?」

「そうだ、知らなかったのか?」

「タミヤがあるからわかるけど、でもここに置いてあるのはほぼ静岡のだな」

「静岡は模型では有名とテレビで見たことがあったから」

 といっていた。ぼくはあらためてこの街に少しばかり感心する。

 そして会場の一階へ向かった。すでに十人以上は並ぶ。

 ぼくも一応並んだ。ここにいる男はみんなつぼみをネタにしたのだろう、とにやにやしてしまった。

 時間の経過とともに男性が次々と並んでいる。まるでAVではなくアイドルの握手会の雰囲気で、みんな友だち同士話しながらだった。

「タカオ、あの女だ」

 耳元でささやくと、ぼくらの前を通った。並んだ男性がみんな目を丸めて見ていて、よだれを垂らしている男はいなかった。その子は見られているという雰囲気があり、モデルのように歩いていた。

「やっぱ偽者だったのか。あっ、並んだぞ」

 紅一点、その女性が列に着く。

「つぼみの追っかけかな?」

「そうだよ」

 と勝手な予想を立てていた。そして一時になり整理券の確認が始まるとぼくは列を離れた。鑑定団内で時間をつぶし、またここへ戻ることを彼へ伝えた。

 店内を二十分ほどうろつき、戻るとまだいない。十番くらいだったのにまだか。

 ツーショット写真が多いのかもしれない。そうなると一人ずつになり、まして三枚の購入者ではつぼみの着替えもあるので時間が掛かる。

 また店内をうろつき、何度も通ったところを十分ほどうろうろと。

 戻るがまだいなく、だんだん疲れてきた。たばこを吸うベンチに腰掛けてジュースを飲む。そこで客たちはスマホをいじりながらタバコを吸っている。ぼくはたばこをやめたし、スマホの電池もファミレスで切れているので、ただジュースを飲むしかない。

 飲み干して戻るとまだいない。また二階に向かうとタカオがいた。

「おお、待たせたな、ちょうど二階に来たとこだ」

「そうだったか、それでどうだった? シャメ見せて」

 タカオはスマホをいじる。

「ばか緊張したよ」

 つぼみが腕を組み、緊張する顔がおかしかった。

「よかったじゃん、これなら彼女だといえるよ」

「ハハハハ」

 と笑っている。

「例の女はどうした?」

 ぼくは気になった。

「いや、それがまったくわからない」

「うしろのほうに並んでいたのが外から見えた」

 タカオと一階へ向かう。

「あの子とのシャメも欲しいんだけどな」

「えっ?」

 ぼくは吹き出しそうになった。

「あれはなかなかいい女だ」

「それはわかるが……じゃさ、あの子の出待ちして声掛けてさ、いいといったらおれが撮ってやるよ」

 それを聞いたタカオはジュースをおごるといった。

 そしてぼくらはつぼみの偽者を待った。

 三十分ほど待ったら出て来た。だがなんと、ほかの男達数人も追い掛けた。

「なんだ、偽者の出待ちがこんないたのか」

 ぼくとタカオも追いかけると、若い三人組が声を掛けて話していた。その子の前にはぼくらをいれて十人ほどいる。遠目で見ている男も何人もいた。

「やっぱ狙われていたんだな」

 タカオにいうが、その子を凝視してうんともすんともいわない。

 すると三人組はツーショットシャメを了承してもらった。タカオもすかさず、次お願いします、と。

 これでは偽者もタレントだ。

 そしてタカオの番になったので、シャメを撮ってやった。

 ぼくがインタビューしてみると、年は二十二で静岡に住むようだ。

 知人からつぼみに似ているといわれ、自分で調べるとかわいかったのでファンとなったという。

 去年は東京で開催した「つぼみ祭り」に行き、やはり男性から似てるといわれ、シャメをばしばし撮られたようだ。

 若い三人組はラインの交換をしている。タカオもそれを見ていた。

 ぼくはそこまでやらなくていいのにと思った。本当はタカオもやりたいのだけれど、そこまでいえない様子だ。

「こんなおっさんだし、シャメでいいよ」

 といっていた。しかし女性アイドルに女のファンはわかるけど、AVにも女のファンがいるのかと感心もした。それも勇気のある子だ。男百人のなかで、偽者のつぼみが一人。まるでAV志望なのか。

 その子もお嬢さまの格好だったので、普通の女優でも当然通じる。

 話せばごく普通の真面目な女性で仕事もしているようだ。落ちはないけど、五月末はこんな日だった。 ただフジミさんをタカオに見せると『えっ、これが?』と目を丸めた。

 肌色のブリキ壁、数個ある小窓にはタオルが掛かっている箇所もある。三階建てであるがぼくの年令に近そうだ。正直、立派な工場とはいえないという驚きではないか。タカオは後味を残して帰って行った。その後は焼酎のお茶割りを飲みながら、その日をひとりにやにやとしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ