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高校受験とT高校

高校受験


 中学を卒業すれば高校への進学は当たり前だった。

 ぼくはバカなのでどこに行けるのかと思っていた。坊主頭ではないところにしたい。中一で覚えたオ〇ニー。彼女が欲しいしセッ〇スもやりかった。高校も坊主では女に持てないと確実に思っていたからだ。

 担任は志望校の提出をクラスメートにいった。第一志望は県立農業高校、第二志望は私立島田学園、第三志望は私立静岡北高校とこんな感じを提出した。すると怒られた。第一志望の農業高校土木科は東海テストでわかったが定員は四十名。テストの結果は四十位だ。

これなら入れるのではないかと思う。

「……なぜ土木科なんだ?」

 と担任は聞いてきた。

「義父の仕事がそんな感じだったので、ぼくも継ぐのかと思いました……」

 担任はあきれた顔をしている。

「ダメだ。第二、第三志望もダメだ」

「ぼくはそこがいいんですけど」

「だからダメっていってるんだ!」

 と、声を上げたのでクラスじゅうに響いた。ざわついていた教室はその声で黙り、みんなは先生の机の横に立つぼくを見ている。

 なぜこんな大声を出すのかとそのときは思った。だが、よく考えれば進路だ。担任はしっかり受かる高校へ入れたかったようだ。

「いいか浜崎、四十人中四十位でも農家ならわたしも推薦する。でも違うだろ。それに実際はもっと受験するんだ。東海テストをやらない学校もあるしな」

「えっ……」

 そんな学校もあるのかとがっかりした。

「だからわたしはここがいいと思う、T学園T高校だ」

 それを聞いたとたん、肩を落としてしまった。現在のT高校といえば男女共学で坊主頭ではなく長髪、制服はブレザーでスポーツの盛んな有名高校となった。いまならぼくから志願したいくらいだ。

昭和の当時はツルピカの坊主で海軍のような制服だった。毎日パンをもらいに来るカニエイとバカにしたことがあった。『あの高校だけは行きたくない、ツネピカハゲマルだしまるで軍人だ。絶対女に持てないナンバーワンだな』と。

 そこへ行くように勧める。それだけは勘弁してもらいたい。

 ぼくは志望校の再提出を告げられていた。第一志望にT高校と直筆で書けという。第二、第三ではダメで、第一へ書かないとならない。

 T高校など書きたくない。ぼくは提出ギリギリまで書かなかった。

そのころワタと口を聞いていない。というかブラバンをやめて以来、話していなかった。だれか相談者はいないかと思っていた。ちなみにニモネニもT高校を宣言され嫌だといっている。なら同レベルのカニエイはどうかと、隣の一組へ向かった。

 入り口でカニエイを呼んだ。

「カニエー」

 重低音のやつと一緒に笑っている。あの表情ならT高校ではないだろう。

「どうした?」

 廊下に出て話す。

「志望校の提出どうなった?」

「兄貴が行った静岡北高と書いたんだが……」

「そうだった、兄貴そこだったな」

「だがダメっだった……」

 とため息を吐いた。さっきの笑いはなんだったのか。

「で、どこに行けといわれたんだ?」

「ぜってー行きたくねーとこだ」

 それを聞いてわかった。それならニモネニ、カニエイがいるのかと、少しはいいほうに考えるしかないか。

「ツルピカハゲマルかー、ハハハハハハハハ」

 そのときは笑ってやった。あれだけバカにしたからだ。人生とはわからない。自分がそこに行くはめになるのだから。

「ババはどこだ?」

 とぼくの耳を触る。中年になってもそうだが、中学からぼくの耳を、芸術的な耳、といい度々触る。まったく意味不明な男だ。

どこが芸術的と聞くと形がいいらしい。

「ハハハ、まだ提出していないが」

「どこ書くだよ、T高校にしろ。おれも行くし」

 このときばかりは参った。T高校は絶対に入りたくないベストワンだっただろうと。

「んー、考えとくよ」

 といい、二組に戻った。席に座るとカバンから志望校の提出用紙を出した。そして第一志望へT学園T高校と書いてしまった。

さっきカニエイの前でバカにしたのに自分もそこだ。今度は彼に笑われる番である。

 その日が提出期限で放課後、提出すると担任も肩の荷が下りたようだ。なぜならぼくだけ提出していなかったから。

 部活を引退したので、なにをするのかといえば、ゲーセンだった。

志望校がツルピカでは当然やる気も失せていた。カニエイにT高校を受験すると伝えると、なぜかそれほど笑わなかった。受験が近づいているからだろうか。

 ニモネニやカニエイ、ぼくとバカ組みは本当にバカで一緒に遊んでいた。

 そして私立高校の受験日が近くなった。面接の練習をしたり、模擬試験も渋々受けていた。

受験日前日、その日だけは友だちと勉強した。

 でもニモネニとカニエイは遊んでいる。ある日カニエイはいった。

「おれさ、考えたんだ。試験落ちれば行かなくてすむじゃん、その作戦はどうだ?」

 なんてことをいう。それでは相当なバカと思われるのではないか。

「でもそこを落ちたら、カニエイがバカにされるぞ、いいのか」

 カニエイ自体、人をバカにすることを生業にしているような人物だ。ぼくの家族の実情を話すといつも笑っている。それに歌まで作るような男だ。

「いいよ、定時制に行く」

 そういった。いまは通信校や定時制はざらだが、その時代は事情がなければそうそう行かなかった。

「えっ、定時? 夜だぞ、働くのかよ」

「わからんけど、翌年にまたどこか受験する手もあるし」

 定時に行くことになるより、いままで散々バカにしたT高校を落ちれば、卒業までの残りの日々をひそひそとバカにされるだろう。

カニエイの悔しい表情を浮かべたら、ぼくはニヤニヤしてしまった。心のどこかで彼を大げさに罵りたかったのかもしれなかった。

 結局カニエイは白紙で出さずに受けていた。

 そしてT高校を受けた生徒は校長室に呼ばれた。結果は全員合格。

ぼくはいくらT高校でも喜んでしまった。カニエイを見ると無表情。心底行きたくなかったのか、そんな感じがする。

 その後思いがけないことを知った。T高校の入学式は全員五厘らしいことを聞いた。それは女子生徒の兄貴がT高校で、そういっていたという。果たして真偽はいかなることか。


中学卒業と春休みと高校入学


 卒業式を終えれば、長髪に伸ばせるのが普通と思っていた。高校も坊主になれば確実に女に持てないだろう。合格したうれしさは瞬く間に過ぎ去り、日々がっかりとしていた。

 あまり卒業式もうれしくなかった。それはカニエイもそうだったがニモネニはそうでもなく、早くこんな学校とおさらばしたいようだ。担任を嫌う。なぜならニモネニの母は飲み屋を経営している。

そこのウイスキーを盗んだりして、担任に伝えられた。いまならそんな家庭はないだろうが、当時は家の微罪を先生に伝える母もいた。それがニモネニ家だ。

 夏ごろ生徒指導室でピンタを張られ、あごを手で上下に突かれたらしい。そんなことを根に持っていた。さらにタバコを吸ったのも担任から怒鳴られていた。そのことは卒業後に聞き、彼も大変な思いをしたのかと納得する。

 小学校にもいたが泣く生徒は多い。中学なら本当の別れとなるので、泣くのはわかるがぼくは泣けなかった。こういう場合、男子は泣けないのが普通だ。でも泣いている者もいた。それがワタだった。

あれから距離があって話してもいない。六組を見ているとワタが泣いている。なぜだろうと考えた。

 ブラバンを辞めたことの後悔とは思えないし、そんな泣くまでの思い出が彼にあったのか。

 次第に卒業証書授与がぼくの番だった。T高校組のカニエイは終えた。細い目の彼を見ると泣くわけがない。ニモネニはすでに証書を受けとり席に戻った。

 次だ。

「浜崎憲孝」

「はい」

 といい、緊張してステージを歩く。校長に一礼し受けとった。

 これで卒業だ。階段を下りるとき足が震えてきた。なぜだろうと思って席に着いた。すると震えがやんだ。なんだったのか、これで泣けとでもいうのか。横の女子はしくしくとハンカチを目に当てている。

 そして六組の番となり、ワタも受けとった。もう泣いてなかった。

あのときはなにかを思い出したのだろう。ワタは心が優しいときもある。そこでふとなにかを思ったのだろう。

 歌を歌って式が終わった。そして教室に戻ると女子は絶頂の涙を流す。小学生の卒業よりすごかった。

 そして担任も涙を流し解散となった。

 下級生の拍手で正門をくぐるようだ。そのときホルンの二年生Hがプレゼントをよこした。それはなぜかうれしくなり、そこで涙を流せばいい先輩だったのに、出なかった。そして門をくぐって卒業した。なんといってもブラスバンド部が印象的だ。それも一年時代の楽譜の解読、Sさん、ワタ、とそんなこと浮かべながら恵比寿公園を横切ると、目頭が熱くなった。いまごろでは遅いが、これが正直なことだから仕方がない。ぼくは制服の袖で目を拭く。スーパーによっていくという母へ涙を見せたくないので一緒に帰らなくて正解だった。

 そして日々が立ち、T高校の教科書を書店までとりに行き、入学説明会に母と出た。すると入学式まで五厘にすることと書いてあるではないか。やっぱそうだった。なぜ入学式に五厘かと、カニエイと帰りながら罵るのはいうまでもない。

 そして翌日もカニエイの家で不満たらたらでT高校を大いにバカにした。

 だがT高校の実態は凄まじく、入学式に五厘など序の口だった。

中学で坊主を耐えたのに、野球部でもないのにまた坊主なのは男子ならだれでも嫌悪感が抱くはずだ。

 そして入学式前日には五厘にした。当然家族にはニヤニヤされた。

入学式を終えて翌日から高校生活がスタートした。

 一カ月がたち、T高校の凄まじさを列挙する。


・ほぼ男子校だ。女子は音楽科の四〇人だけで、なぜか別の棟だった。一年男子は一一ホームから一九ホームまである。プラス二、三年生の各ホームが加わる。

・毎朝放送による朝礼があり、生徒手帳にある生徒信条を、声を張り上げていわなければならない。(入学当初は生徒手帳を見ながらだが、毎日あるので二週間ほどで暗記してしまう)

・頭髪は一・六センチ以内だ。印のついた専用の定規があり、それを頭髪に当て、少しでも越えるとその場で真ん中を五厘にさせられる。通称センター五厘という。毎週月曜日の朝が風紀検査だが毎日検査のようなもので、長そうな生徒がいると担任が定規で測りその場でセンター五厘にする。いつもバリカンが先生の机に載っていた。

・通学時、街の道や道路に先生たちがときおり立っていて、帽子をとってあいさつしないとセンター五厘にされる。制服のカラーホックを外しているだけでも、『なんホームの名前はなんだ』と聞きメモをとる。そして昼休み生徒指導室に行きセンター五厘にされる。もし向かわなければ大ごとになり、センター五厘だけではすまない。たしか生徒信条を習字の半紙に一〇枚は筆で書くようだった。それにセンターソリンだ。(ソリンとはT字カミソリでセンターを剃られる)

・学校に着くとジャージでも体操着でもない、チャックの着いた学習着に着替えないとならない。制服はなんのためだと疑問も出るが、あまりにも凄まじいためいちいち考えていると頭がおかしくなるので、ただ従うだけだった。

・土曜なのに弁当持参だ。つまり昼食を食べて掃除をし、ホームルームをするので土曜なのに帰りが二時ごろとなる。

・三年間在学する間、一年で四回計十二回T高校指定の竜爪山(標高一五一一メートル)を登らなければ卒業出来ない。登山日に休んだ場合は、春休みや夏休みに担当の先生と登ることになる。

・停学は自宅停学ではなく、学校停学である。内容は朝七時までに登校し、付近の掃除を行う。授業を受けられるわけではなく、花壇の手入れや校舎の壊れているところを修理する。午後は掃除と生徒信条を半紙に何枚も正座で書く。そして五時に帰ることが出来る。休憩を入れたが九時間労働ではないか。

・指定の自転車に乗らないとならない。それはセミドロップハンドルを逆にしてかごと荷台をつけ、センタースタンドを装着。カバンは必ず荷台に縛ること。見るからにカッコわるい。もしかごに入れているのを帰宅する先生に見つかれば、クラスを聞かれ昼休みにセンター五厘。アップハンドルも当然センター五厘だ。毎日一年から三年までの駐輪場を先生が見回り、違反があれば名前でわかる。

・カバンは学校指定のマークの入ったカバンでなければならない。

なぜなら潰せないように鉄の長い枠が入っている。十センチ以上はある。中学のカバンよりだいぶ厚い。鉄をとって潰せば、当然センター五厘だ。

・制帽もあり、こちらも校章のところを潰せないように鉄が入っている。潰せばどうなるかはわかるだろう。それに帽子代も掛かる。

・毎年の学期末には、座禅つきの研修センターに一週間泊まらないとならない。そこから学校に通い、夜はテレビも見れない。当然これをやらなければ卒業は出来ない。


まだあったが思い出すのはこんなところ。これがT高校の実態だ。

中学時代を振り返れば、坊主頭など屁であり、この厳しさは三年間続くので本当に定時制でいいと思った。でも三重県だったかな、もっと凄まじい超S級の全寮制の高校があるのを後から知った。そこへ入った人からすれば、たいしたことはないな、といわれそうだろう。



この時期がぼくの転機だったかもしれません。この時代、全日制高校へ行くことが普通の生徒だった。いまでは単位制高校でも普通になっている。いまの時代のほうが緩くて行きやすいと思います。


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