花見
花見
花見を知ったのは十七歳の時だった。友人に花見をやらないかと言われたことからだ。
「花を観たって面白くないじゃん」
と言ったら、友人は花見とは桜を観ながら食事したり、酒類などを飲んだりするのだと言った。僕は昼間から堂々酒を飲んでいいのかと聞いた。友人は花見の場所では昼間から酒を飲んだり、歌を唄っているよと言う。
それは面白そうだと、誘いに乗った。東京に住んでたので、場所は花見のメッカ上野公園でやることになる。
友人は春休みを利用し、二人上京して来た。計三人で決行するのだ。
僕のアパートで桜の様子を気に掛けたり、雑談などをしたあと出発した。四ッ谷の中央線から山手線に乗り継いで、上野駅で降りた。
まず弁当を駅前で買い、酒を買うため酒屋を探すが駅前に中々ない。少し歩き五百メートル先に小さな酒屋がやっと有り、そこで日本酒一升ビンを割り勘で買った。
上野公園に着いたら屋台で一合ずつ売っていた。だけど割高だったので僕らが正解。
平日の午後二時ごろなのに結構人々がいる。初めての公園内は大きくて広い。さすが上野公園だ。場所は、花見を行っている集団の近くに決めて、三人の花見が始まった。 弁当をつまみに酒を飲んでいた。僕らは有名な上野公園で花見をやってるんだと話したり、花見のメッカなんだと、自分達は上野公園での花見を自慢していた。そして、この場をお巡りさんに見つかると補導されるかもなと、話しがでた。
友人らは高校を聞かれたら『僕らは三人で住んでいる』と言うことにして、余分な事はしゃべらず黙秘しようと、一致団結した。
時間が経ち酔いも回ってきた。突然、変なオヤジが乱入して来た。僕らは質問攻めにしたがオヤジは何を言っているか解らない。
「オジサン、一体何なんだ」
と苛立った。このオヤジ僕らの酒を二杯飲むと立ち去り、他の所でも酒をもらっていた。多分、あのオヤジはルンペンだろう。
しかし、僕達はそのオヤジのことを言えない。結構酔ってしまい、近隣の所に乱入していた。そしたら、お前らかなり若いなと言われたり、未成年だろなど言われてたがとぼけていた。その人達は四十歳代で、会社での花見である。僕らは一杯ずつお酒をもらい、似てない物まね芸で返した。
その時、花見とは入れ替わり立ち代わり人が乱入するのを、当たり前なのかと三人は思っていた。まあ、僕らは三人だけだからオジサン達も乱入しやすかったのだ。三人とも、初花見で本場のすごさを味わっていた。
時間がたち友人一人が寝てしまい、僕ともう一人もベロンベロン状態であった。もう限界で六時ごろ帰ろうとなり、千鳥足で山手線に乗った。丁度帰宅ラッシュで酒臭い若造だとサラリーマンは思っただろう。
そして、アパートに帰って来たら三人とも一斉に寝てしまった。こんな感じで僕ら十七歳時の花見デビューは終わった。
それから二年後、十九歳時に花見をやった。地元清水の花見といえば船越公園だ。
前日に場所を取りに行き、あらかじめ作ってあったプラカードを立てる。ビニールテープで場所を囲い、未成年の癖に本格的に取った。プラカードには『〇×運輸・飲酒の会』と書いてある。会社ぽい方が良いかと思い書いた。
当日は、上野より人は少なく穏やかな花見の感じだ。僕らは五人で酒を飲み盛り上がり、そして乱れだす。通りがかりの女性に声を掛け冷やかしたりもしていた。
この花見は二十歳の時も行った。この時の花見メンバーにカニエイを誘えなかった。
すると怒った。
「ずるいぞ、なんでオレを誘ってくれなかったんだ!」
と言っていた。僕は、
「家に居なかったじゃん」
「じゃあ今度の日曜日に二人でやろう」
とカニエイがいう。僕は驚き、
「えっ、二人で?」
そして、当日は雨。カニエイの家に行き、
「この雨で花見やるのかよ?」
するとカニエイは、
「今日やんないと桜が散るから、雨でもやろう」
雨の中船越公園まで自転車で行き、現場に着き早速、新聞紙を敷き傘をさして、樹氷ウオッカのコーラ割りで花見がスタート。
傘での花見は当然、僕ら二人だけでだれもいない。時折、犬の散歩のおじさんが笑って僕たちの前を通る。
「なんだこの花見は」
と僕が言うとカニエイは、
「しょうがないじゃんか、オレが行けなかったからだ」
雨のなか傘で花見とは、さすが清水仮想大会で『土人と牛』を演じ二位の実力コンビだ。
徐々に酔ってくるといい気分になり、話しも楽しくなる。新聞紙を敷いて座っていたが雨で意味がなく、下半身はビショビショだ。だが酔っていたため、気にならなくなっていた。雨も時折強く降ったが、僕らのパワーが雨なんか関係ねえと強気になっていた。
樹氷とコーラもほとんどない。雨のなか二人だけがベロンベロン状態で、とうとう限界になり終了。帰りは傘なんかささず、濡れながら自転車で帰った。途中、僕は二回滑って転んだ。
その後、この二人の花見は度々行った。
印象に残っているのは、カニエイ家にはカラオケ機材あり、それを持って行った時は面白かった。チェッカーズや訳わからない演歌を下手くそで歌った。
まわりの人らは僕らに注目してた。アイツら二人のくせにすごいな、という感じで見ている。
僕はピアニカを持って行った時もある。曲は高中正義のキーボードソロだけだ。近隣の衆になにか演奏してみろと言われ、高中のキーボードソロをやったらなにもウケなかった。
あと、知り合いにも会う。
「たった二人で花見?」
僕らは余計なお世話だと思った。二人でもパワーが有り、十人分の盛り上がりをまわりに思わせていたからだ。まわりから観られれば観られる程、テンションも上がる二人だった。
近年の花見、カニエイは僕が誕生日にあげた安物のフォークギターを持参してきた。
過去の花見時、三味線を弾いていたおばさん達がいたから持ってきた。カニエイはその三味線おばさんに弾き方を教わっていて、得意げに高中正義の曲を弾いていたが、キーが合っていなく僕はウケていた。
フォークギターを持って来たはいいが僕らはなにも弾けず、エレキギター的に弾いていた。そんな時、通り掛かりのオジサンが、
「ちょっと弾かせて」
と言ったのでカニエイは渡す。オジサンは『湯の町エレジー』という曲を上手く弾いていた。僕たちは、ア然として聴いていた。あまりの上手さにアンコール。そしてカニエイはオジサンに曲のイントロ部分を教わり、酔っているわりにくり返し練習をしていた。何度も弾いていたらイントロだけだが上手くなり、得意げになっていた。
せっかく覚えたので流しをやろうとなり、二人でウロウロする。ギターを持っていたため、結構声が掛かり、僕が司会をやり、カニエイがイントロだけ弾いておしまい。『歌がねえぞ』などヤジが飛んでいたが、慈善だからと言って立ち去った。一杯くれるとこもあったけど、ほとんどはない。そんなことで仕舞いに限界がきて終了となる。
こんな感じが、印象深い花見のエピソードであった。今後も花見は行うと思うが、そろそろムチャをしない程度でやって行きたい。そして、上野公園でもまた行ってみたい。