野口のモデルと会う
取材ですといまではICレコーダーなどで録音しますが、そんな高等な物はなく、ラジカセを持っていきテーブルに置いて録音しました。じろじろ見られましたが気にしないで会話しました。
野口のモデルに会う
三十七歳のころ二十二年振りにぼくが思う野口のモデルに会った。
さくらの漫画『ちびまるこちゃん』を見ていると毎回登場してくる『野口さん』という登場人物がいる。それは独特のキャラクターだ。スーと突然登場してきて『キッキッキッキッ』と笑ったり、さくらの失敗を陰でバカにしたりと、アニメではかなりインパクトがある人物だ。
『野口さん』キャラの漫画絵を見たとき小、中学時代のYさんだとぼくは感じた。Yは絵とソックリで、あだ名が『のろ』という。野口をひらがなで読むと『のぐち』だが、よくよく漢字を見ると野口の野はひらがなの『の』で野口の口をカタカナにすると『ロ』になる。それを組み合わせれば『のロ』になり、Yのあだ名と一致する。
小、中学時代の友人に聞くと、やはり野口のモデルはYだろうという。
ぼくはその野口さん役のYにいま現在どんな心境でいるのかと、疑問に思い会いたくなった。なんたって人気アニメ『ちびまるこちゃん』の登場人物の一人だ。三十七の野口はどんな感じになっているのか、早速電話をしてみた。
するといきなり野口が出た。ぼくの直接電話に少し戸惑いもある。
自分も久々に話せたせいか、緊張気味だ。そしてYに少し話しを聞きたいので食事でもしながら会えないかと切り出すと、あっさり『いいよ』といってくれた。小、中学時代のYの性格はおとなしく、控えめな感じの女性だ。そのためぼくが食事に誘うことなど断られると思った。あっさり『いいよ』との返事に満面の笑みを浮かべてしまった。
一週間後、野口家の近所にあるファミレスで待つ。そして野口が現れたとき、中学時代と変わらない感じで、やはり野口さん役はYだと改めて思った。
野口は小、中学時代の性格とは少し変わり、結構話しをした。まずお互いの近況を話したあと、ぼくが聞いてみたいことを質問する。
(はまじ)小学、中学時代のさくらももこが漫画家になったのを知ったのは?
(野口)テレビでアニメが始まる以前に女性雑誌にさくらさんが出ていて、漫画家になったんだと知った。
(はまじ)そのときどう思った?
(野口)もう、すごいなっていう感じ。漫画を描くとは知らなくて、あのさくらさんがーと驚いた。
(はまじ)ちびまるこの登場人物をどう思った?
(野口)実際にいる人と架空の人もいるようだね。
(はまじ)その登場人物で『野口さん』とはYだとわかった?
(野口)ちびまるこのアニメ漫画を時間的にあまり見なくて、まったくわからなかった。昨年、浜崎くんがFMラジオで漫画での実際にいる登場人物を話していたのをたまたま聴いて知った。
(はまじ)『野口さん』の部分で『のろ』というあだ名といったとき?
(野口)そう。そのとき初めて私は『野口』なのかと思った。だけどさくらさんから直接にいわれていないからよくわからない。
(はまじ)アニメ漫画の野口さんの絵は似ているよね。
(野口)まあそうかなー。だけど『キッキッキッ』とはいわないよ。
(はまじ)漫画の『野口さん』はお笑い芸人が好きらしいがYさんもお笑い芸人が好きなのかな?
(野口)んー。すごく好きというわけではないが、ダウンタウンが好きだね。
(はまじ)そうか、そうなると漫画と似ているかもしれない。ほかに芸能人はだれが好きかな? 食べ物もなにが好き?
(野口)歌手はスマップが好きで、中居君と草なぎ君が好き。食べ物はお寿司が好き。
(はまじ)スマップとは少し驚いた。ぼくもそのようなモー娘。が好きなときがあった。ところで友人や知人にYさんは野口さんではないかといわれたことがあるの?
(野口)いわれたことは一度もなかった。ただ、さくらももこさんとは同級生だったと同僚などにいったことがある。
(はまじ)Yさんはさくらと小、中学時代、同クラスはいつ?
(野口)小学三、四年だけかな。
(はまじ)そんなもんだったか? 小学三年は戸川先生だったよね。厳しかったよね。
(野口)厳しかった。実は戸川先生は中学、高校の先生だったらしいよ。
(はまじ)えっ!(驚がく)
(野口)中学、高校を経て入江小学校にきたらしい。そんな話しをきいた。
(はまじ)それは知らなかった。当時の三年四組の生徒は知っていたのかな、そんな過去は知らないよね。
(野口)多分ね。
(はまじ)ぼくの小学三年時代を覚えてる?
(野口)プール場から脱走したことや学校来なくなったことしょう。
(はまじ)そうそう、毎日が嫌だった。戸川先生が怖かった。でもいまでは水泳が趣味になっている。
(野口)すごい変わったね。
(はまじ)自分でもなんとなくすごいと思っている。あんなに嫌いだったのに……。あとぼくが本を出版したのは知っていた?
(野口)FMラジオを聴いたときに知った。浜崎くんも凄いことやると思った。
(はまじ)じゃあ、そのときのラジオでYさんが野口のモデルだったことと、はまじが本を出したこと二つを知ったんだね。
(野口)そう。棚に陳列しているときにラジオではまじが出ているのでビックリしていたら、もっと驚いた話しをしてくれた。そんな感じだった。
(はまじ)そうだよね。(笑)ぼくが逆の立場だったらビックリだもん。Yさんはいまなにをしているの?
(野口)スーパーの店員。
(はまじ)前も風の便りで聞いたことがあるし、ずっとそうだね。
(野口)だけどいまのところは二店目。
(はまじ)高校出てから二つしか仕事を変えてないんだ。ぼくなんかと違って根性があるよ。
(野口)たまたまいい上司に恵まれたから。
(はまじ)さくらにいいたいことはある?
(野口)えーと、野口のモデルは私なのか知りたいことかな。
(はまじ)あっ、それいいよ(笑)知りたいとこだね。公認になれば堂々と『私は野口です。キッキッキッ』とモノマネでデビューとか。
(野口)それはない。(笑)
(はまじ)最後にぼくになにか質問ある?
(野口)じゃぁ、浜崎くんは結婚していますか?
(はまじ)えー、してない。
(野口)一回も。
(はまじ)一回もしてないし、多分しないと思う。やだなーこの話しはしたくなかった。(笑)では今日はどうもありがとう。
(野口、話をはぐらされた感じと思い)いえいえ。おもしろかったよ。
(はまじ)本当、また電話でもするよ。じゃあまたね。
と『野口さん』のモデルYは帰って行った。二十二年振りに会っても見かけはあまり変わらない彼女だった。それにしても戸川先生話しには目が飛び出しそうだった。それで小学生でもあれほど厳しかったのかと。
自転車での帰り道、ぼくは思わず野口のマネをしたくなった。
「キッキッキッキッ」
この会話は取材ということでテープから起こしたので本物だ。その原稿があったので載せた。もう取材はないだろうし、そんな彼女をレジで見掛ないかもしれない。最後の原稿と思う。野口よ、元気でいてくれ。
この会話は『はまじと九人のクラスメート』(徳間書店)というエッセイに抜擢しました。市立図書館で借りれますので、そちらのほうもご覧ください。
野口はまだスーパーのレジにいそうです。